軌道 (力学系)

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テンプレート:混同 力学系における軌道(きどう)とは、初期条件に対して時間発展のルールを適用したときに定まる、相空間上の点の集合である。連続的な時間を仮定した系だと、軌道は相空間内で一本の曲線となり、離散的な時間を仮定した系だと、軌道は相空間内で点列となる。

定義

一般

力学系を定める相空間テンプレート:Mvar、時間を テンプレート:Mvar、時間発展のルールを テンプレート:Mvar とする。ある テンプレート:Math に固定したときの テンプレート:Mvar写像 テンプレート:Math と表し、テンプレート:Math である。テンプレート:Mvar結合法則 テンプレート:Math2 で表される構造を持ち、テンプレート:Math は、

  1. ϕe=id
  2. ϕt1ϕt2=ϕt1+t2

という性質を満たすテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。ここで テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar単位元テンプレート:Math恒等写像テンプレート:Math写像の合成を意味する。

このような力学系 テンプレート:Math において

O(x0)={xXϕt(x0),tT}

で定義される テンプレート:Mvar順序部分集合 テンプレート:Math軌道テンプレート:Lang-en-shortテンプレート:Lang-en-short)と呼ぶテンプレート:Sfn。ただし、テンプレート:Mvar が取り得る値は テンプレート:Math が定義されている範囲に限られるテンプレート:Sfnテンプレート:Math は「テンプレート:Math を通る軌道」と呼ばれるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。軌道の記号には、テンプレート:Math テンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnの他に、テンプレート:Math テンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Math テンプレート:Sfnテンプレート:Math テンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Math テンプレート:Sfnテンプレート:Math テンプレート:Sfnなどの表記がある。

群論の言葉では軌道は次のように定義される。上記を満たす写像 テンプレート:Mvar を、群 テンプレート:Mvar の集合 テンプレート:Mvar への作用という。この作用 テンプレート:Mvar について、テンプレート:Mvar 上の2点 テンプレート:Math が適当な テンプレート:Mvar を選びさえすれば テンプレート:Math という関係を満たすとき、テンプレート:Math同値関係 テンプレート:Math にあると定義する。この同値関係によって テンプレート:Mvar を分ける同値類軌道 テンプレート:Math であるテンプレート:Sfn

時間 テンプレート:Mvar整数 テンプレート:Math のときの力学系を離散力学系と呼び、テンプレート:Mvar実数 テンプレート:Math のときを連続力学系と呼ぶテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。相空間上のどの点も初期値となりうるので、相空間は何かしらの軌道によって完全に埋め尽くされるテンプレート:Sfn。力学系理論の主目的は、系の軌道の性質・振る舞いを調べることにあるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。特に力学系理論の場合、時間が正または負の無限大に発散するときの漸近的振る舞いを問題とするテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。軌道同士の相互関係や、系に摂動が加わったときに起こる軌道全体の構造の変化なども力学系理論の題目であるテンプレート:Sfn

離散力学系

二次元離散力学系の軌道の例。実部が正の複素固有値を持つ線形系で、渦状源点型の軌道すなわち回転しながら原点から離れていく軌道を取る。軌道は相平面上の点列となる(点をつなぐ矢印は補助のために示されている)。

離散力学系は写像の反復によって定義されるテンプレート:Sfn。相空間上のある点 テンプレート:Math写像 テンプレート:Math を繰り返し適用することで、テンプレート:Math という点列が得られる。点列は テンプレート:Math2 とも表すテンプレート:Sfn。この点列が離散力学系の軌道であるテンプレート:Sfn。多くの力学系で テンプレート:Mvar連続写像であるテンプレート:Sfn

例えば、テンプレート:Math 上の正弦関数 テンプレート:Math で定義される離散力学系を考える。テンプレート:Math とすると、

x0=123x1=0.4599x2=0.4438x300=0.0975x301=0.0974

というような数列がその軌道であるテンプレート:Sfn

細かく分けると、点列 テンプレート:Math は特に前方軌道テンプレート:Sfnテンプレート:Sfn正の半軌道テンプレート:Sfnテンプレート:Sfnと呼ばれ、テンプレート:Math テンプレート:Sfnテンプレート:Math テンプレート:Sfnのように表す。

