接ベクトル空間

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テンプレート:出典の明記

接ベクトル空間 テンプレート:Mvarテンプレート:Math を通る曲線に沿った接ベクトル テンプレート:Math

多様体上の接ベクトル空間(せつベクトルくうかん、テンプレート:Lang-en)あるいは 接空間テンプレート:Lang-en)とは、多様体上の各点で定義されるベクトル空間であり、その点における全ての接ベクトルの集合である。接ベクトル空間は、ユークリッド空間内の曲線曲面における接ベクトルの一般化ともいえる。

概要

接ベクトル空間は、多様体上の点ごとに定義されるベクトル空間である。接ベクトル空間の元を接ベクトルという。全ての点で接ベクトルが定まっているとベクトル場というものが定義できる。ベクトル場は多様体の形を調べたり、多様体上の粒子の運動を調べたりするのに非常に役立つ概念である。物理学でいえば電磁場重力場などを記述でき、そのベクトル場の中に置かれた粒子はその点での接ベクトルの向いている方向に沿って移動していく。本項目で扱うのは、そのベクトル場の基礎となるある 1 点の上の接ベクトル空間である。

テンプレート:Math とする。 テンプレート:Mvar 次元 テンプレート:Mvar 級多様体 テンプレート:Mvar と、その中の テンプレート:Mvar 級曲線

ϕ:(ε,ε)M

を考え テンプレート:Math とする。

テンプレート:Mvar を含む座標近傍 テンプレート:Math において テンプレート:Mathテンプレート:Mvar微分して、テンプレート:Math を代入することにより曲線 テンプレート:Mvar の点 テンプレート:Mvar での速度ベクトル

dϕdt(0):=(dx1dt(0),dx2dt(0),,dxmdt(0))

が求まる。 この速度ベクトルの成分は、座標近傍の局所座標系の表し方に依存する表示になっている。多様体の性質を調べる際には、局所座標系の取り方に依存しない性質を扱いたいという要請があるので、この速度ベクトルは多様体の性質を調べるのには不向きである。そこで テンプレート:Mvar 上で定義された テンプレート:Mvar関数

f:M𝐑

を利用することを考える。 テンプレート:Mvar は 座標近傍 テンプレート:Math においては、 テンプレート:Mvar 変数の関数 テンプレート:Math として書かれている。この テンプレート:Mvar を曲線 テンプレート:Mvar 上で調べる。 テンプレート:Math は局所座標系に寄らない関数

(fϕ):(ε,ε)𝐑

であり、これを テンプレート:Mvar で微分した

ddt(fϕ)(t)

もまた局所座標系に依存しない。

ところで テンプレート:Math という表示にして テンプレート:Mvar で微分してみれば、多変数関数の合成関数の微分 として連鎖律の公式から

ddt(fϕ)(0)=fx1dx1dt(0)+fx2dx2dt(0)++fxndxndt(0)

となる。

先程の速度ベクトルの式と比べてみるとこれは、速度ベクトルと テンプレート:Mvar勾配

dfdx:=(fx1(p),fx2(p),,fxm(p))

内積と見ることができる。

つまり、速度ベクトルと テンプレート:Mvar の勾配を組み合わせることによって、局所座標系に依存しないものが得られることになる。ここで、 テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar 上の テンプレート:Mvar 級関数であり、定数関数かもしれないし、 テンプレート:Math だけを変数にとるといったような必ずしも多様体 テンプレート:Mvar の性質を反映しない関数かもしれないということを考えると先程の式は

ddt(fϕ)(0)={dx1dt(0)x1+dx2dt(0)x2++dxmdt(0)xm}f

のように関数 テンプレート:Mvar とそれに作用する作用素とに分け、この作用素を接ベクトルと定義するのである。

すなわち、局所座標系に依存しない速度ベクトルのようなものを探し求めた結果

i=1maixi

という形をした微分作用素の一次結合(接ベクトル)を用いることで解決できる事が分かる。この接ベクトルの全体を接ベクトル空間という。

作用素をベクトルと呼ぶために、少し抽象的でわかりにくい話になるが、そういう場合は関数 テンプレート:Mvar に具体的な形をいくつか与えてみて多様体の形を感じ取るのがよい。

定義

方向微分と接ベクトルについての定義を与える。接ベクトルは方向微分であるが、 方向微分が接ベクトルとは限らない。滑らかな多様体の場合にのみ両者は一致するので、滑らかな多様体の話に限るのであれば方向微分の定義は接ベクトルの定義でもある。

方向微分

テンプレート:Math とする。 テンプレート:Mvar 次元 テンプレート:Mvar 級多様体 テンプレート:Mvar と、その中の テンプレート:Mvar 級曲線

