相空間

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テンプレート:Otheruses

ローレンツ方程式テンプレート:Mvar 相空間とその上の軌道の例

力学系理論における相空間(そうくうかん、テンプレート:Lang-en-short)は、対象のシステムが取る状態全てから成る抽象的な空間であるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn状態空間(じょうたいくうかん、テンプレート:Lang-en-short)ともいうテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

物理学分野の解析力学(とくにハミルトン力学)では相空間と同種のものが、位置と運動量を座標した空間という狭い意味で用いられており、位相空間とも呼ばれる。数学分野では普通は topological space の意味で「位相空間」という用語を使うことから、混乱のおそれがあるときや数学分野では phase space の意を指すために「相空間」を使う。

背景と用語

力学系とは、システム(系)の将来の状態が現在の状態から一意に決まる決定論的な過程を、数学的に定式化したものを指すテンプレート:Sfn。相空間 テンプレート:Mvar とは、力学系の基本構成要素の一つで、対象のシステムが取り得る状態全てを集めてできる集合であるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。さらに、現在の状態から次の状態を定める決定論的法則 テンプレート:Mvar と時間 テンプレート:Mvar の2つを加えて、テンプレート:Math の一組で力学系が成立するテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。相空間というものを導入することによって、空間上の1点を指定する形でシステムの状態を議論できるようになるテンプレート:Sfn。すなわち相空間とは、システムの状態の振る舞いを解析するときに、そのシステムの状態は空間上でどんな動きをするのかという視点に切り替える概念的道具といえるテンプレート:Sfn

物理的な空間の単振り子の運動(下図)を、相空間(上図)の点の運動として表したアニメーション。上図の横軸が振れ角 テンプレート:Mvar で、縦軸が角速度 テンプレート:Mvar に該当する。

通常、系の状態はいくつかの変数で表されるテンプレート:Sfn。これらの変数は状態変数などと呼ばれるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。例えば、力学系の例として、長さ一定で空気抵抗やその他外部からの影響を排した単振り子の運動を考える。このシステムの状態は振れ角 テンプレート:Mvar とその角速度 テンプレート:Mvar で一意に決まるので、テンプレート:Math が状態を表す変数であるテンプレート:Sfn。そして、テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar の組全体から成る抽象的な空間(テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar を座標とする平面)を考えると、それがこのシステムの相空間であるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。相空間を構成する一つひとつの要素は、単にと呼ばれるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnほかに、テンプレート:Sfnテンプレート:Sfn相点テンプレート:Sfnテンプレート:Sfn位相テンプレート:Sfnテンプレート:Sfn位相点テンプレート:Sfnテンプレート:Sfn代表点テンプレート:Sfnテンプレート:Sfn状態テンプレート:Sfnなどと呼ばれる。

相空間上の点は、時間変化によって相空間内を動く。相空間上を点が動いてできる経路は軌道と呼ばれるテンプレート:Sfn。時間を連続的なものとして考える力学系では、軌道は相空間上で連続的な曲線を描くテンプレート:Sfn。一方、時間を離散的なものとして考える力学系では、軌道は相空間上でとびとびの点列となるテンプレート:Sfn。決定論的に状態が定まるという要請により、相空間における2つの異なる軌道が交わることはないテンプレート:Sfn。ある力学系の全軌道の概略を相空間上に示した図を、相図テンプレート:Lang-en-short)というテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

力学系の従属変数の個数すなわち相空間の座標の数は、相空間または力学系の次元と呼ばれるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。特に相空間は、状態変数が実数1つ(テンプレート:Math)のときには相直線と、状態変数が実数2つ(テンプレート:Math)のときには相平面と呼ばれることもあるテンプレート:Sfnポアンカレ・ベンディクソンの定理に代表されるように、相空間の次元と形状は軌道の形状に制限を与えるテンプレート:Sfn。一般的に、系が非線形でなおかつ高次元になるほど系の取り扱いが難しくなるテンプレート:Sfn。状態の空間的に連続的に分布している偏微分方程式で記述されるような力学系では、相空間の次元は無限になるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

種類

一般的なレベルでの力学系(とくに位相力学系)では、相空間を位相空間テンプレート:Lang-en-short)として設定するテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。ただし、相空間をまったく純粋な位相空間に設定すると、あまり詳しい結果は得られないテンプレート:Sfn。実際には、位相空間であることに加え、いくつかの前提(例えば距離空間であること)を相空間に持たせて議論されるテンプレート:Sfn。特に相空間がコンパクトであると仮定できれば、位相力学系に関する多くの結果を得ることができ、一般的な枠組みを議論できるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

力学系の例として多いのは、システムの状態がいくつかの実数の組 テンプレート:Math で表される場合で、空間としてはユークリッド空間 テンプレート:Math あるいはその部分集合で考えられることが多いテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。力学系の軌道は特定の多様体上に制限されていることもあり、より一般的には相空間は多様体となるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。多様体に制限することで、それぞれの多様体が持つトポロジカルな性質を利用することもできるテンプレート:Sfn。上記の単振り子の例でいえば、角速度 テンプレート:Mvar は単に実数だが、振れ角 テンプレート:Mvar の定義域は テンプレート:Math であり、これは幾何学的には円周と同一視できるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。したがって、単振り子の系の相空間は、円周 テンプレート:Math または テンプレート:Math と直線 テンプレート:Math直積集合で、幾何学的には無限に長い円柱面となるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。ただし、いくつかの注意を払えば、相空間を テンプレート:Math あるいはその部分集合と仮定しても多くの場合で一般性は失われないテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

