二項係数



数学における二項係数(にこうけいすう、テンプレート:Lang-en-short)は二項展開において係数として現れる正の整数の族である。二項係数は2つの非負整数で添字付けられ、添字 テンプレート:Math2 を持つ二項係数はふつう テンプレート:Math とか テンプレート:Math と書かれる(これは二項冪 テンプレート:Math の展開における テンプレート:Mvar の項の係数である。適当な仮定の下で、この係数の値は で与えられる)。二項係数を、連続する整数 テンプレート:Mvar に対する各行に テンプレート:Mvar を テンプレート:Math から テンプレート:Mvar まで順に並べて得られる三角形状の数の並びをパスカルの三角形と呼ぶ。
この整数族は代数学のみならず数学の他の多くの分野、特に組合せ論において現れる。テンプレート:Mvar元-集合から テンプレート:Mvar個の元を(その順番を無視して)選ぶ方法が テンプレート:Math 通りである。二項係数の性質を用いて、記号 テンプレート:Math の意味を、もともとの テンプレート:Mvar および テンプレート:Mvar が テンプレート:Math2 なる非負整数であった場合を超えて拡張することが可能で、そのような場合もやはり二項係数と称する。
歴史と記法
二項係数に関して詳しく知られた最も初期の議論は10世紀ごろテンプレート:仮リンクが古代サンスクリット語で書いた "Pingala's Chandaḥśāstra" である。1150年ごろには、インドの数学者バースカラ2世が著書 "Lilavati" で二項係数について詳しく述べている[1]。
記号 テンプレート:Math はテンプレート:仮リンクが1826年に導入したものである[2]。 そのほかの記法として テンプレート:Math, テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar[3], テンプレート:Math, テンプレート:Math などがあり、何れも文字 テンプレート:Mvar は組合せ (combination) や選択 (choice) を表している。
定義と解釈
自然数(テンプレート:Math も含める)テンプレート:Mvar および テンプレート:Mvar に対し、二項係数 テンプレート:Math は二項冪 テンプレート:Math の展開における テンプレート:Mvar の項の係数として定義できる。同係数は(テンプレート:Math2のとき)二項公式 テンプレート:NumBlk に現れるため「二項係数」の名がある(この式自体は環の互いに可換な任意の元 テンプレート:Math に対して成り立つ)。
組合せ論においてもまたこの数は、テンプレート:Mvar 個の対象から テンプレート:Mvar 個選ぶ選び方の総数、より形式的には テンプレート:Mvar元-集合の テンプレート:Mvar元-部分集合(テンプレート:Mvar-項組合せ)の総数として現れる。この数が先に述べた係数と一致することは、後で述べるこの数の計算法の何れとも独立に示すことができる。実際、冪 テンプレート:Math2 における テンプレート:Mvar 個の因子の各々において、一時的に テンプレート:Mvar に対し テンプレート:Math2 なる添字 テンプレート:Mvar をそれぞれ付けて区別しておくと、テンプレート:Mvar 個の添字からなる部分集合をひとつ選ぶ毎に展開後の テンプレート:Mvar への寄与が テンプレート:Math だけあるから、この項の係数はそのような部分集合の選び方の数に一致する。このことは特に テンプレート:Math が任意の自然数 テンプレート:Math2 に対して自然数となることも示している。二項係数の組合せ論的解釈(二項係数展開が答えを与える数え上げ問題)は多く存在する。例えば、各位の和が テンプレート:Mvar に一致する テンプレート:Mvar桁のビット(つまり各位の数は テンプレート:Math か テンプレート:Math)の語(文字列)の総数は テンプレート:Math で与えられる。また、各 テンプレート:Mvar が非負整数であるものとして テンプレート:Math2 と書く方法の総数は テンプレート:Math 通りである。これら解釈のほとんどは、テンプレート:Mvar-組合せを数えることに同値であることが容易に示される。
二項係数の値の計算
テンプレート:Math の値を、実際に二項冪を展開したり テンプレート:Mvar-組合せを数え上げたりせずに、計算する方法はいくつかある。
漸化式
一つは、テンプレート:Math2 を テンプレート:Math2 なる自然数として、純加法的な漸化式
を初期条件「任意の テンプレート:Math2 に対し テンプレート:Math2」の下で用いることである。
