完全微分

提供: testwiki
ナビゲーションに移動 検索に移動

テンプレート:About

完全微分(かんぜんびぶん、テンプレート:Lang-en-short)とは、関数の全微分として書ける1次の微分形式の事で、多様体論などの数学の分野では(1次の)完全形式と呼ばれる。本項では主に物理学に応用する事を想定して直観的に完全微分を説明する。より厳密な取り扱いは微分形式外微分等の項目を参照されたい。

概要

定義

テンプレート:Math theorem テンプレート:Math theorem 滑らかな関数テンプレート:Mvarに対し、全微分dAテンプレート:Mvar微分形という。また完全微分ω=ifi(x)dxiに対し、ω=dAとなる滑らかな関数A:Mテンプレート:Mvarポテンシャルテンプレート:Lang-en-short)という[1]

完全微分テンプレート:Mvarのポテンシャルは微分積分学の基本定理より定数項を除いて一意である[2]。すなわち、ω=dA1=dA2ならA1(x)=A2(x)+Cを満たす定数Cが存在する。


なお、数学と物理学で名称が異なるので、下記のように表でまとめた:

(2)の形で書けるもの (1)で(2)の形に書けないもの (2)の形を得る微分操作
数学 1次の完全形式 完全形式ではない1次の微分形式 外微分
物理 完全微分 不完全微分 全微分

不完全微分の表記

物理学では(1)を何らかの曲線テンプレート:Mvarに沿って線積分した

γf1(x)dx1++fn(x)dxn ...(3)

が何らかの物理量を表している事が多い。(1)の形の不完全微分を(3)のように線積分したものが物理量テンプレート:Mvarを表しているとき、(1)を

dB=f1(x)dx1++fn(x)dxn

のように表す。教科書によっては「dB[3]、「δB[4]と表記するものもある。

d」は全微分と区別するための「単なる記号」[4]であり、完全微分と区別する以上の意味はなく[4]dBが具体的になにかの関数の全微分になっている事を意味するわけではない。実際、一般には(3)の線積分γは経路に依存するため、物理量BxMに実数を対応させる関数xにはならず、各経路γに実数を対応させる関数γになってしまう。

次節で述べるように、BxMに実数を対応させる関数xになる必要十分条件は(1)の微分形式が完全微分な事である。

性質

テンプレート:Math theorem テンプレート:Math proof


(1)の微分形式が完全微分なら、(3)の線積分が経路に依存しないので、基点x0Mを固定し、

A(x)=x0xf1(x)dx1++fn(x)dxn

という(経路に依存せず、基点と終点だけに依存する)物理量を定める事ができる。そして上記のテンプレート:Mvarを全微分したdAが(1)の微分形式に一致する。なお前述のように、dAが(1)の微分形式と一致するテンプレート:Mvarは定数項を除いて一意である。

具体例

熱力学ではテンプレート:Mvarは熱力学的な「平衡状態」の空間であり[5]、具体的には物理的な系の内部エネルギー体積物質量(=モル数)といった変数で記述される空間nであるテンプレート:Efn2テンプレート:Efn2

不完全微分で記述される物理量の具体例としては熱量テンプレート:Mvarがあり、テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar上の不完全微分を線積分した形で定式化される。よってテンプレート:Mvar上でどのような経路γをたどったかによって熱量は異なってしまう[6]

一方完全微分で記述される物理量の例としては温度テンプレート:Mvarがある。テンプレート:Mvarは平衡状態xMに実数を対応させる関数T(x)として定式化できる量であり、したがってその全微分dT(これは定義により完全微分)の線積分としても書ける。そしてこの線積分の結果は経路によらず、終点xMのみで決まる量T(x)であるテンプレート:Efn2

熱力学では平衡状態xMに実数を対応させる関数として定式化できる物理量を状態量と呼ぶ。よって温度テンプレート:Mvarは状態量だが熱量テンプレート:Mvarは状態量ではない。上述の定理より、(1)の微分形式が完全微分か否かは、(3)の線積分の結果得られる物理量が状態量であるか否かを特徴づける事になる。

ポアンカレの補題

以上で説明したように、微分形式テンプレート:Mvarが完全微分か否かは物理的に重要な意味を持つため、本節ではω=dAが存在するための条件を見る。

微分形式ω=ifi(x)dxiに対し、ω=dAとなるAが存在すれば、fi(x)=Axiなので、fixj=2Axixj=fjxiとなる。したがって

fixj(x)=fjxi(x) for i,j,x

テンプレート:Mvarが完全微分であるための必要条件となる。

逆に上記の条件が成立してもω=dAとなるAテンプレート:Mvarの全域で定義された(一価のテンプレート:Efn2)関数として存在するとは限らない。しかし上記の条件を満たせば局所的にはそのようなAが存在する事が知られている:テンプレート:Math theorem一般には上記の定義で局所的に存在を保証されたテンプレート:Mvarテンプレート:Mvarの全域に拡張しようとすると、テンプレート:Mvar多価関数になってしまう。

