微分形式
テンプレート:出典の明記 数学における微分形式(びぶんけいしき、テンプレート:Lang-en-short)とは、微分可能多様体上に定義される共変テンソル場である。微分形式によって多様体上の局所的な座標の取り方によらない関数の微分が表現され、また多様体の内在的な構造のみによる積分は微分形式に対して定義される。微分多様体上の微分形式は共変テンソルとしての座標変換性によって、あるいは接ベクトル空間上の線型形式の連続的な分布として定式化される。また、代数幾何学・数論幾何学や非可換幾何学などさまざまな幾何学の分野でそれぞれ、この類推として得られる微分形式の概念が定式化されている。
概要
エリ・カルタンによって微分方程式を幾何学的に捕らえようとする試みから生まれた微分形式は、解析学や幾何学のいろいろな概念や公式を統一的な視点からまとめ、形式的な計算により多くの結果を得、多様体などの図形を調べるのにも非常に強力な道具になっていった。
テンプレート:Mvar 次元ユークリッド空間において、座標が (テンプレート:Math で与えられているとき、テンプレート:Mvar 変数関数 テンプレート:Math を微分 0 形式といい、 余接ベクトル場 テンプレート:Mathの事を 微分 1 形式という。係数となっているテンプレート:Mvar は変数を省略してあるが関数である。これは関数の全微分で現れる式と同じである。2 次以上の微分形式は微分形式同士をテンソル積でかけ合わせることにより得られる。例えば テンプレート:Mvar 次の微分形式 テンプレート:Mvar と テンプレート:Mvar 次の微分形式 テンプレート:Mvar のテンソル積は テンプレート:Indent と書かれる。しかし、通常はこのような一般的すぎる積の代わりに何らかの対称性を課した対称微分形式や交代微分形式がもちいられる。いずれも、座標のとりかたによらない幾何学的な量を表すものであるが、区別するためにも、このテンソル積の記号はあまり用いられない。対称微分形式は、リーマン計量などを表現するときによく使われ、 テンプレート:Indent のような形でテンソル積の記号は省略して書かれる。 テンプレート:Math といった形で指数にして表してしまうこともある。 テンプレート:Indent
交代微分形式の方は、テンソル積の代わりに外積代数の積としての記号 テンプレート:Math を用い テンプレート:Indent の形に書かれる。交代微分形式は、向きの与えられた幾何学的な量を表している。 テンプレート:Indent という関係式を満たし テンプレート:Math の並ぶ順序の入れ替えに応じて符号が変わる(対称微分形式では符号は変わらない)。こういった符号の反転を内包させることによって積分する変数の「向き」を捉えられることになる。したがって微分形式の積分として得られる面積や体積などの量にも符号が導入され、負の面積や負の体積といったものも現れるが、そうすることによって重積分における座標変換の公式などが、非常に簡明に計算できるようになる。
さらに交代微分形式の微分からド・ラーム・コホモロジーが得られ、解析的な計算によって多様体全体の形を調べることができる。
特に何の指定も無い場合、(高次元の)微分形式というと、交代微分形式の方を指すことが多い。この項目でも交代微分形式を中心に扱う。
定義
微分形式
テンプレート:Mvar 次元微分可能多様体 テンプレート:Mvar を考える。分かりにくい時は特別な場合として テンプレート:Mvar を テンプレート:Mvar 次元ユークリッド空間 テンプレート:Math で考えるとよい。領域 テンプレート:Mvar 上で定義された テンプレート:Mvar 級関数(テンプレート:Mvar 回連続微分可能関数)の事を、 テンプレート:Mvar 級 0 次微分形式、あるいは、テンプレート:Mvar 級微分 0 形式などという。:特に混乱の問題がない場合には テンプレート:Mvar 級などは省略される。どこにも言及されていない場合、微分形式に対しては テンプレート:Math 級など、様々な操作が自由に行えるだけの連続微分可能性を持つとみなすことが多い。いずれにせよ最も扱いやすい テンプレート:Math 級の関数はより荒い関数たちを近似するのに十分なだけ豊富に存在する。
テンプレート:Mvar のそれぞれの点 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Mvar における余接ベクトル テンプレート:Math を、 テンプレート:Mvar に関して連続的に与える対応のことを1 次微分形式、あるいは、微分 1 形式などという。したがって微分形式は余接束の切断、つまり余接ベクトル場だということになる。テンプレート:Mvar の点 テンプレート:Math のまわりの座標系が具体的に テンプレート:Math で与えられているとき、 テンプレート:Math のまわりでの1 次微分形式は テンプレート:Indent のように表示できる。係数の テンプレート:Math などは、 テンプレート:Math のまわりの点 テンプレート:Mvar に関する実数値関数である。これらが テンプレート:Mvar 級で、そのことを強調したい場合には微分 0 形式の時のように テンプレート:Mvar 級微分 1 形式のようにいう。