この漸化式自体は、集合 テンプレート:Math2において以下のように場合を分けて テンプレート:Mvar元-集合を数えることで得られる。特定の元に注目し、ここではそれを “テンプレート:Mvar” とする。
- (a) 特定の元 テンプレート:Mvar を含む テンプレート:Mvar 個の元を集める。この場合、各集まりは既に テンプレート:Mvar があることは仮定しているから、残りの テンプレート:Math2 個の元を テンプレート:Mvar を除く テンプレート:Math2 元の中から特定すればよい。
- (b) 特定の元 テンプレート:Mvar を全く含まない テンプレート:Mvar 個の元を集める。この場合、テンプレート:Mvar を除く テンプレート:Math2 個の元から テンプレート:Mvar 個を選ぶことに他ならない。
この二者で与えられた テンプレート:Mvar 個の元から得られるすべての テンプレート:Mvar-組合せが数え上げられているので所期の結果を得る。
あるいはまた、テンプレート:Math2 の両辺における テンプレート:Mvar への寄与を見ることでもこの漸化式は得られる。テンプレート:Math において テンプレート:Math や テンプレート:Math の項は存在しない(あるいは係数が零である)から、二項係数の定義を上記の境界を越えて延長して、テンプレート:Math2 とすることもできる。
この漸化式はパスカルの三角形を描くのにも利用できる。
乗法表示
個々の二項係数をより効果的に計算するには
で与えられる式を用いる。一つ目の分数の分子に現れる テンプレート:Math は下降階乗冪である。この公式を理解するには二項係数の組合せ論的解釈に依るのが最も簡明である。分子は テンプレート:Mvar 個の対象からなる集合から選ぶ順番を考慮して相異なる テンプレート:Mvar 個の対象を取り出す方法の総数であり、分母は同じ テンプレート:Mvar-組合せを与える相異なる並びの数を数えるものである。
階乗表示
最後に、計算論的には不利だが、短く書けるのでしばしば証明や導出に用いられるよく知られた階乗函数を用いた式は
で与えられる。ここに テンプレート:Math は テンプレート:Mvar の階乗である。この式は上記の乗法表示式に、分子分母に対して テンプレート:Math2 を掛けることで得られる(その結果、この式において分母と分子は多くの共通因数を持つことになる)。(特に階乗は非常に速く増加するから)この式を(テンプレート:Mvar が小さく テンプレート:Mvar が大きい場合に)実際の数値計算に用いることは(先に共通因数を約分しない限り)実用的でない。この式は上記の乗法表示よりは二項係数が対称性 テンプレート:NumBlk を持つことを見るのに適している(二項係数の定義から対称性をもつことは分かる)。この対称性を用いれば乗法的な計算をより効果的にすることもできる。下降階乗冪で書けば
と書ける。
一般化および二項級数
乗法表示を用いれば、テンプレート:Mvar を任意の数 テンプレート:Mvar(負の整数、実数、複素数、……)あるいは任意の整数が可逆となるような可換環の元に取り換えて、
により二項係数の定義を拡張することができるテンプレート:Refnest。この定義により、二項定理(の一方の変数を テンプレート:Math としたもの)も一般化して テンプレート:NumBlk と書くことができる。故にこの場合も テンプレート:Math を二項係数と呼ぶことは正当化される。この等式は任意の複素数 テンプレート:Mvar と テンプレート:Math2 なる テンプレート:Mvar に対して有効である。これはまた テンプレート:Mvar を不定元とする形式冪級数の等式としても解釈でき、それは実際に定数係数 テンプレート:Math を持つ級数の任意の冪の定義として機能する。この定義を用いるポイントは、冪乗として満足することが期待される全ての恒等式(指数法則)、特に
が満足されることである。テンプレート:Mvar が非負整数 テンプレート:Mvar のとき、テンプレート:Math2 なる全ての項は零であり、上記の無限級数は有限和となり、したがってもともとの二項定理が再び得られる。しかし テンプレート:Mvar がそれ以外の値ならば、負の整数や有理数の場合も含めて、上記の級数は実際に無限和になる。
パスカルの三角形

テンプレート:Main テンプレート:仮リンクは重要な漸化式 テンプレート:NumBlk で、これを用いて テンプレート:Math が任意の自然数 テンプレート:Mvar に対して自然数となること(別な言い方をすれば、連続する テンプレート:Mvar-個の整数の積を テンプレート:Math が割り切ること)を帰納的に示すことができる。これは定義 (テンプレート:EquationNote) や乗法表示からは直ちに明らかなことではない。
