平面波

テンプレート:ページ番号 平面波（へいめんは、テンプレート:Lang-en-short）とは、等位相面が波数ベクトルを法線ベクトルとする等値平面から成る周期関数のことである。

平面波の定義

平面波と呼ばれる関数には、「時間変数を持たない平面波」と、「時間変数を持つ平面波」がある。「時間変数を持たない平面波」は、周期関数のフーリエ級数展開や、フーリエ変換、時間発展のないシュレーディンガー方程式の計算に用いられる。「時間変数を持つ平面波」は、波動方程式の解として現れる。

通常、「時間変数を持たない平面波」と、「時間変数を持つ平面波」は、区別されずに混同されて用いられるが、異なるものなので、曖昧さを回避する観点から区別が必要な場合には、用語を使い分けることにする。それぞれの用語の定義は以下に行う。

また、本稿では、「時間変数を持たない平面波」と、「時間変数を持つ平面波」の総称として「平面波」という用語を用いることにする。

時間変数を持たない平面波

実数または複素数に値を取る実 テンプレート:Mvar 変数関数 テンプレート:Math が時間変数を持たない平面波であるとは、周期 テンプレート:Math の実1変数の周期関数 テンプレート:Mvar と、波数ベクトルと言われる テンプレート:Mvar 次元実定数ベクトル テンプレート:Mvar（但し テンプレート:Math）を用いて、

$\mathrm{\Psi }(𝒙)=f(2\pi 𝒌\cdot 𝒙)$

と表されることを意味する。

時間変数を持つ平面波

時間変数を持つ平面波は、波動方程式の固有解に現れる。

実数または複素数に値を取る関数 テンプレート:Math が時間変数を持つ平面波であるとは、空間変数 テンプレート:Mvar （テンプレート:Mvar 次元実数ベクトル）と時間変数t （実数）と、周期 テンプレート:Math の実1変数の周期関数 テンプレート:Mvar と、波数ベクトル テンプレート:Mvar（d 次元実定数ベクトル、但し テンプレート:Math）と、角振動数 テンプレート:Math を用いて、

$\mathrm{\Phi }(𝒙,t)=f(2\pi (𝒌\cdot 𝒙-\omega t))$

であることを意味する。

尚、本稿では、時間変数と空間変数をテンプレート:Math のように分ける。つまり、変数の最後の成分を時間変数と考える。

時間変数を持つ平面波と、時間変数を持たない平面波

物理的には、空間変数 テンプレート:Mvar と時間変数 テンプレート:Mvar は異なるものであるが、数学ではどちらも単なる変数である。この意味において、テンプレート:Mvar 次元の時間変数を持つ平面波は、テンプレート:Math 変数の時間変数を持たない平面波と見做すことができる。

時間変数を持つ平面波

$\mathrm{\Phi }(𝒙,t)=f(2\pi (𝒌\cdot 𝒙-\omega t))$

に対して、新たに テンプレート:Mvar を、空間成分 テンプレート:Mvar と、時間成分 テンプレート:Math を並べた テンプレート:Math 次元の実数ベクトルとする。即ち、

$𝑲=\left(\begin{array}{c}{k}_1\\ ⋮\\ k_d\\ -\omega \end{array}\right)$

とする。但し、テンプレート:Mvar は、波数ベクトル テンプレート:Mvar の第 テンプレート:Mvar 成分を意味する。

又、テンプレート:Mathとする。このとき、

$\mathrm{\Phi }(𝒙,t)=f(2\pi (𝒌\cdot 𝒙-\omega t))=f(2\pi 𝑲\cdot 𝑿)$

のように書くことが出来る。この意味において、テンプレート:Mvar 次元の時間変数を持つ平面波は、テンプレート:Math 変数の時間変数を持たない平面波と見做すことができた。

正弦平面波

正弦平面波は、正弦波の多次元への拡張の1つで、代表的な平面波である。正弦平面波には、実正弦平面波と複素正弦平面波がある。正弦平面波のことを単に平面波ということもあるが、正弦平面波ではない平面波もある。

実正弦平面波の一般式

実正弦平面波は、数学的には振幅 テンプレート:Mvar、波数ベクトル テンプレート:Mvar、位相項 テンプレート:Mvar の3つの定数/定数ベクトルで特徴付けられる。一般に テンプレート:Mvar 次元の実正弦平面波は、時間変数を持たない形で書くと

