斜交ベクトル空間
テンプレート:出典の明記 数学において、斜交ベクトル空間(しゃこうべくとるくうかん、テンプレート:Lang-en-short)(シンプレクティックベクトル空間ともいう)とは、斜交形式(しゃこうけいしき、テンプレート:Lang-en-short シンプレクティック形式とも)と呼ばれる非退化反対称双線型形式 テンプレート:Mvar を備えたベクトル空間 テンプレート:Mvar のことである。
斜交形式の定義を明示的に書くと、以下を満たす双線形形式 テンプレート:Math である。
テンプレート:Mvar が有限次元の場合は、その次元は偶数でなければならない。というのも、奇数次の反対称行列は行列式が零となり、すなわち非退化条件を満たさないからである。
基底を固定して考えると、テンプレート:Mvar は行列で表現することができる。上記の 2 条件は、この行列が反対称かつ非特異でなければならないことを言っている。これは、斜交行列であることとは同一でない。斜交行列はこれと異なる概念である。非退化反対称双線形形式は、例えばユークリッド空間の内積の様な非退化「対称」双線形形式とはかなり異なった振る舞いをする。ユークリッド内積 テンプレート:Mvar は任意の非零ベクトル テンプレート:Mvar に対し テンプレート:Math を満たす一方、斜交形式 テンプレート:Mvar はその反対称性より テンプレート:Math を満たす。
標準斜交空間
標準斜交空間は、以下の斜交行列により与えられる斜交形式を有する テンプレート:Math である。 テンプレート:Indent ここで、テンプレート:Mvar は テンプレート:Math 次単位行列である。
したがって、標準基底 テンプレート:Indent に対し、 テンプレート:Indent が成り立つ。
グラム・シュミットの正規直交化法を修正することにより、任意の有限次元斜交空間はこの様な基底を有することがわかる。これをダルブー基底という。
標準斜交形式を解釈するもう一つの方法がある。上記で使用したモデル空間 テンプレート:Math は、誤解の元となる様な多くの標準的構造を有するので、その代わり、一般化したベクトル空間を使うこととする。テンプレート:Mvar を テンプレート:Mvar 次元の実ベクトル空間、テンプレート:Mvar をその双対ベクトル空間とする。ここで、以下の形式を持つこれら空間の直和 テンプレート:Math を考える。
そして、テンプレート:Mvar の任意の基底 を取り、その双対基底
を考える。テンプレート:Mathおよび テンプレート:Math と書くと、これら基底ベクトルが テンプレート:Mvar 内にあると解することができる。これらを一まとめにして考えると、テンプレート:Mvar の完全な基底 テンプレート:Indent が得られる。
ここで定義した形式 テンプレート:Mvar は、本節冒頭の形式と同一の特徴を有することを示すことができる。
体積形式
テンプレート:Mvar を テンプレート:Mvar 次元実ベクトル空間 テンプレート:Mvar の形式 テンプレート:Math だとする。すると、テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar が偶数のときに限り非退化であり、テンプレート:Math は体積要素である。テンプレート:Math を n 次元ベクトル空間 V の標準基底とするとき、V の体積形式とは、これらの積により一意に定まる テンプレート:Mvar 形式 テンプレート:Math である。
前節で定義した標準基底を使うと、
である。順番を変え、
と書くことができる。筆者により、様々に テンプレート:Math または テンプレート:Math を標準体積形式として定義している。場合により、交代積の定義に因子 テンプレート:Math を含むか否かにより、因子 テンプレート:Math をかける場合もある。体積形式は、斜交ベクトル空間 テンプレート:Math の向きを定義する。
斜交写像
テンプレート:Math と テンプレート:Math を斜交空間とする。このとき、線形写像 テンプレート:Math は、引き戻し テンプレート:Math が斜交形式を保存する、つまり テンプレート:Math であるとき、斜交写像であるという。引き戻し形式は、
で定義されるから、テンプレート:Mvar が斜交写像であることは、
と同値である。特に、斜交写像は体積を保存し、向きを保存し、また同型である。
斜交群
テンプレート:Math のとき、斜交写像を テンプレート:Mvar の線形斜交変換という。この場合、 テンプレート:Indent であり、線形変換 テンプレート:Mvar は斜交形式を保存する。斜交変換全ての集合は群をなし、特にリー群になり、斜交群と呼ばれ、テンプレート:Math あるいは テンプレート:Math と記す。行列の形式によると、斜交変換は斜交行列により与えられる。
部分空間
テンプレート:Mvar を テンプレート:Mvar の部分空間とする。テンプレート:Mvar の斜交補空間を、 テンプレート:Indent と定義する。斜交補空間は、 テンプレート:Indent および テンプレート:Indent をみたす。しかし、直交補空間と異なり、テンプレート:Math が テンプレート:Math になる必要はない。以下で、4 つに分類する。
- テンプレート:Math のとき、テンプレート:Mvar は斜交的(テンプレート:Lang-en-short)であるという。これは、テンプレート:Mvar の テンプレート:Mvarへの制限が非退化形式であるとき、かつそのときに限り成り立つ。この制限された形式を有する斜交部分空間は、それ自体が斜交ベクトル空間となる。
- テンプレート:Math のとき、テンプレート:Mvar は等方的(テンプレート:Lang-en-short)であるという。これは、テンプレート:Mvar の テンプレート:Mvar への制限が 0 あるとき、かつそのときに限り成り立つ。任意の一次元部分空間は、等方的である。
- テンプレート:Math のとき、テンプレート:Mvar は余等方的(テンプレート:Lang-en-short)であるという。これは、テンプレート:Mvar が商空間 テンプレート:Math の非退化形式に移るとき、かつそのときに限り成り立つ。同様に、テンプレート:Math が等方的、かつそのときに限り、テンプレート:Mvar は余等方的である。余次元が 1 の任意の部分空間は、余等方的である。
- テンプレート:Math のとき、テンプレート:Mvar はラグランジュ的(テンプレート:Lang-en-short)であるという。部分空間は、等方的かつ余等法的であるとき、かつそのときに限り成りラグランジュ的である。有限次元ベクトル空間において、ラグランジュ的部分空間は、テンプレート:Mvar の次元の半分の次元を持つ等方部分空間である。任意の等方部分空間は、ラグランジュ的部分空間に拡張できる。
上記の標準的ベクトル空間 テンプレート:Math に照らすと、
- テンプレート:Math の張る部分空間は、斜交的である。
- テンプレート:Math の張る部分空間は、等法的である。
- テンプレート:Math の張る部分空間は、余等法的である。
- テンプレート:Math の張る部分空間は、ラグランジュ的である。
関連項目
- シンプレクティック多様体 - 各接空間で滑らかに変化する閉斜交形式を有する滑らかな多様体である。
- 斜交表現 - 群の各要素が斜交変換として作用する群の表現である。