O+(x0)={fn(x0)n=0, 1,2,}

一方、テンプレート:Mvar が可逆で逆写像 テンプレート:Math を持つとき、テンプレート:Math は恒等写像だとして、テンプレート:Math についても写像の反復 テンプレート:Math が定義できるテンプレート:Sfn。それによって、テンプレート:Math という点列が定義でき、テンプレート:Math などのように表すテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

O(x0)={fn(x0)n=0,1,2,}

逆写像によって定まる点列 テンプレート:Math後方軌道テンプレート:Sfnテンプレート:Sfn負の半軌道テンプレート:Sfnと呼ばれる。正の半軌道と負の半軌道を足し合わせた集合

O(x0)={fn(x0)n}={, f2(x0), f1(x0), x0, f(x0), f2(x0), }={, x2, x1, x0, x1, x2, }

軌道テンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn全軌道テンプレート:Sfnテンプレート:Sfnと呼ぶ。

連続力学系

二次元連続力学系の軌道の例。実部が正の複素固有値を持つ線形系で、渦状源点型の軌道すなわち回転しながら原点から離れていく軌道を取る。軌道は相平面上の曲線となる。

連続力学系を定義する一番普通の方法は、微分方程式による定義であるテンプレート:Sfn。相空間 テンプレート:Mvarユークリッド空間多様体だとする。未知関数 テンプレート:Math常微分方程式系

dx(t)dt=V(x(t))

を考える。この微分方程式が初期条件 テンプレート:Math を満たすテンプレート:Math と表す。微分方程式を決めている関数 テンプレート:Mathテンプレート:Mvar 上にベクトル場を与えるテンプレート:Sfn。この解 テンプレート:Math は上の節で一般的に定義した写像 テンプレート:Math と等しいテンプレート:Sfn

微分方程式の解が存在する テンプレート:Mvar の領域を テンプレート:Math とする。連続力学系の軌道とは、

O(x0)={x(t, x0) tI}

で定義される集合であるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。ただし、テンプレート:Math には テンプレート:Mvar が小さい方から大きい方に向かって向きが付いているテンプレート:Sfn

簡単のために テンプレート:Math だと仮定すれば、連続力学系の正の半軌道は、

O+(x0)={x(t, x0)0t<}

で定義され、負の半軌道は、

O(x0)={x(t, x0)<t0}

で定義されるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。正の半軌道と負の半軌道を足し合わせた集合

O(x0)={x(t, x0)t}

を離散力学系と同様に軌道テンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn全軌道テンプレート:Sfnと呼ぶ。

連続力学系の テンプレート:Math を通る軌道は、相空間上の テンプレート:Math を通る一つの曲線に対応するテンプレート:Sfn。この曲線を微分方程式の解曲線とも呼ぶテンプレート:Sfn。軌道(解曲線)上の各点 テンプレート:Mvar にはベクトル場のベクトル テンプレート:Math が存在し、軌道に接しているテンプレート:Sfn。解曲線のことを解軌道という風に呼ぶこともあるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。微分方程式を満たす解 テンプレート:Math を指して解軌道テンプレート:Sfnテンプレート:Sfnや軌道テンプレート:Sfnテンプレート:Sfnと呼ぶこともある。

特殊な軌道

不動点・平衡点

テンプレート:Main もっとも単純な軌道としては、離散力学系の不動点と連続力学系の平衡点があるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。これら2つを共に「不動点」テンプレート:Sfnテンプレート:Sfnと呼んだり、「平衡点」テンプレート:Sfnテンプレート:Sfnと呼ぶこともある。以下では区別して記す。

離散力学系の不動点とは、写像 テンプレート:Mvar を適用しても動かない点のことで、テンプレート:Math を満たす点 テンプレート:Math であるテンプレート:Sfn。不動点 テンプレート:Math での軌道は テンプレート:Math という定数の列となるテンプレート:Sfn。連続力学系の平衡点とは、時間が経っても動かない点であるテンプレート:Sfn。平衡点 テンプレート:Math での軌道は テンプレート:Math となるテンプレート:Sfn。微分方程式で定まる系の場合、定常解 テンプレート:Math のことで、微分方程式の右辺(ベクトル場)テンプレート:Math を満たす点 テンプレート:Math が平衡点であるテンプレート:Sfn

