ブラウアー群
数学において、体 テンプレート:Mvar に対するブラウアーの多元環類群(たげんかんるい、テンプレート:Lang-en-short)あるいは単に テンプレート:Mvar のブラウアー群(ブラウアーぐん、テンプレート:Lang-en-short)テンプレート:Math は、体 テンプレート:Mvar 上の中心的単純環の森田同値類(多元環類、ブラウアー類)を元とするアーベル群で、その演算は多元環のテンソル積から誘導される。ブラウアー群は体上の斜体の分類の過程で考え出されたもので、名称は代数学者のリチャード・ブラウアーに由来する。さらに一般に、スキームのブラウアー群の概念も東屋多元環(東屋代数)を用いて定義される。
構成
体 テンプレート:Mvar 上の(階数有限な[* 1])中心的単純環とは、テンプレート:Mvar 上の階数が有限(多元環を加法とスカラー倍に関して テンプレート:Mvar 上のベクトル空間と見たときの次元が有限)な結合多元環であって、それ自身環として単純で、その中心がちょうど テンプレート:Mvar に一致する(テンプレート:Mvar 上中心的である)ものをいう。中心的単純環は、一般には斜体になるとは限らないが、しかし斜体によって類別することができることに注意しよう。
例えば、複素数体 テンプレート:Math はそれ自身の上の中心的単純環だが、実数体 テンプレート:Math 上中心的ではない(テンプレート:Math の中心は テンプレート:Math だから、テンプレート:Math 上中心的となるには大きすぎるということ)。フロベニウスの定理によれば テンプレート:Math を中心に持つ有限階数の斜体は実数体 テンプレート:Math と四元数体 テンプレート:Math のみである。またそれらの上の全行列環 テンプレート:Math および テンプレート:Math は テンプレート:Math 上の中心的単純環になるが(テンプレート:Math でなければ)斜体でない。
テンプレート:Mvar 上の中心的単純環 テンプレート:Mvar が与えられれば、それらの多元環としてのテンソル積 テンプレート:Math を考えることができるが、これは常に テンプレート:Mvar 上中心的になる。このことを見るには「体 テンプレート:Mvar 上の中心的単純環 テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar の代数閉包 テンプレート:Math への係数拡大を行えば全行列環 テンプレート:Math に同型: テンプレート:Math になる」(これを中心的単純環 テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar で分解する、テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar の分解体[* 2]であるなどと言い表す)という特徴づけを利用すると理解が容易である(行列環のテンソル積がふたたび行列環となることは、行列のクロネッカー積を考えればよい)。
一般に中心的単純環に関する閉包性質が与えられれば、それを満たす中心的単純環の全体はテンソル積のもとでモノイドを成すことに注意する。これを利用して群を得るために、アルティン–ウェダーバーンの定理(の、実際にはウェダーバーンの部分)を用いれば、中心的単純環を適当な斜体 テンプレート:Mvar 上の全行列環 テンプレート:Math の形に書くことができるが、このとき行列のサイズ テンプレート:Mvar は気にせずに、斜体 テンプレート:Mvar のほうだけに注目すればよい。つまり、任意の正整数 テンプレート:Mvar に対して、テンプレート:Math と テンプレート:Math を同一視するような関係は同値関係であり、その同値類はテンソル積に関して可逆になる。ここで、中心的単純環 テンプレート:Mvar の属する類の逆元となる類は、テンプレート:Mvar の逆転多元環 テンプレート:Math の属する類で与えられる(埋め込み像 テンプレート:Math は テンプレート:Mvar の中心に入るから、逆転環 テンプレート:Math への テンプレート:Mvar の作用は テンプレート:Mvar に対するそれと一致する)。これは、中心的単純環 テンプレート:Mvar の テンプレート:Mvar 上の階数を テンプレート:Mvar とすれば
