微細構造定数
テンプレート:物理定数 微細構造定数(びさいこうぞうていすう、テンプレート:Lang-en-short)は、電磁相互作用の強さを表す物理定数であり、結合定数と呼ばれる定数の一つである。電磁相互作用は4つある素粒子の基本相互作用のうちの1つであり、量子電磁力学をはじめとする素粒子物理学において重要な定数である。1916年にアルノルト・ゾンマーフェルトにより導入された[1][2]。記号は テンプレート:Mvar で表される。
歴史的な経緯から、複数の電磁気量の単位系とそれらが基づく量体系があるが、微細構造定数は無次元量で、単位はなく、量体系に依らず値は変わらない。微細構造定数の値は
である(2022CODATA推奨値[3])。微細構造定数の逆数(測定値)もよく目にする量で、その値は
他の物理定数との関係
微細構造定数は テンプレート:Indent と表される。ここで、テンプレート:Mvar はプランク定数、テンプレート:Mvar は電気素量、テンプレート:Math は自由空間における電磁波の特性インピーダンスである。電磁相互作用の大きさを表す結合定数である電気素量を、量子論を特徴付ける普遍定数であるプランク定数で関係付けている量といえる。 特性インピーダンスは複数ある電磁気量の体系のうち、どの量体系に基づいているかを決める定数である。
国際量体系テンプレート:Enlinkにおいては、電気定数 テンプレート:Math、磁気定数 テンプレート:Math、および光速度 テンプレート:Mvar により テンプレート:Math で表されるので、微細構造定数は テンプレート:Indent となる[5]。 素粒子物理学ではしばしば テンプレート:Math に固定する自然単位系が用いられるので[6][7] テンプレート:Indent となるテンプレート:R[8]。
ガウス単位系は テンプレート:Math とする量体系に基づいているので テンプレート:Indent である[9]。 原子単位系では テンプレート:Math に固定するので
となる[10]。
物理定数の比
微細構造定数は同じ次元を持つ物理定数の間の比例係数となる。
長さ
電子のコンプトン波長 テンプレート:Math に対して、ボーア半径 テンプレート:Math は テンプレート:Indent であり、古典電子半径 テンプレート:Math は テンプレート:Indent である。 また、リュードベリ定数 テンプレート:Math の逆数は テンプレート:Indent となる。
エネルギー
電子の静止エネルギー テンプレート:Math に対して、ハートリーエネルギー テンプレート:Math は テンプレート:Indent である。
歴史
微細構造定数は1916年にゾンマーフェルトにより導入された。水素原子のスペクトル線の僅かな分裂(微細構造)を説明するためにボーアの原子模型を楕円軌道を許すように拡張(ゾンマーフェルトの量子化条件)して、さらに相対論の効果を含めた模型を考えた。
微細構造定数はボーア模型において基底状態にある電子の速度の光速度に対する比に等しく、ゾンマーフェルトの解析の中で自然に現れ、水素原子のスペクトル線の分裂の大きさを決めている。
原子構造を説明する理論において導入された定数であったが、現在では原子構造から離れてより一般に素粒子の電磁相互作用の強さを表す結合定数と見なされている。
測定
微細構造定数の主な測定手法としてはミュー粒子や電子の異常磁気モーメントの測定による方法[11][12][13]や、セシウムやルビジウムのテンプレート:仮リンクの測定による方法[14][15]がある[16]。
異常磁気モーメント
2021年現在における最も精度の高い測定値の1つは、電子の異常磁気モーメント テンプレート:Math の測定に基づくものである[17]。2008年のハーバード大学の研究グループによる電子の異常磁気モーメントの測定値として
が得られており[18][17]、ここから微細構造定数の値として
が得られている[13]。なお、丸括弧内は標準不確かさ、角括弧内は相対標準不確かさを表す。
2023年にはハーバード大学・ノースウェスタン大学の研究グループよって
という結果が得られており[19]、ここから微細構造定数の値として
が得られている[19]。
原子反跳
光子を吸収した原子は原子反跳を起こす。原子 テンプレート:Mvar の原子質量を テンプレート:Math とすると、運動量 テンプレート:Math の光子の吸収で反跳する反跳速度は テンプレート:Math となる。反跳速度の測定から原子質量 テンプレート:Math を求めることができる。原子質量 テンプレート:Math は微細構造定数と