パスカルの法則からパスカルの三角形が生じる:
0: 1 1: 1 1 2: 1 2 1 3: 1 3 3 1 4: 1 4 6 4 1 5: 1 5 10 10 5 1 6: 1 6 15 20 15 6 1 7: 1 7 21 35 35 21 7 1 8: 1 8 28 56 70 56 28 8 1
番号 テンプレート:Mvar の行には テンプレート:Math の値が テンプレート:Math2 に対して並べられている。これを書くには、一番外側の テンプレート:Math から始めて、常に隣り合う2項を加えた数をその真下に書いていけばよい。この方法によって、分数や乗算を使わずに二項係数を手早く計算することができる。
例えば三角形の5行目を見れば
が直ちに読み取れる。
他の対角線上の数との差は、上記漸化式 (テンプレート:EquationNote) の帰結として、一つ前の対角線上の数である。
解釈
二項係数はよくある数え上げ問題の簡明な公式を与えるという意味で組合せ論において重要である。
- テンプレート:Mvar-元集合から テンプレート:Mvar-元を選ぶ方法の総数は テンプレート:Math である(組合せを参照)。
- テンプレート:Mvar-元集合から重複を許して テンプレート:Mvar元を選ぶ方法の総数はテンプレート:Math 通りある(多重集合を参照)。
- テンプレート:Mvar 個の テンプレート:Math と テンプレート:Mvar 個の テンプレート:Math を含む文字列は テンプレート:Math 種類存在する。
- テンプレート:Mvar 個の テンプレート:Math と テンプレート:Mvar 個の テンプレート:Math を含み、かつどの2つの テンプレート:Math も隣り合わない文字列の総数は テンプレート:Math である[4]。
- カタラン数:テンプレート:Math.
- 二項分布:テンプレート:Math.
多項式としての性質
テンプレート:Mvar を不定元として、任意の非負整数 テンプレート:Mvar に対して式
は テンプレート:Mvar に関する有理係数多項式である。この意味において、テンプレート:Mvar には任意の実数あるいは複素数を代入することができ、それによって二項係数の定義を一般化するとき、そのような「一般化された二項係数」はニュートンの一般化二項定理に現れる。
各 テンプレート:Mvar に対し、多項式 テンプレート:Math は テンプレート:Math2 かつ テンプレート:Math2 を満たす唯一の テンプレート:Mvar次多項式 テンプレート:Math として特徴づけることができる。
この多項式の係数はテンプレート:仮リンクを用いて
と表すことができる。この導函数は対数微分法により
と計算できる。
多項式の空間の基底
標数 テンプレート:Math の任意の体(すなわち、有理数体 テンプレート:Math を含む体)上で、次数が高々 テンプレート:Mvar の任意の多項式 テンプレート:Math は二項係数の線型結合
として一意に書ける。このときの係数 テンプレート:Mvar は数列 テンプレート:Math の[[有限差分|第 テンプレート:Mvar-階差]]で与えられ、明示的に書けば テンプレート:NumBlk で決まる[注 1]。
整数値多項式
テンプレート:Main 各二項係数多項式 テンプレート:Math は整数値(整数を代入したとき必ず整数を返す)である(これは例えばテンプレート:仮リンクを用いて テンプレート:Mvar に関する帰納法で示せる)。従って、二項係数多項式の任意の整係数線型結合もまた整数値多項式になる。逆に等式 (テンプレート:EquationNote) により任意の整数値多項式がこれら二項係数多項式の正係数線型結合となることが示せる。より一般に標数 テンプレート:Math の体の任意の部分環 テンプレート:Mvar に対し、テンプレート:Math に属する多項式が任意の整数において テンプレート:Mvar に値をとるための必要十分条件はそれが二項係数多項式の テンプレート:Mvar-係数線型結合となっていることである。
二項係数に関する等式
階乗表示を用いれば近くにある二項係数の関係を容易に知ることができる。例えば テンプレート:Mvar を正整数、テンプレート:Mvar は任意として テンプレート:NumBlk が成り立ち、また少しの計算で
が得られる。さらに言えば以下の結果
は有用である。例えば定数 テンプレート:Mvar に対して以下の漸化式
を得ることができる。
二項係数を含む級数