ϕ:(ε,ε)M

テンプレート:Mvar 上の任意の テンプレート:Mvar 級関数

f:M𝐑

を与えたとき、 テンプレート:Math に対して

vϕ:fddt(fϕ)(t)|t=t0

という対応 テンプレート:Mvar を曲線 テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar における方向微分 テンプレート:Lang という。

この定義には局所座標系などは全く出てこないので方向微分は座標系に依存しない。

テンプレート:Math とする。 テンプレート:Mvar近傍で定義された任意の テンプレート:Mvar 級関数 テンプレート:Math 及び任意の実数 テンプレート:Mvar に対し

  1. テンプレート:Math
  2. テンプレート:Math

が成り立つ。この左辺の変数になっている テンプレート:Mvarテンプレート:Math に対して

テンプレート:Math

のように関数の値の(普通の意味での)積とする。

このことから、方向微分 テンプレート:Mvar線型性を持ち、ライプニッツ則(積の微分法則)に従う作用素であることが分かる。

数学においては、このように性質を調べた後でその性質をその言葉の定義と取り替えて一般化することがよくある。

すなわち テンプレート:Mvar 次元 テンプレート:Mvar 級多様体 テンプレート:Mvar の点 テンプレート:Mvar の近傍で定義された任意の テンプレート:Mvar 級関数 テンプレート:Math 及び実数 テンプレート:Math に対し

  1. テンプレート:Math
  2. テンプレート:Math

をみたすような対応

テンプレート:Math

のことを テンプレート:Mvar における方向微分という。

この定義には曲線 テンプレート:Mvar すら出てこない。

多様体 テンプレート:Mvar 上の点 テンプレート:Mvar における方向微分の全体を テンプレート:Math と書く。

テンプレート:Math が恒等的に テンプレート:Math を取る関数であれば、定義より

v(1*1)=v(1)*1+1v(1)
v(1)=0

となる。このことより テンプレート:Mvar が定数 テンプレート:Mvar を取る定数関数であれば

v(a)=v(a*1)=av(1)=0

となることがわかる。

テンプレート:Mvar の開近傍を十分小さく取ったときに テンプレート:Mvar 級関数 テンプレート:Math の値がその開近傍上で等しいとき

テンプレート:Math
テンプレート:Math

となる。

テンプレート:Math での方向微分 テンプレート:Mathテンプレート:Mvar 級関数 テンプレート:Mvar 実数 テンプレート:Mvar に対して

テンプレート:Math
テンプレート:Math

のように、方向微分の和と定数倍を定義することにより、 テンプレート:Mathベクトル空間になる。

接ベクトル

テンプレート:Math とする。 テンプレート:Mvar 次元 テンプレート:Mvar 級多様体 テンプレート:Mvar とその上の点 テンプレート:Mvar を考える。 テンプレート:Mvar を含む座標近傍 テンプレート:Math 上で定義された微分作用素

(xi)p,1im

は方向微分になる。この テンプレート:Mvar 個の方向微分は線型独立であり、これらの線型結合

i=1mai(xi)p
(ただし テンプレート:Math (テンプレート:Math) )

を、 テンプレート:Mvar における テンプレート:Mvar接ベクトル テンプレート:Lang といい、接ベクトルの全体を テンプレート:Math と書き、 テンプレート:Mvar における テンプレート:Mvar接ベクトル空間 テンプレート:Lang あるいは 接空間 テンプレート:Lang という。接ベクトル空間 テンプレート:Mathテンプレート:Math線型部分空間である。

テンプレート:Math

この等号が成り立つのは、 テンプレート:Mvarテンプレート:Math 級多様体(滑らかな多様体)であるときに限る。

接ベクトルの定義において、係数 テンプレート:Math をどのような組み合わせでとってもその接ベクトルに対する テンプレート:Mvar を通る曲線 テンプレート:Mvar が存在する。逆に テンプレート:Mvar を通る テンプレート:Mvar 曲線 テンプレート:Mvar に対して定められた方向微分 テンプレート:Mvar は接ベクトルになる。

見かけは局所座標系に依存しているように見える定義も、局所座標に依存しないベクトルとして定まっている。 テンプレート:Mvar を含む別の座標近傍 テンプレート:Math を取り、座標変換を考え

(xi)p=j=1myjxi(p)(yj)p

を用いれば、接ベクトルは

i=1mai(xi)p=i=1mai{j=1myjxi(p)(yj)p}=j=1m{i=1maiyjxi(p)}(yj)p

という計算によって

i=1mbi(yi)p
(ただし テンプレート:Math (テンプレート:Math) )