$A\cos (2\pi (𝑲\cdot 𝑿+\delta ))$

時間変数を持つ形で書くと

$A\cos (2\pi (𝒌\cdot 𝒙-\omega t+\delta ))$

で表される。

ここで、波数ベクトルや時間・空間変数は、それぞれ

$𝒌=\left(\begin{array}{c}{k}_1\\ ⋮\\ k_d\end{array}\right),𝒙=\left(\begin{array}{c}{x}_1\\ ⋮\\ x_d\end{array}\right),𝑲=\left(\begin{array}{c}{k}_1\\ ⋮\\ k_d\\ -\omega \end{array}\right),𝑿=\left(\begin{array}{c}{x}_1\\ ⋮\\ x_d\\ t\end{array}\right)$

である。

複素正弦平面波の一般式

実正弦平面波は重ね合わせの計算などが面倒であることから、計算上のテクニックとして、実正弦平面波の値域をオイラーの公式を用いて複素数域に拡張した複素正弦波が発案された。古典物理では、複素平面正弦波は実正弦平面波の重ね合わせを計算するための便宜にすぎないが、量子力学では複素平面正弦波を用いなければ説明がつかない現象があるため、計算上の便宜のためだけのものではない。

複素正弦平面波は数学的には、振幅 テンプレート:Mvar（複素定数）、波数ベクトル テンプレート:Mvar（実定数ベクトル）、位相項 テンプレート:Mvar（実定数）の3つの定数/定数ベクトルで特徴付けられる。一般に、テンプレート:Mvar 次元の複素正弦平面波は、

$A\exp i(2\pi (𝑲\cdot 𝑿+\delta ))$

の形で表される。

複素正弦平面波を用いた実正弦平面波の重ね合わせ

テンプレート:Mathを実定数（ただし テンプレート:Math）としたときに、重ね合わせ

$\sum _{j=1}^m{a}_j\cos i{\theta }_j$

を計算する問題を考える。

オイラーの公式より、複素数をベクトルのように表記して

$a_j\exp i{\theta }_j=a_j\left(\begin{array}{c}\cos {\theta }_j\\ \sin {\theta }_j\end{array}\right)$　(2-1)

と見なすことができる。

式(2-1)の右辺に、ベクトルの平行四辺形則を適用すると

$\{\begin{array}{c}a=|\sum _{j=1}^m{a}_j\exp i{\theta }_j|\\ \theta =\arg \sum _{j=1}^m{a}_j\exp i{\theta }_j\end{array}$　(2-2)

としたときに、

$a\cos \theta =\sum _{j=1}^m{a}_j\cos i{\theta }_j$

が成り立つ。従って、重ね合わせ(1)を計算する問題は、式(2-2)の2つの式を求める問題に帰着される。ここで、 テンプレート:Math は実定数なので、

$(\exp ik\theta {)}^{*}=\exp (-ik\theta )$

が成り立つ。テンプレート:Mvar は複素共役を意味する。このことに注意して、テンプレート:Math の展開を行うと

$a^2=\sum _{j=1}^m{a}_j\exp i{\theta }_j\sum _{l=1}^m{a}_l\exp (-i{\theta }_j)=\sum _{j,l=1}^m{a}_j{a}_l\exp i({\theta }_j-{\theta }_l)$　(2-3)

が成立する。式(2-3)と、条件a_j ≥ 0 を考え併せると、式(2-2)は、

$\{\begin{array}{c}{a}^2=\sum _{j,l=1}^m{a}_j{a}_l\exp i({\theta }_j-{\theta }_l)\\ \theta =\arg \sum _{j=1}^m{a}_j\exp i{\theta }_j\end{array}$ (2-2’)

と変形できる。従って、重ね合わせを計算する問題は、式(2-2’)を求める問題に帰着される。計算上の便宜としての複素正弦波を持ち出す最大の理由は、式(2-2)から(2-2’)（特に振幅の関係式）が導き出せることにある。

一般には、これ以上簡単な形に変形することは難しいが、いくつかの特殊な場合には振幅の項あるいは位相項の片方あるいは両方がより簡単な形になる。例えば

$\begin{array}{cc}& {\theta }_1=𝒌\cdot 𝒙-\omega t\\ & {\theta }_2=𝒌\cdot 𝒙-\omega t+\delta \\ & m=2\end{array}$