等式 テンプレート:NumBlk は等式 (テンプレート:EquationNote) において テンプレート:Math2 かつ テンプレート:Math2 とすれば得られる。これはパスカルの三角形の各行において現れる全ての数を足し合わせれば[[2の冪| テンプレート:Math の整数冪]]になると言っても同じである。この事実の組合せ論的解釈はテンプレート:仮リンク (double counting) で テンプレート:Mvar元-集合 テンプレート:Mvar の位数 テンプレート:Mvar テンプレート:Math2 の部分集合を数えることである。任意の位数 テンプレート:Mvar に対する部分集合を数えているのだから、その和は テンプレート:Mvar の部分集合の総数に等しく、それが テンプレート:Math であることはよく知られている。すなわち、等式 (テンプレート:EquationNote) は [[有限集合|テンプレート:Mvar元-集合]]の冪集合の位数が テンプレート:Math であることを述べるものである。より明確に、テンプレート:Mvar-桁のビット列を考えれば、このビット列は テンプレート:Math 個の数を表すことに利用できる。その中で一つも テンプレート:Math を含まないビット列を考えれば、これは テンプレート:Math2 通りである。ちょうど一つ テンプレート:Math を含むビット列は テンプレート:Math2 通りである。このように数えて行けば上記の式を得る。
等式 テンプレート:NumBlk および
は等式 (テンプレート:EquationNote) を テンプレート:Mvar に関して(後者は2回)微分して テンプレート:Math2 と置けば得られる。
テンプレート:仮リンク テンプレート:NumBlk は任意の複素数 テンプレート:Math2 と任意の非負整数 テンプレート:Mvar に対して成立する。これは テンプレート:Math2 の展開における テンプレート:Mvar の係数として、等式 (テンプレート:EquationNote) を用いて求めることができる。テンプレート:Math のとき等式 (テンプレート:EquationNote) は等式 (テンプレート:EquationNote) に簡約される。
任意の整数 テンプレート:Math2 に対して適用できる同様の等式 テンプレート:NumBlk は、 を用いれば
の展開における テンプレート:Math の係数として求められる。テンプレート:Math2 のとき等式 (テンプレート:EquationNote) は
となる。展開 (テンプレート:EquationNote) を テンプレート:Math2 に対して用い、(テンプレート:EquationNote) を使えば テンプレート:NumBlk を得る。
テンプレート:Math で テンプレート:Mvar 番目のフィボナッチ数を表せば、パスカルの三角形の対角和に関する等式 テンプレート:NumBlk を得る。これは等式 (テンプレート:EquationNote) を用いた帰納法、あるいはゼッケンドルフの表現によって示すことができる(左辺は テンプレート:Math2の連続した元を含まない部分集合の総数を与えるものであり、そのようなものはまた テンプレート:Math 以下の数の全体を成すということに他ならないことに注意)。組合せ論的証明は後述。
等式 (テンプレート:EquationNote) から従う別の等式として、テンプレート:Math とおいて テンプレート:Math2 を得る。
テンプレート:Math2 に対する閉じた式は(超幾何函数を用いなければ)ない[5]が、再び等式 (テンプレート:EquationNote) および帰納法により テンプレート:Math2 に対して テンプレート:Math2 を得る。同様に テンプレート:Math2 を得る[6](テンプレート:Math2 の自明な場合は除く。このときは テンプレート:Math になる)。これ自身は次数高々 テンプレート:Mvar の任意の多項式 テンプレート:Math2 に対する和分差分学における結果[7]テンプレート:Math2 の特別の場合である。テンプレート:Math2 に対しては等式 (テンプレート:EquationNote) を テンプレート:Mvar 回微分して テンプレート:Math2 と置けば得られる。一般の場合はこれらの線型結合を作ればよい。
テンプレート:Mvar次以下の多項式 テンプレート:Math2 に対して テンプレート:NumBlk が成り立つ。ここで テンプレート:Mvar は テンプレート:Math2 の テンプレート:Mvar次係数である。等式 (テンプレート:EquationNote) はより一般に、複素数 テンプレート:Math2 に対して