の形に変換できる。

関数の微分

テンプレート:Mvar 次元 テンプレート:Mvar 級多様体 テンプレート:Mvar とその上の点 テンプレート:Mvar を考える。 テンプレート:Mvar における 接ベクトル テンプレート:Mvar は、 テンプレート:Mvar の近傍で定義された テンプレート:Mvar 級関数 テンプレート:Mvar を実数 テンプレート:Math に対応させる関数である。

v:fv(f)𝐑

テンプレート:Math は接ベクトル テンプレート:Mvar と関数 テンプレート:Mvar の組であり、 テンプレート:Mvar を固定して、 テンプレート:Mvar に対して値が定まると考えてきた。逆に テンプレート:Mvar を固定して

dfp:vv(f)

という関数も考えることができる。この テンプレート:Mvarテンプレート:Mvarテンプレート:Mvar における 微分 テンプレート:Lang という。

接ベクトルのなす空間 テンプレート:Mathテンプレート:Mathbf 上の線型空間であることから、 テンプレート:Math から テンプレート:Mathbf への線型写像のなす双対ベクトル空間

Tp*(M)=Hom𝐑(Tp(M),𝐑)

が定まるが、 微分 テンプレート:Mvar はこの テンプレート:Math の元である。 テンプレート:Math のことを テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar における余接ベクトル空間 テンプレート:Lang という。

特に テンプレート:Mvar を含む座標近傍 テンプレート:Math があるとき、関数 テンプレート:Mvar として 局所座標系の成分の一つである テンプレート:Mvar を選べば、その テンプレート:Mvar における微分は テンプレート:Math となり

(dxi)p(xj)p=δij,1i,jm

である。右辺の テンプレート:Mvarクロネッカーのデルタとする。

ここに現れた テンプレート:Mvar という記号は、微分形式として積分 f(x)dx に現れる テンプレート:Mvar と、しばしば同一視される。通常の積分ではテンプレート:Mathテンプレート:Mvar は、一組の記号でありそれぞれを別個の物として扱うことはできないが、各点で余接ベクトルとみなせば、テンプレート:Mvar という記号に意味を持たせることができる。各点に余接ベクトルを与えたものであるので、正確には余接ベクトル場を考えることになる。

写像の微分

多様体上の関数の微分は、多様体から多様体への写像の微分へと拡張される。

テンプレート:Mvar: テンプレート:Mvar 次元 テンプレート:Mvar 級多様体
テンプレート:Mvar: テンプレート:Mvar 次元 テンプレート:Mvar 級多様体

として、テンプレート:Mvar 級写像

テンプレート:Math

を考える。

テンプレート:Mvar の中の曲線

ϕ:(ε,ε)M
ϕ(0)=pM

をとり、 テンプレート:Mvar を含む座標近傍 テンプレート:Math を取る。 曲線 テンプレート:Mvarテンプレート:Math における接ベクトルは

vϕ=i=1adxidtxi

と書ける。

ここで テンプレート:Mvarテンプレート:Mvarテンプレート:Mvar の中へ写した曲線

(fϕ):(ε,ε)N
f(ϕ(0))=qN

と、 テンプレート:Mvar を含む座標近傍 テンプレート:Math を取る。同様に テンプレート:Math における接ベクトルは

v(fϕ)=j=1bdyjdtyj

となる。この接ベクトルの係数は、 テンプレート:Mvar の局所座標系を用いると合成関数の微分により

dyjdt(0)=i=1ayjxidxidt(0)

となることが分かる。行列を用いて書くと

(dy1dtdybdt)=(y1x1y1xaybx1ybxa)(dx1dtdxadt)

となる。右辺の テンプレート:Math 行列

Jf:=(y1x1y1xaybx1ybxa)

関数行列(ヤコビ行列)である。それぞれの接ベクトルは テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar の周辺の様子を表しているが、 テンプレート:Mvar の周辺が テンプレート:Mvar によってどのように テンプレート:Mvar の周辺にうつされているのか?を表現しているのが、この関数行列 テンプレート:Mvar である。

こうして

(df)p:Tp(M)Tq(N)

という対応ができ、この テンプレート:Mvar

f:MN

テンプレート:Mvar における微分という。つまり、微分というのは接ベクトル空間から接ベクトル空間への線型写像のことであり、微分を用いることによって写像は局所的には線型代数学的な扱いが可能になる。

テンプレート:Math の行列としての表示 テンプレート:Mvar階数テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar における階数テンプレート:Lang といい、 テンプレート:Math と書くと

rankp(f)min(a,b)

である。

関連項目