変換 (数学)
テンプレート:Redirect テンプレート:出典の明記 数学的意味での変換(へんかん、transformation)とは、点を他の点に移したり、式を他の式に変えたり、座標を取り替えたりすること。
概要
もっとも単純には、一つの集合 A が与えられたとき、A の各元 a に対して、A の元 b をただ一つ a の行き先 f(a) として指定するような対応規則 f のことである。すなわち、A から A 自身への写像(または関数)を (A の、A 上の、A 上で定義された、あるいは A における)変換というのである。文脈によっては、特にことわりなく可逆変換(全単射でしたがって逆写像を持つ変換)を意味することがある。
ただし通常、変換という語を用いるとき、与えられた集合には距離空間の位相やベクトル空間などの何らかの構造が入っているのが普通である。そして、(主に幾何学的な)構造を持つ集合 A に対しては、A 上の変換という語は、A から A 自身への構造を保つ写像に対して用いる。すなわち、写像 φ A → A でその像 φ(A) = {φ(a) | a ∈ A} ⊂ A が A と同様の数学的構造をもつ(言い換えれば φ(A) が A の部分系となる)ようなものに限って変換という語を充てるのである。
特に、幾何学では点からなり、距離(大きさ)や連結性などの位相的な構造によって束縛された集合である図形が対象であり、空間(面、線、点あるいは一般の位相空間)における変換により図形は一般には変形される(英語のtransformation(変換)には変形の意味もある)。ただし、回転や平行移動などの図形の形状を変化させない変換もある。
代表的な変換には射影変換とその特別な場合であるアフィン変換がある。これらは線形変換の仲間である。
冒頭で、変換は集合を自分自身に移す写像であると述べたが、必ずしも集合や写像という言葉に拘泥する必要はない。実際、圏論においては圏の対象として集合という実態は必ずしも必要でなく、圏の射は写像である必要を持たない。したがって変換という言葉もさらに広い意味で用いられることがある。(cf. 自然変換(関手間の射))
数学の各分野における変換
「変換」という用語は、研究対象となる幾何構造や代数構造、あるいは問題の文脈に応じて様々な具体形をとる。
幾何学における変換
幾何学においては、空間上の点集合に対してある特定の性質(距離、角度、直線性の保存など)を不変に保つ写像が「変換」と呼ばれる。フェリックス・クラインのエルランゲン・プログラムによれば、幾何学とは「特定の変換群の作用のもとで不変な性質を研究する学問」と再定義される。
- 合同変換(等距変換): 2点間の距離を保つ変換。回転、平行移動、鏡映(反射)などが含まれる。
- 相似変換: 図形の形状(角の大きさや比率)を保ち、距離を一定の倍率で拡大・縮小する変換。
- アフィン変換: 直線性および平行性を保つ変換。平行移動と線形変換の合成として表される。
- 射影変換: 複素あるいは実射影空間における直線性を保つ変換。
- 同相写像(位相同相変換): 位相空間の連続性と位相的構造(連結性、穴の数など)を保つ全単射変換。
線形代数学における変換
ベクトル空間 $V$ からそれ自身へのベクトル加法とスカラー乗法を保つ写像を線形変換(一次変換、線形作用素)と呼ぶ。
有限次元ベクトル空間上の線形変換は、基底を指定することにより行列の積として一意に表される。さらに、基底を取り替える操作そのものも「基底の変換」あるいは「座標変換」と呼ばれる。
解析学における変換
解析学における「変換」は、関数や微分方程式を別の扱いやすい形式に移す操作(汎関数や作用素)を指すことが多い。
- 積分変換: カーネル関数 $K(t, x)$ を用いて関数 $f(t)$ を別の関数 $F(x)$ に変換する操作。フーリエ変換やラプラス変換、メリン変換などが代表的であり、微分方程式を代数方程式に帰着させて解くために用いられる。
- ルジャンドル変換: 凸関数の変数をその勾配(微分係数)に切り替える双対変換。解析力学におけるラグランジュ形式からハミルトン形式への移行や、熱力学における熱力学ポテンシャルの変換に用いられる。
物理学・応用分野における座標変換
物理学では、空間座標や時空座標の記述フレーム(観測者)を切り替える操作として「座標変換」が重要視される。
- ガリレイ変換: 古典力学において、互いに等速直線運動をする慣性系間の座標変換。
- ローレンツ変換: 特殊相対性理論において、光速度不変の原理を満たす時空座標間の変換。
- ゲージ変換: 場の理論において、物理的な観測量を不変に保つ局所的な内部自由度の変換。