とできる。これは テンプレート:Math2 の代わりに多項式 テンプレート:Math2 とするとき、テンプレート:Math2 がやはり テンプレート:Mvar次以下の多項式であることと テンプレート:Mvar次係数が テンプレート:Math2 であることに注意すれば、等式 (テンプレート:EquationNote) を適用して直ちに得られる。
は テンプレート:Math2 に対して収束する。この等式はテンプレート:仮リンクを調べるのに利用できる。これを見るには
が成り立つことを テンプレート:Mvar に関する帰納法で示せばよい。
等式 (テンプレート:EquationNote) から テンプレート:Math2 および テンプレート:Math が得られる。
テンプレート:仮リンクにより、テンプレート:Math2 として テンプレート:Mvar を境に テンプレート:Mvar 刻みに取った二項係数の総和と テンプレート:Mvar 項の閉じた形の式の和との間の等式
が示せる。
組合せ論的に証明できる等式
二項係数を含む多くの等式がテンプレート:仮リンク証明することができる。例えば テンプレート:Math2 なる非負整数に対して
(テンプレート:Math2 のとき (テンプレート:EquationNote) に簡約される)は、以下のようにテンプレート:仮リンクできる。左辺は集合 テンプレート:Math2の少なくとも テンプレート:Mvar 個の元を含む部分集合を選び、選ばれた元のうち テンプレート:Mvar 個に印をつける方法を数えている。右辺も同じものを数えるのだけれども、テンプレート:Mvar 個の元のうち テンプレート:Mvar 個に印をつける方法が テンプレート:Math 通りあり、その各々について印をつけた テンプレート:Mvar 個を含む部分集合を得るには印の付いた テンプレート:Mvar 個に残りの テンプレート:Math2 個の元から任意に追加すればよいから、そのような仕方は テンプレート:Math 通りである。
パスカルの法則
の両辺は集合 テンプレート:Math の テンプレート:Mvar元-部分集合を数えているのだけれども、右辺は特定の元(例えば テンプレート:Mvar)を含むように選ぶ場合と含まないように選ぶ場合に分けて数えている。
等式 (テンプレート:EquationNote), 再掲すると
も組合せ論的に証明できる。テンプレート:Math 個の□を一列に並べ、それらのうちの テンプレート:Mvar 個を選んで印を付けることを考える。そのような方法は テンプレート:Math 通りである(右辺)。他方、そのような テンプレート:Mvar 個の□を選ぶときに、テンプレート:Mvar 個は前半の テンプレート:Mvar 個から、残り テンプレート:Math2 個は後半の テンプレート:Mvar 個から選ぶとして テンプレート:Math2 に亙って考える。これにより テンプレート:Math2 が得られるから、等式 (テンプレート:EquationNote) を適用して所期の結果を得る。

等式 (テンプレート:EquationNote) も組合せ論的に証明できる。テンプレート:Math は、2次元格子上で テンプレート:Math2 から テンプレート:Math2 まで、テンプレート:Math または テンプレート:Math2 刻みで移動して辿った経路の総数を表す。そのことは全部で テンプレート:Math2 個の点を亙るために必ずちょうど テンプレート:Mvar 回だけ テンプレート:Math2 刻みの移動をしなければならないのだから明らかである。さてここでちょうど テンプレート:Mvar 個ある テンプレート:Math2 刻みを テンプレート:Math2 刻みで置き換えると、テンプレート:Math2 刻みと テンプレート:Math2 刻みを合わせて テンプレート:Math へ到達することになる。これを テンプレート:Math2 なる各 テンプレート:Mvar に亙って考えれば、テンプレート:Math2 から テンプレート:Math2 刻みと テンプレート:Math2 刻みを合わせて テンプレート:Math へ到達する方法の総数が数え上げられる。そのような方法の総数が テンプレート:Math2 通りあることは明らかである。
ディクソンの等式
あるいはより一般に
で与えられる。ここに テンプレート:Math2 は非負整数である。
連続等式
ある種の三角積分は二項係数で表される値を持つ。テンプレート:Math2 を非負整数として:
これらはオイラーの公式で三角函数を複素指数函数に変換して、二項定理で展開して項別積分すれば示せる。
母函数
通常母函数
固定した テンプレート:Mvar に対して作られる数列 テンプレート:Math2 の通常母函数は
で与えられる。固定した テンプレート:Mvar に対して作られる数列 テンプレート:Math2 の通常母函数は
