レイリー・リッツ法

提供: testwiki
ナビゲーションに移動 検索に移動

テンプレート:翻訳直後

レイリー・リッツ法(レイリー・リッツほう、テンプレート:Lang-en-short)は、固有値問題に対する数値近似解法の一つ。レイリー卿ヴァルター・リッツに名をちなむ。物理学上の境界値問題の解法として考案された。

固有値と固有ベクトルの近似をともなう全ての問題に応用でき、分野によってしばしば別名で呼ばれる。量子力学では、系を構成する粒子はハミルトニアンを用いて記述されるが、テンプレート:仮リンクでは試行波動関数を用いて最低エネルギー固有値に対応する固有関数を近似する。有限要素法の文脈では、数学的に等価なアルゴリズムが一般にテンプレート:仮リンクと呼ばれる。機械工学および構造工学では固有振動モードおよび共鳴周波数を近似する手法としてレイリー・リッツ法およびリッツ法という用語が用いられることが多い。

名称

本手法は1908年から1909年にかけてヴァルター・リッツが発表したもので、リッツ法と呼ぶべきであるという主張もある[1][2]。A. W. Leissa[1]によれば、レイリー卿は1911年にリッツの業績を顕彰する論文を書いたが、彼自身が書籍他の刊行物において本手法をすでに何度も用いていたと述べている。後に異論も出たもののこの主張にくわえ、射影に単一ベクトルを用いる自明な場合、本手法はレイリー商の計算に帰着するという事実もあり、異論もあるもののレイリー・リッツ法という名称が現在まで用いられている。S.Ilanko[2]リヒャルト・クーラントを引いて、レイリー卿とヴァルター・リッツがそれぞれ独立に、偏微分方程式境界値問題変分問題の等価性を活用し、有限のパラメータを決定すればよい極値問題で変分法を置き換えるというアイデアを独自に考案したとする。詳細については、テンプレート:仮リンクの項を参照されたい。皮肉なことに、後にこの手法はより単純でより一般的な正射影を用いるよう改良され、テンプレート:仮リンクに名を因んでテンプレート:仮リンクもしくはリッツ・ガラーキン法と呼ばれる。

行列の固有値問題への適用

数値線形代数において、レイリー・リッツ法は一般的[3]にサイズN正方行列AN×Nについての固有値問題A𝐱=λ𝐱の近似解を得るために用いられる。まず、行列Aはより小さなサイズの行列へと射影される。射影は、その列が正規直交系をなす射影行列VN×mにより行われる。行列版のレイリー・リッツ法は最も単純で、以下のように書き下せる。

  1. m×m行列V*AVを計算する。ここで、V*V複素共役転置行列とする。
  2. 固有値問題V*AV𝐲i=μi𝐲iを解く。
  3. リッツベクトル𝐱~i=V𝐲iおよびリッツ値λ~i=μiを計算する
  4. リッツ対と呼ばれる(λ~i,𝐱~i)を元の行列Aの固有値問題の近似解として出力する。

もし、行列VN×mの列を正規直交基底として張られる線型部分空間が行列Aの固有ベクトルに近いkm個のベクトルを含んでいれば、上記のレイリー・リッツ法はそれら固有ベクトルをよく近似するk個のリッツベクトルを与える。各リッツ対の精度は、容易に計算できる量A𝐱~iλ~i𝐱~iにより評価できる。

最も簡単なm=1の場合、N×m行列V単位列ベクトルv、行列V*AVレイリー商ρ(v)=v*Av/v*vと一致するスカラーとなり、固有値問題の唯一の解はy1=1,μ1=ρ(v)、唯一のリッツベクトルはvそれ自体となる。したがって、m=1の場合、レイリー・リッツ法はレイリー商の計算に帰着する。

別の有用なレイリー商とのつながりとして、各レイリー対(λ~i,𝐱~i)に対してμi=ρ(vi)が成り立ち、したがってリッツ値は対応するレイリー商の理論から導かれるいくつかの性質をもつことが上げられる。たとえば、Aエルミート行列のとき、そのレイリー商は(したがってリッツ値も)実数値をとり、Aの最小固有値と最大固有値の間の閉区間におさまる。