のときには、

$a=\sqrt{{a_1}^2+{a_2}^2+2a_1{a}_2\cos \delta }$

となる。この問題は、2つの位相差のある平面正弦波の重ねあわせの問題である。

フーリエ級数展開に関する補足

以下の定理、即ち、一変数関数のフーリエ級数展開については、既知とする。 テンプレート:Math theorem

以下、$2\pi {\mathbf{\text{E}}}_1,\cdots ,2\pi {\mathbf{\text{E}}}_d$ が周期である場合に関して、d次元のフーリエ級数展開について、帰納的に説明していく。ここで、${\mathbf{\text{E}}}_j$は単位行列の第j列ベクトルを意味する。

2次元のフーリエ級数展開

簡単のためdを2とした場合について考えてみる。即ち、2変数関数$f(x_1,x_2)$ が、周期$2\pi {\mathbf{\text{E}}}_1,\cdots ,2\pi {\mathbf{\text{E}}}_2$を持つ場合に、1変数のフーリエ級数に帰着することを考える。尚、周期性の定義等、用語の定義を知らずとも、計算の流れのみから本ケースの証明は理解が可能であると思われるため、定義などは後回しにする（一般の場合を考える際に、再定義する）。以下の定理が成り立つ：

証明
まず、$x_2$ を固定して、定数だと考える。即ち、

$f_{[x_2]}(t):=f(t,x_2)$

と定めると、$f_{[x_2]}(t)$ はｔについて、周期2πの周期関数である。従って、$f_{[x_2]}(t)$ は、一変数の意味でフーリエ級数展開可能である。 即ち、 整数zに対し、

$C_{1,z}(x_2):=\underset{t=0}{\overset{t=2\pi }{\int }}{f}_{[x_2]}(t)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}zt)\mathrm{d}x$

と定めると、

$f_{[x_1]}(t)=\sum _{z\in \mathbb{Z}}{C}_{1,z}(x_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}zt)$　(3-1)

のように級数展開可能である。

前述の$C_{1,z}(x_2)$は $x_2$を固定するごとに定まるので、前述の$C_{1,z}(x_2)$は $x_2$ についての関数だと考えることが出来る。 そして、$C_{1,z}(x_2)$は $x_2$ について、周期2πの周期関数である。実際、$f(x_1,x_2)$は、周期 テンプレート:Math を持つため、

$f(x_1,x_2)=f(x_1,x_2+2\pi )$

なので、

$f_{[x_2+2\pi ]}(t)=f(t,x_2+2\pi )=f(t,x_2)=f_{[x_2]}(t)$

よって、

$\begin{array}{cc}{C}_{1,z}(x_2+2\pi )& =\underset{t=-\pi }{\overset{t=\pi }{\int }}{f}_{[x_2+2\pi ]}(t)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}zt)\mathrm{d}t\\ & =\underset{0}{\overset{1}{\int }}{f}_{[x_2]}(t)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}nx)\mathrm{d}x\\ & =C_{1,z}(x_2)\end{array}$

である。実は、$C_{1,z}(x_2)$は テンプレート:Math 関数でもあるため、$C_{1,z}(x_2)$も1変数関数の意味でフーリエ級数展開可能である。すなわち

$C_{2,(z_1,z_2)}:=\underset{x_2=-\pi }{\overset{x_2=\pi }{\int }}{C}_{1,z_1}(x_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)\mathrm{d}{x}_2$

と定めると、

$C_{1,z_1}(x_2)=\sum _{z_2\in \mathbb{Z}}{C}_{2,(z_1,z_2)}\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)$　(3-2)