である。一般の非負整数 テンプレート:Math2 に対する二項係数のテンプレート:仮リンク は
を満たす。二項係数に対する別の形の二変数母函数は、対称函数として
で与えられる。
指数型母函数
二項係数に関するテンプレート:仮リンクは
となる。
可除性
テンプレート:Main 1852年、クンマーは非負整数 テンプレート:Mvar および素数 テンプレート:Mvar に対し、テンプレート:Math を整除する最大の テンプレート:Mvar-冪が テンプレート:Mvar であるとき、テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar と テンプレート:Mvar を加えるときに生じる テンプレート:Mvar-進表示における繰り上がりの数に等しいことを示したテンプレート:Sfn。同じことだが、テンプレート:Math における素因子 テンプレート:Mvar の冪指数は テンプレート:Math のテンプレート:仮リンク が テンプレート:Math の小数部よりも大きくなるような非負整数 テンプレート:Mvar の総数に等しい。これにより、テンプレート:Math が テンプレート:Math で割り切れることが導かれる。したがって特に、任意の正整数 テンプレート:Mvar および テンプレート:Math2 なる正整数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Mvar は テンプレート:Math を割り切る。しかしより高次の テンプレート:Mvar-冪に対してこれは正しくない(例えば テンプレート:Math は テンプレート:Math を割り切らない)。
テンプレート:Harvtxt は「任意の整数がほとんど全ての二項係数を整除する」という幾分驚くべき結果を与えた。より精確に言えば、整数 テンプレート:Mvar を固定して、テンプレート:Math2 は テンプレート:Math2 なる二項係数 テンプレート:Math のうち テンプレート:Mvar で割り切れるものの総数を表すものとすると、
が成り立つというものである。テンプレート:Math2 なる二項係数 テンプレート:Math の総数は テンプレート:Math であるから、これは テンプレート:Mvar で整除可能なものの占める密度が テンプレート:Math に収束することを意味する。
別の事実として、整数 テンプレート:Math2 が素数となる必要十分条件は、中間二項係数
の全てが テンプレート:Mvar で整除可能なことである。実際、テンプレート:Mvar が素数ならば、テンプレート:Math2 なる任意の テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Mvar は
を割り切る。これは分子は素因数 テンプレート:Mvar を含むが分母は テンプレート:Mvar を素因数に持たないことによる。テンプレート:Mvar が合成数のとき、テンプレート:Mvar を テンプレート:Mvar を割り切る最小の素因数とし、テンプレート:Math2 と置けば、テンプレート:Math かつ
は テンプレート:Mvar で割り切れない。仮に割り切れるとすると分子 テンプレート:Math2 が テンプレート:Math で割り切れることになり、それは テンプレート:Math が テンプレート:Mvar で割り切れる場合しかありえないが、テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar で割り切れるのだから、テンプレート:Mvar は テンプレート:Math2 を割り切らず、テンプレート:Mvar は素数だから従って テンプレート:Math2 も割り切らず、それゆえ分子が テンプレート:Mvar で割り切られることもない。
上界・下界と漸近公式
テンプレート:Math に関して以下の評価
が テンプレート:Math2 に対して成立する。スターリングの近似からは テンプレート:Math, 一般に
が テンプレート:Math2 かつ テンプレート:Math2 に対して成立する。また テンプレート:Math2 のとき近似
が成り立つ。テンプレート:Math2 がともに 1 より十分大きければスターリング近似からは以下の漸近近似
も従う。ここに テンプレート:Math2 は テンプレート:Math の二値エントロピー関数である。より精確に、任意の整数 テンプレート:Math2 と テンプレート:Math2 に対して、最初の テンプレート:Math2 個の二項係数の和を
と評価することができる[8]。
テンプレート:Mvar が大きく、テンプレート:Mvar が テンプレート:Mvar に対して十分小さいとき と書くことができるので、