の関係式が成り立つ。ここで テンプレート:Math はリュードベリ定数、テンプレート:Math はそれぞれ原子 テンプレート:Mvar と電子の相対原子質量である。リュードベリ定数については相対標準不確かさが テンプレート:Val の精度で、電子の相対質量については テンプレート:Val という高い精度で値が得られている。さらにいくつかの原子については相対原子質量の相対不確かさが テンプレート:Val より高い精度で得られているため、原子質量 テンプレート:Math の測定から微細構造定数を得ることができる[20]。 なおSIが再定義される以前は、原子質量 テンプレート:Math ではなくプランク定数 テンプレート:Mvar との比 テンプレート:Math の組み合わせとして測定値が得られていた。プランク定数がSIの定義定数として不確かさのない値をもつ以前は、プランク定数の相対不確かさが テンプレート:Val であり(2016 CODATA)、比 テンプレート:Math の組み合わせの方がより高い精度で測定される。
例えば[[セシウム|テンプレート:SupCs]]の原子反跳測定では、2018年のカリフォルニア大学バークレー校の研究グループにより
という値が得られており[21][17]、ここから微細構造定数の値が
と得られている[13]。
また[[ルビジウム|テンプレート:SupRb]]の原子反跳測定では、2011年のテンプレート:仮リンクの研究グループによる
という結果が得られており[22][17]、ここから微細構造定数の値が
と得られている[13]。 2020年には
という結果が得られており、この結果から微細構造定数の値は
と計算されている[23]。
SIの再定義の影響
国際単位系(SI)が再定義され、プランク定数と電気素量のSI単位による値が定義値となった。 SIが再定義される以前の微細構造定数の測定として、電気測定によりこれら定数の値を得る方法があった[24]。
多元宇宙論との関係
21世紀初頭、スティーブン・ホーキングの著書「ホーキング、宇宙を語る」での言及を含み、複数の物理学者が多元宇宙論の考え方を探求し始め、微細構造定数は微調整された宇宙を示唆するいくつかの宇宙定数の1つであった[25]。
R.P. ファインマンの言葉

量子電磁力学テンプレート:Enlinkにおいて、微細構造定数は電子と光子の相互作用の結合定数に関係している。QEDでは テンプレート:Mathとする自然単位系がとられるため、微細構造定数は テンプレート:Math となり、テンプレート:Math の関係が成り立つ。QEDの発展に貢献した物理学者R.P. ファインマンはその著書の中で次のように述べている[26]。 テンプレート:Quotation
脚注
- 出典
参考文献
論文
- 異常磁気モーメントの測定
書籍
関連項目
外部リンク
- ↑ テンプレート:Harvtxt
- ↑ NIST "Current advances: The fine-structure constant and quantum Hall effect"
- ↑ CODATA Value
- ↑ CODATA Value
- ↑ NIST "Fundamental Physical Constants-Atomic and Nuclear Constants"
- ↑ テンプレート:Harvtxt
- ↑ テンプレート:Harvtxt
- ↑ テンプレート:Harvtxt
- ↑ ブリタニカ百科事典
- ↑ 物理化学で用いられる量・単位・記号 (第3版) p.174 脚注 3)
- ↑ Mohr, Taylor & Newell (2012), V.A.
- ↑ Mohr, Newell & Taylor (2016), V.A.
- ↑ 13.0 13.1 13.2 13.3 Tiesinga, Mohr, Newell & Taylor (2021), IV.D.
- ↑ Mohr, Taylor & Newell (2012), VII.
- ↑ Mohr,Newell & Taylor (2016), VII.
- ↑ テンプレート:Harvtxt
- ↑ 17.0 17.1 17.2 17.3 Tiesinga, Mohr, Newell & Taylor (2021) TABLE XXI.
- ↑ Hanneke, Fogwell & Gabrielse (2008)
- ↑ 19.0 19.1 テンプレート:Cite journal
- ↑ Tiesinga, Mohr, Newell & Taylor (2021), X.
- ↑ Parker et al. (2018)
- ↑ Bouchendira et al. (2011)
- ↑ テンプレート:Cite journal
- ↑ Mohr, Newell & Taylor (2016), VIII.
- ↑ テンプレート:Cite book
- ↑ テンプレート:Harvtxt