例えばωが原点以外の2次元平面M=2{0}で定義されているときテンプレート:Efn2には原点の周りを「右回り」の曲線に沿ってテンプレート:Mvarを拡張したのか、「左回り」の曲線に沿ってテンプレート:Mvarを拡張したかによってテンプレート:Mvarの値は変わってしまう場合がある[7]。同様にテンプレート:Mvarトーラスであればトーラスの周りを「右回り」にテンプレート:Mvarを拡張したのか、「左回り」に拡張したかによってテンプレート:Mvarの値は変わってしまう場合がある。

テンプレート:Mvar単連結であれば(あるいはより一般に1次のコホモロジー群H1(M)テンプレート:Mvarであれば)、このような多価性の問題は生じず、テンプレート:Mvarテンプレート:Mvarの全域に拡張できる。詳細はド・ラームコホモロジーの項目を参照されたい。

偏微分関係式

三つの変数 テンプレート:Mvar が適当な可微分函数 テンプレート:Mvar に関する条件 テンプレート:Math によって束縛されているとすれば、全微分 𝑑𝑥=(xy)z𝑑𝑦+(xz)y𝑑𝑧,𝑑𝑧=(zx)y𝑑𝑥+(zy)x𝑑𝑦 が存在する[8]テンプレート:Rp。最初の式に二つ目の式を入れて並べ替えれば [1(zx)y(xz)y]𝑑𝑧=[(zx)y(xy)z+(zy)x]𝑑𝑦 を得る[8]テンプレート:Rpテンプレート:Mvar は独立な変数であるから、テンプレート:Mvar は制限なく選べる。最後の式が一般に成り立つためには、括弧で括った項が零とならねばならない[8]テンプレート:Rp。以下それが成立することを見よう:

テンプレート:Vanc
左辺の括弧の中を零と置けば (zx)y(xz)y=1 であり[8]テンプレート:Rp、これを逆数関係 (zx)y=1(xz)y にすることができる[8]テンプレート:Rp
三つの変数 テンプレート:Mvar置換を施して、もう二つ同様の関係式を導くことができる。テンプレート:Ill2により、逆函数の偏微分がもとの函数の偏微分の逆数に等しいことが示されるから、これらの関係式は満たされる。
輪環関係式
テンプレート:Ill2とも呼ばれる輪環関係式 (zx)y(xy)z=(zy)x により、右辺の括弧の中も零であることが導かれる[8]テンプレート:Rp
実際、テンプレート:Mvar に対する相反関係式を用いて、上記の式を並べ替えたものは輪環関係式 (xy)z(yz)x(zx)y=1 である[8]テンプレート:Rp

代わりに テンプレート:Mvar に対する相反関係式を用い、並べ替えれば陰函数の微分法則 (yx)z=(zx)y(zy)x が得られる。

いくつか有用な等式

主変数 テンプレート:Mvar は副変数 テンプレート:Mvar の函数かつ テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar の函数とし、各々に関する微分は完全微分とする。連鎖律により、 テンプレート:NumBlk となるが、やはり連鎖律により テンプレート:NumBlk および テンプレート:NumBlk により テンプレート:NumBlk となり、さらに テンプレート:NumBlk を導く。テンプレート:Math と置けば テンプレート:NumBlk および テンプレート:Math と置けば テンプレート:NumBlk あるいは、テンプレート:Math と置いて テンプレート:NumBlk また相反関係式により三重積の微分法則 テンプレート:NumBlk を得る。

関連項目

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ

注釈

テンプレート:Reflist

出典

テンプレート:Reflist

参考文献

  • Perrot, P. (1998). A to Z of Thermodynamics. New York: Oxford University Press.
  • Zill, D. (1993). A First Course in Differential Equations, 5th Ed. Boston: PWS-Kent Publishing Company.

外部リンク

  1. 引用エラー: 無効な <ref> タグです。「新井100」という名前の注釈に対するテキストが指定されていません
  2. 引用エラー: 無効な <ref> タグです。「清水125」という名前の注釈に対するテキストが指定されていません
  3. テンプレート:Cite book
  4. 4.0 4.1 4.2 テンプレート:Cite web
  5. *テンプレート:Cite book
  6. テンプレート:Cite book
  7. 引用エラー: 無効な <ref> タグです。「新井105」という名前の注釈に対するテキストが指定されていません
  8. 8.0 8.1 8.2 8.3 8.4 8.5 8.6 テンプレート:Cite book