領域 テンプレート:Mvar 上の微分 1 形式と テンプレート:Math を用いて構成される共変テンソル場 テンプレート:Indent はテンプレート:Mvar 上の k 次微分形式、あるいは、微分 k 形式などとよばれる。係数となる テンプレート:Mvar は、それぞれ テンプレート:Mvar 上の テンプレート:Mvar 級関数である。この時の テンプレート:Mvar を微分形式 テンプレート:Mvar の次数という。テンプレート:Mvar 上の微分 テンプレート:Mvar 形式がなす空間は テンプレート:Math と書かれる。テンプレート:Mvar の値に関係なく、これらをまとめて微分形式、あるいは、外微分形式などという。
テンプレート:Mvar の点 テンプレート:Mvar におけるテンプレート:Mvar 次微分形式 テンプレート:Mvar の値 テンプレート:Indent は テンプレート:Mvar における余接ベクトルと外積代数の積 テンプレート:Math (外積、テンプレート:Lang)を用いて構成されており、これは テンプレート:Mvar における余接空間 テンプレート:Math の テンプレート:Mvar 次交代外積 の元を与えている。テンプレート:Math は余接ベクトルなので、接ベクトル上の線型形式であるが、テンプレート:Mvar は接ベクトル空間 テンプレート:Math の テンプレート:Mvar 個の直積 テンプレート:Math を実数に写す テンプレート:Indent という関数で交代線型性を満たすものになっている。
微分 1 形式 テンプレート:Math によって テンプレート:Indent の形に書かれている微分 テンプレート:Mvar 形式は、 テンプレート:Math に対して テンプレート:Indent という値を取るとする。 テンプレート:Mvar の線型性と行列式の性質から、テンプレート:Mvar および テンプレート:Mvar のそれぞれについて多重線型性と交代性が分かる。
外微分
テンプレート:Main 微分形式の「係数」になっている関数の微分を通じて、微分形式の次数を 1 つあげる線形写像 が定義される。 テンプレート:Indent
領域 テンプレート:Mvar に座標系 テンプレート:Math が与えられているとき、微分 0 形式 すなわち テンプレート:Mvar 上の関数 テンプレート:Mvar には全微分 テンプレート:Indent を対応させる。これは座標系の選び方によらない量になっている。従って多様体 テンプレート:Mvar 全体で定義された関数の外微分も、局所的には上の式によって定義することで、座標系の選択によらない自然な量として定義できる。
微分 テンプレート:Mvar 形式 テンプレート:Indent に対しては、微分 テンプレート:Math 形式 テンプレート:Indent を対応させる。これもふたたび局所的な座標系の取り方にはよらず、テンプレート:Mvar 上の微分形式に対する外微分が考えられることになる。
このような写像 テンプレート:Math を外微分(がいびぶん)とよぶ。任意の微分形式 テンプレート:Mvar に対して 2 回外微分を施すと必ず テンプレート:Indent となる。これは2つの変数に関する偏微分同士の交換性によっている。
外積の計算
外積代数の詳細は当該項目に譲るとして、ここでは計算規則だけ述べる。微分 1 形式の順序を入れ替えると符号が反転する。 テンプレート:Indent この性質から特に同じ 1 次微分形式の積は テンプレート:Math である。 テンプレート:Indent もっと一般に、 テンプレート:Indent である。ここで、 テンプレート:Mvar は置換であり、 テンプレート:Math は置換 テンプレート:Mvar の符号である。 テンプレート:Indent したがって、次数の高い微分形式でも同じ微分 1 形式を含んでいたら テンプレート:Math になる。 テンプレート:Indent 関数 テンプレート:Mvar については、どの微分 1 形式の係数と考えても良く テンプレート:Indent などが成り立つ。
微分 テンプレート:Mvar 形式 テンプレート:Mvar と微分 テンプレート:Mvar 形式 テンプレート:Mvar の外積 テンプレート:Math は、微分 テンプレート:Math 形式となり、交代性から テンプレート:Indent となることが分かる。
特に、テンプレート:Mvar が奇数の時は テンプレート:Indent となり テンプレート:Indent が導かれる。これは、 同じ微分 1 形式の外積が テンプレート:Math になるという事実の一般化である。偶数次の微分形式の時は テンプレート:Math になるとは限らない。