を得る。より精度を望むならば、テンプレート:Math2 を積分で近似して
となる。テンプレート:Math2 かつ テンプレート:Math2 に対して テンプレート:Math2 およびこれら近似式からそれぞれ近似値 テンプレート:Math2 および テンプレート:Math2 を得る。
ガンマ函数の無限積表示に基づく無限積
から漸近公式
が テンプレート:Math2 で成り立つ。この漸近挙動は近似
にも表れている。ここに、テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar番目の調和数で、テンプレート:Math はオイラー–マスケローニ定数である。さらに、テンプレート:Math2 かつ適当な複素数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math2 なるとき、漸近公式
が成り立つ。
二項係数の和について、二項定理を用いると
という単純で粗い上界が得られる。
近似
テンプレート:Mvar が十分大きいとき、
は二項係数と正規分布との関係に基づく近似を与える。これは、二項分布と等しい期待値と分散 テンプレート:Math2 を持つ正規分布をとり、テンプレート:Math2 として、テンプレート:Math を掛ければ、中心極限定理に対する評価から従う。
一般化
多項への一般化
テンプレート:Main 二項係数を一般化するものとして
で定義される数を多項係数と呼ぶ。二項係数が テンプレート:Math の係数であったのに対し、多項係数は テンプレート:Math2 の多項式展開の係数であり、テンプレート:Math2 のとき二項係数を与える:
多項係数は、区別可能な テンプレート:Mvar 個の元を テンプレート:Mvar 個の箱に分けて入れるとき、箱の番号 テンプレート:Math2 に対して各箱がちょうど テンプレート:Mvar 個の元を含むような分け方の総数として組合せ論的に解釈できる。
多項係数は二項係数の性質とよく似たたくさんの性質を満たす。例えば漸化式
および任意の置換 テンプレート:Mvar に関する対称性
が挙げられる。ただし、テンプレート:Math は テンプレート:Math2 を並べ替えたものである。
テイラー級数
テンプレート:仮リンクを用いれば、二項係数の任意に選んだ点 テンプレート:Math の周りでのテイラー展開は
と与えられる。
半整数に対する二項係数
二項係数の定義(積による表示)は テンプレート:Mvar が実数、テンプレート:Mvar が整数の場合にも意味を持つ。特に テンプレート:Math2 のとき任意の非負整数 テンプレート:Mvar に対して
が成り立つ。これは二項級数展開 テンプレート:Math2 に現れる。
二項係数の積
二項係数の積は二項係数の線型結合として
と表すことができる。この展開の結合係数は多項係数で与えられる。ラベル付けられた組合せ論的対象を用いて言えば、この結合係数はそれぞれ重み テンプレート:Mvar および テンプレート:Mvar のラベル付けられた対象の対で最初の テンプレート:Mvar 個のラベルが一致するようなものに テンプレート:Math2 をラベル付ける方法の総数、あるいはそれらを貼り合せて新たに重み テンプレート:Math2 でラベル付けられた対象を付け加える方法(つまり、このラベルを一方の対象の貼り合せない部分、他方の対象の貼り合せない部分、両者の貼り合せ部分の3つの部分に分ける方法)の総数である。このように見ると、二項係数の母函数は下降階乗冪に対する通常母函数に対応する指数型母函数である。
部分分数分解
二項係数の逆数の部分分数分解は
および
で与えられる。
ニュートンの一般二項級数
テンプレート:Main アイザック・ニュートンに名を因むニュートンの二項級数は、二項定理の級数版
である。これが成り立つことは両辺が微分方程式 テンプレート:Math2 を満たすことを見ればよい。
この級数の収束半径は テンプレート:Math である。
とも書ける。
上昇版二項係数
テンプレート:Main 二項係数は与えられた集合から決められた位数の部分集合を数え上げるものであった。関連する組合せ論的問題として、与えられた集合から元をとって作られる決められた位数の多重集合を数え上げる問題、すなわち与えられた集合から重複を許して決められた数の元を選び出す重複組合せの問題がある。その総数は多重集合係数と呼ばれ[9]、テンプレート:Mvar 個の元から テンプレート:Mvar 個選ぶ重複組合せの総数は と書かれる。
以下議論の便宜のため テンプレート:Mvar を使わずに、その代わり テンプレート:Math2 および テンプレート:Math2 なる非負整数 テンプレート:Math2 を用いる。
多重集合係数は以下に示す関係