行列A=[200021012]の固有値は1,2,3であり、それぞれに対応する固有ベクトルは以下のとおりである。𝐱λ=1=[011],𝐱λ=2=[100],𝐱λ=3=[011].ここで、V=[001001]とすると、V*AV=[2112]の固有値は1,3でありそれぞれに対応する固有ベクトルは以下のとおりとなる。𝐲μ=1=[11],𝐲μ=3=[11]したがってリッツ値は1,3、リッツベクトルは以下のように求まる。𝐱~λ~=1=[011],𝐱~λ~=3=[011]この例で与えられたVを用いると、リッツベクトルはAの固有ベクトルのうち2つと完全に一致しており、リッツ値も3つの固有値のうち2つと完全に一致している。この例において近似解が厳密解と一致したのは、行列V列空間が2つの固有ベクトル𝐱λ=1および𝐱λ=3によって張られる線形部分空間と一致していたからと説明される。

行列の特異値問題への適用

数値線形代数において、打ち切り特異値分解問題に対してもレイリー・リッツ法を適用することができる。これにより、サイズM×Nの行列MM×Nの与えられた線形部分空間内の左特異ベクトルおよび右特異ベクトルを近似的に求める問題を固有値問題に帰着させることができる。

正規行列を用いる場合

特異値σと、それに対応する左特異ベクトルuと右特異ベクトルvMv=σuおよびM*u=σvにより定義される。左右どちらかの特異ベクトルおよび対応する特異値の集合を近似的に求めるには、エルミート正規行列M*MN×NまたはMM*M×Mのどちらか小さい方に対してナイーブにレイリー・リッツ法を適用すればよい。もう片方の特異ベクトルは単純にu=Mv/σまたはv=M*u/σのように行列をかけて特異値で割れば得られる。しかし、割り算は特異値がゼロもしくはそれに近いとき不安定となる。

別のアプローチとして、サイズN×Nの正規行列A=M*MN×Nに対する、N×m正規直交行列WN×mを用いたレイリー・リッツ法を適用すると、m×m行列W*AW=W*M*MW=(MW)*MWに対する固有値問題を解くことになるが、これはN×m行列MWについての特異値問題とみなせることを活用する方法がある。この見方により左右両方の特異ベクトルを同時に得ることが以下のようにして可能となる。

  1. N×m行列MWを計算する。
  2. Thin-SVDテンプレート:訳語疑問点MW=𝐔Σ𝐕hを解き、N×m行列𝐔m×m対角行列Σm×m行列𝐕hを得る。
  3. リッツ左特異ベクトルU=𝐔とリッツ右特異ベクトルVh=𝐕hW*を計算する。
  4. リッツ特異トリプレットと呼ばれる三つ組U,Σ,Vhが、元の行列Mの打ち切り特異値分解問題の行列Wの列空間上における近似解である。

このアルゴリズムは、固有値問題ソルバ(例:テンプレート:仮リンク)から出力された行列Wに対する後処理として実行することができる。

行列M=[10000200003000040000]の正規行列はA=M*M=[10000400009000016]また特異値は1,2,3,4、対応するThin-SVDは以下のように求まる。A=[00010010010010000000][4000030000200001][0001001001001000],ここで左側の行列の列は行列Aの左特異ベクトルの完全集合をなし、真ん中の対角行列の対角要素は特異値、右側の行列の列は右特異ベクトルの転置となっている(ただし、転置しても元と変わらない)[0001001001001000]*=[0001001001001000]ここで、特異値1、2に対応する2つの右特異ベクトル厳密解

[01100000]

により張られる空間を列空間とする行列、

W=[1/21/21/21/20000]

を導入する。

上記アルゴリズムのステップ1に従い、次の行列を得る。MW=[1/21/2220000]さらに、ステップ2に従い、thin-SVDMW=𝐔Σ𝐕hを解くと以下を得る。𝐔=[0110000000],Σ=[2001],𝐕h=[1/21/21/21/2]したがって、Σから特異値として2と1が得られ、𝐔から対応する左特異ベクトルuとして[0,1,0,0,0]*[1,0,0,0,0]*が得られた。これら二つのベクトルはWの列空間を張っており、与えらえれたWによる近似解が厳密解と一致する理由を説明する。

最後に、ステップ3に従いVh=𝐕hW*を計算すると以下を得る。𝐕h=[1/21/21/21/2][1/21/2001/21/200]=[01001000]したがって右特異ベクトルv[0,1,0,0]*および[1,0,0,0]*である。このうち前者がMv=σuを満たすことは以下のように確かめられる。[10000200003000040000][0100]=2[01000]また、M*u=σvを満たすことも以下のように確かめられる。[10000020000030000040][01000]=2[0100]このように、行列Wの列空間が右特異ベクトルの厳密解により張られる空間と一致するとき、それら右特異ベクトルと、対応する左特異ベクトルおよび特異値の厳密解が得られる。任意の行列Wに対しては、レイリー・リッツ法の意味で最適な特異値分解が近似解として求まる。

関連項目

出典

テンプレート:Reflist

外部リンク