伴う素イデアル
抽象代数学において,環 テンプレート:Mvar 上の加群 テンプレート:Mvar に伴う素イデアル(テンプレート:Lang-en-short)あるいは テンプレート:Mvar の素因子とは,テンプレート:Mvar の(素)部分加群の零化イデアルとして生じる テンプレート:Mvar の素イデアルのタイプである.素因子全体の集合は通常 テンプレート:Math と書かれる.
可換環論において,素因子は可換ネーター環におけるイデアルの準素分解と結びついている.具体的には,イデアル テンプレート:Mvar が準素イデアルの有限交叉として分解されているとき,これらの準素イデアルの根基は素イデアルであり,素イデアルたちのこの集合は テンプレート:Math と一致するテンプレート:Sfn.またイデアルの「素因子」の概念と結びついているのは,孤立素因子 (isolated prime) と非孤立あるいは埋め込まれた素因子 (embedded prime) の概念である.
定義
零でない テンプレート:Mvar 加群 テンプレート:Mvar が prime module であるとは,テンプレート:Mvar の任意の非零部分加群 テンプレート:Mvar に対して零化イデアル となることである.prime module テンプレート:Mvar に対し, は テンプレート:Mvar の素イデアルであるテンプレート:Sfn.
テンプレート:Mvar 加群 テンプレート:Mvar に伴う素イデアル (associated prime) とは,テンプレート:Mvar を テンプレート:Mvar の prime submodule として テンプレート:Math の形のイデアルのことである.可換環論における通常の定義は異なるが同値であるテンプレート:Sfn:テンプレート:Mvar が可換であるとき,テンプレート:Mvar に伴う素イデアル テンプレート:Mvar とは,テンプレート:Mvar の非零元 テンプレート:Mvar に対して の形の素イデアル,あるいは同じことであるが,テンプレート:Math が テンプレート:Mvar のある部分加群に同型な素イデアルのことである.
可換環 テンプレート:Mvar において,テンプレート:Math における(集合論的包含に関する)極小元は孤立素因子 (isolated prime) と呼ばれ,残りの素因子(すなわちある素因子を真に含むもの)は非孤立素因子 (embedded prime) と呼ばれる.
加群が coprimary であるとは,ある テンプレート:Math に対して テンプレート:Math ならばある正の整数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math となることをいう.可換ネーター環上の零でない有限生成加群 テンプレート:Mvar が coprimary であることとちょうど1つの素因子を持つことは同値である.テンプレート:Mvar の部分加群 テンプレート:Mvar が テンプレート:Mvar-primary とは,テンプレート:Math が テンプレート:Mvar で coprimary なことをいう.イデアル テンプレート:Mvar が テンプレート:Mvar-準素イデアルであることと テンプレート:Math は同値である;したがって概念は準素イデアルの一般化である.
性質
これらの性質や主張のほとんどは テンプレート:Harv の86ページ以降に与えられている.
- テンプレート:Math ならば,テンプレート:Math である.さらに テンプレート:Math が テンプレート:Mvar の本質部分加群ならば,それらの素因子は一致する.
- 可換局所環に対してさえ,有限生成加群の素因子の集合が空であることはあり得る.しかしながら,イデアルについての昇鎖条件を満たす任意の環(例えば右あるいは左ネーター環)において,すべての非零加群は少なくとも一つの素因子を持つ.
- 任意の一様加群は 0 個か 1 個の素因子を持ち,一様加群は coprimary module の例である.
- 片側ネーター環に対して,直既約移入加群の同型類の集合からスペクトル テンプレート:Math の上への全射がある.テンプレート:Mvar がアルティン環ならばこの写像は全単射になる.
- Matlis' Theorem: 可換ネーター環 テンプレート:Mvar に対して,直既約移入加群の同型類からスペクトルへの写像は全単射である.さらに,それらの類の完全代表系は で与えられる,ただし テンプレート:Math は移入包絡であり, は テンプレート:Mvar の素イデアル全体を渡る.
- 任意の環上のネーター加群 テンプレート:Mvar に対して,テンプレート:Mvar の素因子は有限個しか存在しない.
以下の性質は全て可換ネーター環 テンプレート:Mvar に対するものである:
- すべてのイデアル テンプレート:Mvar は(準素分解を通して)準素イデアルの有限交叉として表せる.これらのイデアルのそれぞれの根基は素イデアルであり,これらの素イデアルはちょうど テンプレート:Math の元たちである.とくに,イデアル テンプレート:Mvar が準素イデアルであることと テンプレート:Math がちょうど1つの元を持つことは同値である.
- イデアル テンプレート:Mvar を含む任意のテンプレート:仮リンクは テンプレート:Math に入る.これらの素イデアルはちょうど孤立素因子である.
- テンプレート:Mvar の素因子の集合論的和はちょうど テンプレート:Mvar の零因子,つまり,テンプレート:Math となるある テンプレート:Math が存在するような元 テンプレート:Mvar, の全体の集合である.
- テンプレート:Mvar が テンプレート:Mvar 上の有限生成加群ならば,部分加群の有限昇鎖列
- であって各商 テンプレート:Math がある素イデアル テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math に同型であるようなものが存在する.さらに,テンプレート:Mvar のすべての素因子は素イデアル テンプレート:Mvar の集合に現れる.(一般にはすべての素イデアル テンプレート:Mvar が テンプレート:Mvar の素因子であるわけではない.)
- テンプレート:Mvar を テンプレート:Mvar の積閉集合とし,テンプレート:Math を自然な写像とする.このとき,テンプレート:Mvar 上の加群 テンプレート:Mvar に対して,
- .[1]
- テンプレート:Mvar 上の加群 テンプレート:Mvar に対して,テンプレート:Math である.さらに,テンプレート:Math の極小元の集合は テンプレート:Math の極小元の集合と一致する.とくに,テンプレート:Math が極大イデアルからなるとき,等号が成り立つ.
- テンプレート:Mvar 上の加群 テンプレート:Mvar が長さ有限であることと テンプレート:Mvar が有限生成かつ テンプレート:Math が極大イデアルからなることは同値である[2].
例
- テンプレート:Mvar が有理整数環ならば,非自明な自由アーベル群と素冪位数の非自明なアーベル群は coprimary である.
- テンプレート:Mvar が有理整数環で テンプレート:Mvar が有限アーベル群ならば,テンプレート:Mvar の素因子はちょうど テンプレート:Mvar の位数を割り切る素数である.
- 位数 2 の群は有理整数 テンプレート:Mathbf(自身の上の自由加群と考えて)の商であるが,その素因子 テンプレート:Math は テンプレート:Mathbf の素因子ではない.