となる。 ここで、式(3-1)に式(3-2)を代入すると、

$\begin{array}{cc}f(x_1,x_2)& =f_{[x_1]}(x_2)\\ & =\sum _{z_1\in \mathbb{Z}}{C}_{1,z_1}(x_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_1{x}_1)\\ & =\sum _{z_1\in \mathbb{Z}}(\sum _{z_2\in \mathbb{Z}}{C}_{2,(z_1,z_2)}\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2))\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_1{x}_1)\\ & =\sum _{z_1\in \mathbb{Z}}(\sum _{z_2\in \mathbb{Z}}{C}_{2,(z_1,z_2)}\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_1{x}_1))\\ & =\sum _{z_1\in \mathbb{Z}}(\sum _{z_2\in \mathbb{Z}}{C}_{2,(z_1,z_2)}\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}(z_1{x}_1+z_2{x}_2)))\\ & =\sum _{z_1\in \mathbb{Z}}\sum _{z_2\in \mathbb{Z}}{C}_{2,(z_1,z_2)}\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}(z_1{x}_1+z_2{x}_2))\end{array}$

を得る。ここで、

$C_{2,(z_1,z_2)}:=\underset{x_2=0}{\overset{x_2=2\pi }{\int }}{C}_{1,z_1}(x_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)\mathrm{d}{x}_2$

$=\underset{x_2=0}{\overset{x_2=2\pi }{\int }}(\underset{x_1=0}{\overset{x_1=2\pi }{\int }}{f}_{[x_2]}(x_1)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_1{x}_1)\mathrm{d}{x}_1)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)\mathrm{d}{x}_2$

$=\underset{x_2=0}{\overset{x_2=2\pi }{\int }}(\underset{x_1=0}{\overset{x_1=2\pi }{\int }}f(x_1,x_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_1{x}_1)\mathrm{d}{x}_1)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)\mathrm{d}{x}_2$

$=\underset{x_2=0}{\overset{x_2=2\pi }{\int }}\underset{x_1=0}{\overset{x_1=2\pi }{\int }}f(x_1,x_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_1{x}_1)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)\mathrm{d}{x}_1\mathrm{d}{x}_2$

$=\underset{x_2=0}{\overset{x_2=2\pi }{\int }}\underset{x_1=0}{\overset{x_2=2\pi }{\int }}f(x_1,x_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}(z_1{x}_1+z_2{x}_2))\mathrm{d}{x}_1\mathrm{d}{x}_2$

である。

d次元場合のフーリエ級数展開

次に、dを一般とした場合について説明する。 テンプレート:Math theorem

証明:帰納法で証明する
(1)d=1の場合：1変数関数のフーリエ級数展開に他ならない。
(2)d-1の場合の帰納仮定:
d-1変数スカラー値関数$h(x_1,\cdots ,x_{d-1})$ が、周期$2\pi {\mathbf{\text{E}}}_1,\cdots ,2\pi {\mathbf{\text{E}}}_{d-1}$を持つ[[自乗可積分|テンプレート:Math 関数]]であるとき、任意の$\mathbf{\text{z}}=(z_1,\cdots ,z_{d-1})\in {\mathbb{Z}}^{d-1}$に対し

$C_{d-1}(z_1,\cdots ,z_{d-1}):=\underset{x_d=-\pi }{\overset{x_d=\pi }{\int }}\cdots \underset{x_1=-\pi }{\overset{x_1=\pi }{\int }}h(x_1,\cdots ,x_2)\exp (\mathbf{\text{i}}(z_1{x}_1+\cdots +z_d-1x_{d-1}))d{x}_1\cdots d{x}_{d-1}$

と定めると

$h(x_1,\cdots ,x_{d-1})={\sum }_{(z_1,\cdots ,z_{d-1})\in {\mathbb{Z}}^{d-1}}{C}_{d-1}(z_1,\cdots ,z_d):\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}(z_1{x}_1+\cdots +z_{d-1}{x}_{d-1}))$

が成り立つものと仮定する。
(3)d変数の場合の証明:
まず、$x_d$ を固定して、定数だと考える。即ち、

$f_{[x_d]}(x_1,\cdots ,x_{d-1}):=f(x_1,\cdots ,x_d)$

と定めると、:$f_{[x_d]}(x_1,\cdots ,x_{d-1})$は、周期　$2\pi {\mathbf{\text{E}}}_1,\cdots ,2\pi {\mathbf{\text{E}}}_{d-1}$を持つ[[自乗可積分|テンプレート:Math 関数]]である。従って、帰納仮定より、$f_{[x_d]}(x_1,\cdots ,x_{d-1})$ は、d-1変数の意味でフーリエ級数展開可能である。 即ち、 整数zに対し、