ロトカ・ヴォルテラの方程式における相平面上のベクトル場と軌道の様子

可微分力学系では相空間は微分構造を持ち、ベクトル場で定まる連続力学系がその典型例であるテンプレート:Sfn。状態変数を テンプレート:Math、時間を テンプレート:Math とする。力学系が テンプレート:Mvar 連立一階微分方程式

テンプレート:NumBlk

で与えられるとき テンプレート:Math、相空間上の各点にはベクトル テンプレート:Math が対応するテンプレート:Sfn。このとき、テンプレート:Math は解曲線の接ベクトルに一致し、各点が時間経過したときに動く方向と大きさを表すテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

測度論的力学系を展開するときは、相空間は可測構造を持つテンプレート:Sfn。この場合、相空間 テンプレート:Mvar に対して

を満たすσ-集合体 テンプレート:Mvar が存在し、テンプレート:Math に対して、

を満たす確率測度 テンプレート:Mvar が与えられるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。さらに

を満たす保測写像 テンプレート:Mvar を組にして測度論的力学系が成立するテンプレート:Sfn

記号力学系では、相空間 テンプレート:Mvar は記号列の集まりとなるテンプレート:Sfn。記号が2種類から成り、記号列が両側無限列であるような場合、記号列 テンプレート:Mvar

x={, a2, a1, a0, a1, a2, }

で与えられるテンプレート:Sfn。ここで、テンプレート:Mvar は記号 テンプレート:Math または テンプレート:Math のいずれかを取るテンプレート:Sfn。この場合の相空間 テンプレート:Mvar は全ての記号列 テンプレート:Mvar の集合でテンプレート:Sfn、しばしば テンプレート:Mvar とも記すテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。さらに、異なる テンプレート:Mvar 同士の距離を定義し、テンプレート:Mvar に適用すると記号を一斉に左にずらす働きをするシフト写像 テンプレート:Mvar を用意し、記号力学系を構成するテンプレート:Sfn

拡大相空間

式 (テンプレート:EqNoteN) のような テンプレート:Mvar が時間 テンプレート:Mvar を陽に含まない微分方程式系は自律系と呼ばれるテンプレート:Sfn。自律系の微分方程式系は、現在の状態 テンプレート:Mvar のみで次の状態が定まるという力学系の決定論的な考え方と合致するテンプレート:Sfn。一方で、以下のように テンプレート:Mvar を陽に含む微分方程式系は非自律系と呼ばれるテンプレート:Sfn

テンプレート:NumBlk

非自律系では テンプレート:Math を定めても、ベクトル テンプレート:Math は一つに定まらず、時間によって変化するテンプレート:Sfn。非自励系について相空間(テンプレート:Mvar が定義されている空間)上で軌道を考えると、自励系とは異なり軌道が交差し得るテンプレート:Sfn

そこで、元の状態変数 テンプレート:Mvar に時間 テンプレート:Mvar を加えた組 テンプレート:Math を座標とする空間 テンプレート:Math を考えるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Mvar を形式的に テンプレート:Math 番目の状態変数 テンプレート:Math と見なせば、

テンプレート:NumBlk

という風に自律系の テンプレート:Math 連立一階微分方程式に帰着でき、空間 テンプレート:Math 上の各点には方程式の右辺を成分とするベクトルが一意に定まるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。元の テンプレート:Mvar 次元相空間 テンプレート:Mvar と区別し、このような テンプレート:Math 次元空間 テンプレート:Math拡大相空間テンプレート:Lang-en-short)と呼ばれるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。拡大相空間で考えることによって軌道の交差が無くなるので、系の振る舞いを考察しやすくなるテンプレート:Sfn

非自律系が時間に関して周期的な場合、すなわち式 (テンプレート:EqNoteN) において テンプレート:Math を充たすような定数 テンプレート:Math が存在する場合、拡大相空間は テンプレート:Math よりも テンプレート:Math の空間で考える方が適するテンプレート:Sfnテンプレート:Mathテンプレート:Math で定まる1次元トーラスであるテンプレート:Sfn

解析力学における「相空間」

テンプレート:Main 物理学の解析力学(とくにハミルトン力学)で扱われる相空間は、物体の位置 テンプレート:Mvar運動量 テンプレート:Mvar を座標とする空間であるテンプレート:Sfn。これに対し、位置 テンプレート:Mvar だけの空間は配位空間と呼ばれるテンプレート:Sfnテンプレート:Mvar自由度テンプレート:Mvar のとき、相空間は テンプレート:Math 次元 となるテンプレート:Sfn

狭い意味での「相空間」は、このような力学分野における位置と運動量を座標にした テンプレート:Math 次元空間を指すテンプレート:Sfn。力学における「相空間」も、数学における「相空間」も、もとは phase space からの和訳で、数学以外では「位相空間」とも訳されるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。しかし、数学では前出の topological space の意味で「位相空間」という用語を使うので、数学分野または混合のおそれがある場合には phase space の意味では「相空間」という用語を使うテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。「phase space」という用語自体は、力学における「phase space(位相空間)」の方が先で、それを借用して数学でも「phase space(相空間)」という用語で用いられているテンプレート:Sfn

出典

テンプレート:Reflist

参照文献

外部リンク

テンプレート:Commonscat

テンプレート:Normdaten