により二項係数として書ける。この等式を以下のようにも特徴づけることができる。
が等しいことに注意すれば、二項係数を下降階乗冪を用いて
と書くとき、対応する多重集合係数は下降階乗冪を対応する上昇階乗冪で置き換えた
として与えられる。
負の二項係数
任意の テンプレート:Mvar に対して
が成り立つ。特に、負の整数における二項係数は符号付多重集合係数である。テンプレート:Math なる特別の場合には、これは と簡単になる。
両引数が実数または複素数の場合
と書けば、二項係数の2つの引数を任意の実数または複素数まで一般化することができる。この定義においてガンマ函数の性質を用いれば、
が満たされることも分かる。特に
である。この一般化に関する研究は少ないが、テンプレート:Harv などにはすでに現れている。通常の二項係数に関する多くの等式がもはや成り立たなくなっていることに注意すべきである(例えば正の テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math2 や テンプレート:Math2 は一般には正しくない)。その挙動は極めて複雑で、テンプレート:Mvar軸、テンプレート:Mvar軸と直線 テンプレート:Math2 で分けられる八分象限 (octant) のどの位置にあるかで著しく異なる。負の テンプレート:Mvar に対しては負の整数の位置に特異点を持ち、正と負の領域が市松模様を成す:
- テンプレート:Math2 なる八分象限では、通常の二項係数を滑らかに補間し、稜線を成す(「パスカルの稜線」("Pascal's ridge"))。
- テンプレート:Math2 なる八分象限または テンプレート:Math2 なる四分象限では、函数は零に近い。
- テンプレート:Math2 なる四分象限では、四点 テンプレート:Math2 を頂点とする平行四辺形ごとに非常に大きな正の値と負の値を交互に取る。
- テンプレート:Math2 なる八分象限では、やはり非常に大きな正の値と負の値を交互に取るが、今度は正方形の格子で起こる。
- テンプレート:Math2 なる八分象限では、特異点の近くを除けば零に近い。
テンプレート:Mvar-二項係数
二項係数の[[q-類似| テンプレート:Mvar-類似]]はテンプレート:仮リンクと呼ばれる。
無限基数の二項係数
部分集合の数を数える二項係数の組合せ論的定義を、基数 テンプレート:Mvar に対して濃度 テンプレート:Mvar を持つ適当な集合 テンプレート:Mvar をとって
の形に表せば、無限基数に対しても一般化できる。基数 テンプレート:Mvar を表す集合 テンプレート:Mvar の取り方に依らず テンプレート:Math が等しいという意味でこの一般化はうまく定義されている。有限基数に対してこれが通常の二項係数の定義に一致するのは明らかであろう。
選択公理を仮定すれば、任意の無限基数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math2 が示せる。
関連項目
- テンプレート:仮リンク
- 中心二項係数
- テンプレート:仮リンク:二項係数の素冪因子に関する—
- テンプレート:仮リンク
- テンプレート:仮リンク
- テンプレート:仮リンク
- テンプレート:仮リンク
- テンプレート:仮リンク
- テンプレート:仮リンク
- ポッホハマー記号
脚注
注釈
出典
参考文献
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite journal
- テンプレート:Cite journal
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite journal
- テンプレート:Cite book
外部リンク
- ↑ Lilavati Section 6, Chapter 4 (see テンプレート:Harvtxt).
- ↑ テンプレート:Harvtxt
- ↑ テンプレート:Harvtxt
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ テンプレート:Citation.
- ↑ see induction developed in eq (7) p.1389 in テンプレート:Citation.
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ see e.g. テンプレート:Harvtxt or テンプレート:Harvtxt.
- ↑ テンプレート:Citation.
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