$C_{d-1,(z_1,\cdots ,z_{d-1})}(x_1,\cdots ,x_{d-1}):=\underset{t=-\pi }{\overset{t=\pi }{\int }}{f}_{[x_2]}(t)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}zt)\mathrm{d}x$

と定めると、

$f_{[x_1]}(t)=\sum _{z\in \mathbb{Z}}{C}_{1,z}(x_1)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}zt)$　(3-1)

のように級数展開可能である。

前述の$C_{1,z}(x_2)$は $x_2$を固定するごとに定まるので、前述の$C_{1,z}(x_2)$は $x_2$ についての関数だと考えることが出来る。 そして、$C_{1,z}(x_2)$は $x_2$ について、周期2πの周期関数である。実際、$f(x_1,x_2)$は、周期 テンプレート:Math を持つため、

$f(x_1,x_2)=f(x_1,x_2+2\pi )$

なので、

$f_{[x_2+2\pi ]}(t)=f(t,x_2+2\pi )=f(t,x_2)=f_{[x_2]}(t)$

よって、

$\begin{array}{cc}{C}_{1,z}(x_2+2\pi )& =\underset{t=-\pi }{\overset{t=\pi }{\int }}{f}_{[x_2+2\pi ]}(t)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}zt)\mathrm{d}t\\ & =\underset{0}{\overset{1}{\int }}{f}_{[x_2]}(t)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}nx)\mathrm{d}x\\ & =C_{1,z}(x_2)\end{array}$

である。実は、$C_{1,z}(x_2)$は テンプレート:Math 関数でもあるため、$C_{1,z}(x_2)$も1変数関数の意味でフーリエ級数展開可能である。すなわち

$C_{2,(z_1,z_2)}:=\underset{x_2=-\pi }{\overset{x_2=\pi }{\int }}{C}_{1,z_1}(x_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)\mathrm{d}{x}_2$

と定めると、

$C_{1,z_1}(x_2)=\sum _{z_2\in \mathbb{Z}}{C}_{2,(z_1,z_2)}\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)$　(3-2)

となる。 ここで、式(3-1)に式(3-2)を代入すると、

$\begin{array}{cc}f(x_1,x_2)& =f_{[x_1]}(x_2)\\ & =\sum _{z_1\in \mathbb{Z}}{C}_{1,z_1}(x_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_1{x}_1)\\ & =\sum _{z_1\in \mathbb{Z}}(\sum _{z_2\in \mathbb{Z}}{C}_{2,(z_1,z_2)}\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2))\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_1{x}_1)\\ & =\sum _{z_1\in \mathbb{Z}}(\sum _{z_2\in \mathbb{Z}}{C}_{2,(z_1,z_2)}\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_1{x}_1))\\ & =\sum _{z_1\in \mathbb{Z}}(\sum _{z_2\in \mathbb{Z}}{C}_{2,(z_1,z_2)}\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}(z_1{x}_1+z_2{x}_2)))\\ & =\sum _{z_1\in \mathbb{Z}}\sum _{z_2\in \mathbb{Z}}{C}_{2,(z_1,z_2)}\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}(z_1{x}_1+z_2{x}_2))\end{array}$

を得る。ここで、

$C_{2,(z_1,z_2)}:=\underset{x_2=-\pi }{\overset{x_2=\pi }{\int }}{C}_{1,z_1}(x_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)\mathrm{d}{x}_2$

$=\underset{x_2=-\pi }{\overset{x_2=\pi }{\int }}(\underset{x_1=-\pi }{\overset{x_2=\pi }{\int }}{f}_{[x_2]}(x_1)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_1{x}_1)\mathrm{d}{x}_1)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)\mathrm{d}{x}_2$

$=\underset{x_2=-\pi }{\overset{x_2=\pi }{\int }}(\underset{x_1=-\pi }{\overset{x_2=\pi }{\int }}f(x_1,x_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_1{x}_1)\mathrm{d}{x}_1)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)\mathrm{d}{x}_2$

$=\underset{x_2=-\pi }{\overset{x_2=\pi }{\int }}\underset{x_1=-\pi }{\overset{x_2=\pi }{\int }}f(x_1,x_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_1{x}_1)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}{z}_2{x}_2)\mathrm{d}{x}_1\mathrm{d}{x}_2$