ひとまとめされることがあるように不動点も平衡点も同じ性質のものだといえるテンプレート:Sfn。一般化された定義を与えると、時間発展のルール テンプレート:Math が任意の テンプレート:Math について テンプレート:Math を満たすときの テンプレート:Math が不動点・平衡点であるテンプレート:Sfn。不動点・平衡点を調べることは、一般の軌道を調べるよりも総じて容易であり、与えられた力学系を理解するための重要な手がかりとなるテンプレート:Sfn

周期軌道

テンプレート:See also もう一つの比較的単純な軌道が周期軌道であるテンプレート:Sfn

離散力学系で、非零のある自然数 テンプレート:Math について テンプレート:Math を満たす テンプレート:Math周期点と呼ぶテンプレート:Sfn。条件を満たす最小の テンプレート:Mvar を周期テンプレート:Sfnや最小周期テンプレート:Sfnと呼ぶ。そして、ある周期点を通る軌道を周期軌道と呼びテンプレート:Sfn、軌道は周期的であるというテンプレート:Sfn。周期 テンプレート:Mvar の軌道だと

O(x0)={x0, f(x0), f2(x0),, fk1(x0), x0, f(x0), f2(x0),}

のようになるテンプレート:Sfn。周期軌道の各点は全て同じ周期の周期点であるテンプレート:Sfn

連続力学系の場合、非零のある実数 テンプレート:Math と任意の テンプレート:Mvar について微分方程式の解が テンプレート:Math を満たすとき、解を周期解と呼ぶテンプレート:Sfn。条件を満たす最小の テンプレート:Mvar を周期テンプレート:Sfnや最小周期テンプレート:Sfnテンプレート:Sfnと呼ぶ。このような解の軌道、すなわち集合

O(x0)={x(t, x0)0tT}

が連続力学系の周期軌道であるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。連続力学系の周期軌道は相空間上で閉曲線となり、そのため閉軌道とも呼ばれるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

準周期軌道

相空間がトーラスになると、準周期軌道という種類の軌道が存在し得るテンプレート:Sfn。2次元トーラス テンプレート:Math 上の

dθ1dt=ω1
dθ2dt=ω2

という微分方程式を考える。トーラスは テンプレート:Math を法として得られる商集合 テンプレート:Math と見なし、テンプレート:Math であるテンプレート:Sfn

テンプレート:Math有理数のとき、この連続力学系の軌道はトーラス上で周期軌道となるテンプレート:Sfn。一方、テンプレート:Math無理数のとき、任意の解は テンプレート:Math 上を稠密に埋めつくすテンプレート:Sfn。後者のような解を準周期解テンプレート:Sfn、軌道を準周期的であるテンプレート:Sfnあるいは準周期軌道テンプレート:Sfnテンプレート:Sfnと呼ぶ。軌道が準周期的なとき、軌道は閉じることも自己交差することもなく、トーラスに永久に巻きつきながら、トーラス上を軌道で埋め尽くすテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。一般の テンプレート:Mvar 次元トーラス テンプレート:Math についても同種のことが成り立つテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

テンプレート:Math 上の準周期軌道をポアンカレ写像によって離散力学系に落とし込むと、ポアンカレ断面でトーラスを切り取った格好となるので、準周期軌道は断面上で閉じた曲線として反映されるテンプレート:Sfnテンプレート:Math でポアンカレ写像を構成すると、

f(θ2)=θ2+2π(ω2/ω1)(mod2π)

となり、円周上の点を角度 テンプレート:Math ずつ動かす写像になるテンプレート:Sfnテンプレート:Math無理数のとき、この写像の軌道は円周を稠密に埋め尽くすテンプレート:Sfn。離散力学系のこのような軌道も準周期的テンプレート:Sfn準周期軌道テンプレート:Sfnと呼ばれることもある。

出典

テンプレート:Reflist

参照文献