また、和と積を組み合わせた演算では分配法則 テンプレート:Indent などが成り立つ。
座標変換と積分
テンプレート:Math の領域 テンプレート:Mvar で、座標系が テンプレート:Math と 、テンプレート:Math の 2 通りあり、座標変換が テンプレート:Indent と表されているならば、外微分と外積の計算により テンプレート:Indent となる。最後の式の係数はヤコビアンである。この式は 2変数関数の重積分の変数変換の公式 テンプレート:Indent に似ている。このように微分形式を用いると、重積分の変数変換の公式を代数的な計算だけで導けるとも考えられる。
一般に テンプレート:Math の領域 テンプレート:Mvar で、座標系が テンプレート:Math と 、テンプレート:Math の 2 通りあり、座標変換が テンプレート:Indent のように表されるならば、 微分 テンプレート:Mvar 形式は テンプレート:Indent と変換される。右辺の係数は、ヤコビアンである。 テンプレート:Indent
テンプレート:Math において定義された微分 テンプレート:Mvar 形式 テンプレート:Indent に対し、テンプレート:Mvar 上の積分を テンプレート:Indent で定義する。右辺は テンプレート:Mvar で定義された重積分である。そしてこの定義は座標によらない。 テンプレート:Indent
座標近傍による構成

テンプレート:Mvar 次元微分可能多様体 テンプレート:Mvar の座標近傍系 テンプレート:Math の任意の 2 つの座標近傍 テンプレート:Math に対し、テンプレート:Math が空でないならば座標変換 テンプレート:Indent が存在する。 テンプレート:Indent であるとき、微分 テンプレート:Mvar 形式の座標変換を上のように定め、テンプレート:Math 上の微分形式と テンプレート:Math 上の微分形式を同一視することにより、各座標近傍の上に定義される微分形式を張り合わせていくことができ、多様体上での微分形式が定義される。

微分可能多様体 テンプレート:Math に対し テンプレート:Math 級写像 テンプレート:Indent と テンプレート:Mvar 上の微分形式 テンプレート:Mvar が与えられたとき、 テンプレート:Math に対し テンプレート:Math とおくと テンプレート:Indent という写像によって、テンプレート:Mvar 上の微分形式 テンプレート:Mvar に テンプレート:Mvar 上の微分形式 テンプレート:Math を対応させることができる。これを テンプレート:Mvar 全体に拡げた テンプレート:Math を考えることにより テンプレート:Mvar 上の微分形式 テンプレート:Mvar に テンプレート:Mvar の微分形式 テンプレート:Math を対応させることができる。この テンプレート:Math を テンプレート:Mvar の テンプレート:Mvar による引き戻しテンプレート:Lang という。 テンプレート:Indent
多様体上の積分
向き付け可能な テンプレート:Mvar 次元微分可能多様体 テンプレート:Mvar に対し、座標近傍 テンプレート:Math が全て正の向きの座標系で与えられ、テンプレート:Math が局所有限な開被覆であるとき、これに従属した1の分割 テンプレート:Math が存在する。 テンプレート:Mvar 上の微分 テンプレート:Mvar 形式 テンプレート:Mvar が、テンプレート:Mvar 上で テンプレート:Mvar と表現されているとき、 テンプレート:Indent によって、 テンプレート:Mvar 上の テンプレート:Mvar の積分を定義することができる。 テンプレート:Indent
閉形式と完全形式
テンプレート:Main 微分 テンプレート:Mvar 形式 テンプレート:Mvar に、一回だけ外微分を作用させただけで テンプレート:Indent となるとき、 テンプレート:Mvar を閉形式(へいけいしき、テンプレート:Lang)という。 テンプレート:Math の時、微分 テンプレート:Mvar 形式 テンプレート:Mvar に対し テンプレート:Indent となるような微分 (テンプレート:Math) 形式 テンプレート:Mvar が存在する場合、 テンプレート:Mvar の事を完全形式(かんぜんけいしき、テンプレート:Lang)という。完全形式は閉形式である、すなわち完全形式に外微分 テンプレート:Math を施すと テンプレート:Math になる。可縮な多様体(例えばユークリッド空間)であれば、ポアンカレの補題によって、逆が成り立つ。つまり閉形式は完全形式となる。しかしながら、これは一般には成り立たない(閉形式が完全形式であるとは限らない)。この閉形式と完全形式の違いは、多様体の幾何学的構造を反映しており、微分形式の重要な性質である。
関連図書
- 森田茂之:「微分形式の幾何学」、岩波書店、ISBN 4-00-005873-8 (2005年3月4日)。