$=\underset{x_2=-\pi }{\overset{x_2=\pi }{\int }}\underset{x_1=-\pi }{\overset{x_2=\pi }{\int }}f(x_1,x_2)\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}(z_1{x}_1+z_2{x}_2))\mathrm{d}{x}_1\mathrm{d}{x}_2$

である。

周期関数の平面波展開

周期性とは

テンプレート:Main テンプレート:Mvar を実数値あるいは複素数値の実 テンプレート:Mvar 変数関数とし、テンプレート:Mvar を テンプレート:Mvar 次元の実定数ベクトルとする。このとき、テンプレート:Mvar が テンプレート:Mvar の周期であるとは、任意の テンプレート:Mvar 次元実数ベクトル テンプレート:Mvar に対し テンプレート:Mathであることを意味する。

ここで、テンプレート:Mvar が テンプレート:Mvar の周期であったとしても、テンプレート:Math や テンプレート:Math が テンプレート:Mvar の周期であるとは限らない。

定理1から帰納的に以下の定理2が示される。

格子についての補足

前節の定理1と定理2は、周期が格子状の空間（テンプレート:Math-加群）をなすことを主張している。以下、格子について補足を行う。

テンプレート:Mvar 次元標準正方格子 ${\mathbb{Z}}^d$ を、以下のように定義する。即ち、テンプレート:Mvar 次元標準正方格子は、成分全てが整数となるような テンプレート:Mvar 次元実数ベクトルを全て集めることによって出来た集合である。

${\mathbb{Z}}^d=\{\left(\begin{array}{c}{z}_1\\ ⋮\\ z_d\end{array}\right)|\begin{array}{c}{z}_1,\dots ,z_d\in \mathbb{Z}\end{array}\}$

${\mathbb{Z}}^d$は、${ℝ}^d$の標準基底 テンプレート:Math の テンプレート:Math 結合で生成される。即ち、${\mathbb{Z}}^d$の点 テンプレート:Mvar は、テンプレート:Mvar 個の整数 テンプレート:Math によって、

$𝒛=z_1{𝒆}_1+\cdots +z_d{𝒆}_d$

のように展開することが出来る。この展開は、一意的である。

又、テンプレート:Mvar 次正則行列 テンプレート:Mvar に対し、$A{\mathbb{Z}}^d$を、

$A{\mathbb{Z}}^d=\left\{A\left(\begin{array}{c}{z}_1\\ ⋮\\ z_d\end{array}\right)|\begin{array}{c}{z}_1,\dots ,z_d\in \mathbb{Z}\end{array}\right\}$

と定め、テンプレート:Mvar 次元正則行列 テンプレート:Mvar によって生成された格子空間と呼ぶ。$A{\mathbb{Z}}^d$は、テンプレート:Mvar の列ベクトル テンプレート:Math のZ結合で生成される。即ち、$A{\mathbb{Z}}^d$の点は、テンプレート:Mvar 個の整数 テンプレート:Math によって、

$A(z)=A(z_1,\dots ,z_d)=z_1{𝑨}_1+\cdots +z_d{𝑨}_d$

のように表すことが出来る。即ち、標準格子空間 ${\mathbb{Z}}^d$ 上の点 テンプレート:Mvar は、行列 テンプレート:Mvar によって、必ず $A{\mathbb{Z}}^d$ に移すことが出来る。但し、テンプレート:Mvar は、テンプレート:Mvar の第 テンプレート:Mvar 列ベクトルである。即ち テンプレート:Math である。

多重周期関数と周期格子

さらに、ユニットセルの概念を定義する。テンプレート:Math を テンプレート:Mvar 次元実数ベクトル空間 ${ℝ}^d$の基底とする。このとき、

$V({𝑻}_1,\cdots ,{𝑻}_d)=\{x_1{𝑻}_1+\cdots +x_d{𝑻}_d|\begin{array}{c}0\le x_1\le 1\\ ⋮\\ 0\le x_d\le 1\end{array}\}$

を、テンプレート:Math が張るd 次元平行六面体、あるいはユニットセルという。

特に、テンプレート:Mvar 重周期関数 テンプレート:Mvar に対し、テンプレート:Mvar の列ベクトル全て、即ち テンプレート:Math が テンプレート:Mvar の周期となるような テンプレート:Mvar 次正則行列

$T=({𝑻}_1,\dots ,{𝑻}_d)$

が定まる。本稿では、このような テンプレート:Mvar を、テンプレート:Mvar の周期行列と言うことにする。また、$T{\mathbb{Z}}^d$ を、テンプレート:Mvar の周期格子という。

簡単な計算から以下の定理が判る。

この定理により、周期行列が存在するようなd 重周期関数の問題は、すべて、標準正方格子を周期格子として持つような周期関数の問題に帰着されることが判る。

平面波の周期性

平面波の周期性について、以下の命題が成り立つ。

即ち、命題1は、テンプレート:Mvar の直交補空間の点は皆、波数 テンプレート:Mvar の平面波 テンプレート:Math の周期であることを主張している。

以下の定理より、テンプレート:Mvar 重周期関数 テンプレート:Mvar と同じ テンプレート:Mvar 重周期を持つ平面波を沢山作る方法が与えられる。

内積の双線形性より、

$⟨\mathbf{\text{G}}(z_1,z_2,...,z_d)|\mathbf{\text{x}}+{\mathbf{\text{T}}}_j⟩$

$⟨\mathbf{\text{G}}(z_1,z_2,...,z_d)|\mathbf{\text{x}}⟩+⟨\mathbf{\text{G}}(z_1,z_2,...,z_d)|{\mathbf{\text{T}}}_j⟩$

で、前節の命題から、

$⟨\mathbf{\text{G}}(z_1,z_2,...,z_d)|{\mathbf{\text{T}}}_j⟩=2\pi$

従って、

$⟨\mathbf{\text{G}}(z_1,z_2,...,z_d)|\mathbf{\text{x}}+{\mathbf{\text{T}}}_j⟩=⟨\mathbf{\text{G}}(z_1,z_2,...,z_d)|\mathbf{\text{x}}⟩+2\pi$

である。従って、

${\mathrm{\Phi }}_{\mathbf{\text{G}}(z_1,z_2,...,z_d)}(\mathbf{\text{x}}+{\mathbf{\text{T}}}_j)=\exp \left(\mathbf{\text{i}}⟨\mathbf{\text{G}}(z_1,z_2,...,z_d)|\mathbf{\text{x}}+{\mathbf{\text{T}}}_j⟩\right)$

$=\exp (\mathbf{\text{i}}⟨\mathbf{\text{G}}(z_1,z_2,...,z_d)|\mathbf{\text{x}}⟩+\mathbf{\text{i}}⟨\mathbf{\text{G}}(z_1,z_2,...,z_d)|{\mathbf{\text{T}}}_j⟩)$

$=\exp (\mathbf{\text{i}}⟨\mathbf{\text{G}}(z_1,z_2,...,z_d)|\mathbf{\text{x}}⟩+2\pi \mathbf{\text{i}})$

$=\exp \left(\mathbf{\text{i}}⟨\mathbf{\text{G}}(z_1,z_2,...,z_d)|\mathbf{\text{x}}⟩\right)$

となる。

平面波展開

$h(\mathbf{\text{x}}):=f(\frac{1}{2\pi }T\mathbf{\text{x}})$

と定めると、$2\pi {\mathbf{\text{E}}}_1,\cdots 2\pi {\mathbf{\text{E}}}_d$はhの周期である。従って、

$C_d(z_1,\cdots ,z_d):=\underset{x_d=0}{\overset{x_d=2\pi }{\int }}\cdots \underset{x_1=0}{\overset{x_1=2\pi }{\int }}h(x_1,\cdots ,x_d)\exp (\mathbf{\text{i}}(z_1{x}_1+\cdots +z_d{x}_d))d{x}_1\cdots d{x}_d$

と定めると

$h(x_1,\cdots ,x_d)={\sum }_{(z_1,\cdots ,z_d)\in {\mathbb{Z}}^d}{C}_d(z_1,\cdots ,z_d):\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}(z_1{x}_1+\cdots +z_d{x}_d))$

のようにフーリエ級数展開できる。

hの定義より、

$h({}^{t}G\mathbf{\text{x}})=f(\frac{1}{2\pi }T{}^{t}G\mathbf{\text{x}})=f(\mathbf{\text{x}})$

よって、

$f(\mathbf{\text{x}})=h({}^{t}G\mathbf{\text{x}})={\sum }_{\mathbf{\text{z}}\in {\mathbb{Z}}^d}{C}_d(\mathbf{\text{z}})\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}⟨\mathbf{\text{z}}|{}^{t}G\mathbf{\text{x}}⟩)$

$={\sum }_{\mathbf{\text{z}}\in {\mathbb{Z}}^d}{C}_d(\mathbf{\text{z}})\exp (2\pi \mathbf{\text{i}}⟨G\mathbf{\text{z}}|\mathbf{\text{x}}⟩)$

一方、積分の変数変換の公式を用いると、

$C_d(z_1,\cdots ,z_d):=\underset{x_d=0}{\overset{x_d=2\pi }{\int }}\cdots \underset{x_1=0}{\overset{x_1=2\pi }{\int }}h(x_1,\cdots ,x_d)\exp (\mathbf{\text{i}}(z_1{x}_1+\cdots +z_d{x}_d))d{x}_1\cdots d{x}_d$

$=\underset{{[0,2\pi ]}^d}{\int }f\left(\frac{1}{2\pi }T𝐱\right)\exp \left(𝐣⟨\mathbf{\text{z}}|𝐱⟩\right)$

$=\underset{({}^{T}G{)}^{-1}[{[0,2\pi ]}^d]}{\int }f(\frac{1}{2\pi }T({}^{T}G)𝐱)\exp \left(𝐣⟨\mathbf{\text{z}}|{}^{T}G𝐱⟩\right)det({}^{T}G)$

$=\underset{({}^{T}G{)}^{-1}[{[0,2\pi ]}^d]}{\int }f\left(𝐱\right)\exp \left(𝐣⟨G\mathbf{\text{z}}|𝐱⟩\right)det({}^{T}G)$

である。ここで、線形同型による像集合の性質から、

$({}^{T}G{)}^{-1}[{[0,2\pi ]}^d]=\frac{1}{2\pi }T[{[0,2\pi ]}^d]=T[{[0,1]}^d]=V[{\mathbf{\text{T}}}_1,\cdots {\mathbf{\text{T}}}_d]$

また、ユニットセル$V[{\mathbf{\text{T}}}_1,\cdots {\mathbf{\text{T}}}_d]$の体積をVと書くと、

$V=detT=\frac{2\pi }{det({}^{T}G)}$

なので、

$det{}^{T}G=\frac{2\pi }{V}$

従って、

$C_d(z_1,\cdots ,z_d)=\underset{({}^{T}G{)}^{-1}[{[0,2\pi ]}^d]}{\int }f\left(𝐱\right)\exp \left(𝐣⟨G\mathbf{\text{z}}|𝐱⟩\right)det({}^{T}G)$

$=\frac{2\pi }{V}\underset{V[{\mathbf{\text{T}}}_1,\cdots {\mathbf{\text{T}}}_d]}{\int }f\left(𝐱\right)\exp \left(𝐣⟨G\mathbf{\text{z}}|𝐱⟩\right)$

量子論における平面波

非相対論的な量子論では、自由粒子のエネルギー固有状態は平面波となる。また自由粒子のハミルトニアンと運動量が可換であるため、運動量の固有状態も平面波である。つまりエネルギーと運動量についての同時固有関数となっている。量子論においても平面波は、基底関数として様々な場面で用いられるが、本来1に規格化されるべき2乗積分が有限の値を持たないこと、時間的・空間的に無限の彼方まで広がっており非現実的であること等の問題も抱えている。

第一原理バンド計算における平面波

波動関数は、基底関数で展開した形で記述することができる。この時に用いられる基底の1つに平面波基底（テンプレート:Lang-en-short）がある。バンド計算における表式化が比較的簡単で（それ故、プログラムも構築し易い）力やストレスの計算も他の基底（局在基底など）を使った場合より容易に実現が可能である。また、平面波基底では、Pulay補正項の問題が回避できることも利点のひとつである。

欠点として、例えば波動関数や電荷密度への寄与の s, p, d 軌道毎への分割や、ユニットセル内の特定の原子の電荷を求めることが困難になることが挙げられる。

関連項目

• 球面波
• 直交化された平面波
• 第一原理バンド計算
• 局在基底
• 混合基底