が成り立つというように述べることもできる(ブラウアー群における逆元を与えるというのは、これだけでも逆転多元環の概念を考える意義は十分にある)。
例
- 以下の各場合については、体 テンプレート:Mvar 上の有限次元中心的斜体が テンプレート:Mvar 自身のみとなるから、従ってそのブラウアー群 テンプレート:Math は自明である。
- テンプレート:Mvar が代数閉体の場合、
- テンプレート:Mvar が有限体の場合(ウェダーバーンの小定理)、
- K が代数閉体上の代数曲線の函数体の場合(テンプレート:仮リンク)。
- 実数体 テンプレート:Math のブラウアー群 Br(R) は位数 テンプレート:Math の巡回群である。これは、テンプレート:Math 上有限次元の中心的斜体が テンプレート:Math 自身と四元数体 テンプレート:Math の(同型を除いて)ちょうど二つであることを示している。実際、テンプレート:Math であるから、テンプレート:Math の属する類はブラウアー群の位数 2 の元であることがわかる。
類体論との関係
ブラウアー群の概念は類体論の現代的な定式化において重要な役割を演ずる。局所類体論によれば、体 テンプレート:Mvar が局所体ならば、自然な中への同型(局所不変量、ハッセの不変数)テンプレート:Math が存在する。例えば実数全体の成す局所体 テンプレート:Math のブラウアー群 テンプレート:Math は同型 テンプレート:Math によって テンプレート:Math と同一視される。ブラウアー群の位数 テンプレート:Mvar の元は テンプレート:Mvar 上 テンプレート:Math-次元の巡回多元体に対応する。
大域体 テンプレート:Mvar の場合にも大域類体論による同様の記述がある。テンプレート:Mvar が体 テンプレート:Mvar 上中心的な多元環で テンプレート:Mvar をその賦値とすれば、テンプレート:Mvar の素点(賦値)テンプレート:Mvar における局所化 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math は局所体 テンプレート:Mvar 上の中心的単純環であるから、これにより テンプレート:Mvar のブラウアー群から テンプレート:Mvar のブラウアー群への準同型が定まる。与えられた中心的単純環 テンプレート:Mvar は有限個の例外を除くすべての賦値 テンプレート:Mvar に対して(テンプレート:Mvar で)分解するから、先ほどの準同型による テンプレート:Mvar の像はほとんど全てについて テンプレート:Math となり、ブラウアー群 テンプレート:Math は次の完全列
を満足することがわかる。ただし テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar の賦値全体の成す集合であり、矢印は各素点 テンプレート:Mvar ごとに定まる局所不変量 テンプレート:Math の直和を考えることによって与えられる。左側の完全性(二番目の写像の単射性)はテンプレート:仮リンクの内容であり、中央の完全性は大域類体論の深い事実に基づく。また、右辺の群 テンプレート:Math は テンプレート:Mvar に付随するイデール類の類構造の「ブラウアー群」であると解釈することができる。
性質
- 体 テンプレート:Mvar から拡大体 テンプレート:Mvar へのテンプレート:仮リンクは、テンプレート:Math から テンプレート:Math への制限写像を与える。(この制限の)核は、テンプレート:Mvar 上で分解する テンプレート:Mvar-代数のクラスの群 テンプレート:Math である。
- 任意の体のブラウアー群はねじれ群である[1]。
一般論
勝手な体 テンプレート:Mvar に対して、そのブラウアー群をガロワコホモロジーの言葉を使って
と書き表すことができる。ここで、テンプレート:Mathは テンプレート:Mvar の分離閉包である(テンプレート:Mvar が完全体ならば、これは テンプレート:Mvar の代数閉包に一致する)。
ブラウアー群の可換環に対する一般化はM.オースランダーとO.ゴールドマンによって成され、より一般にグロタンディークの導入したスキームへも一般化される。このような一般化においては、中心的単純環は体の代わりに東屋代数の上で考える。
注釈
関連項目
参考文献
- テンプレート:SpringerEOM
- Richard Pierce, Associative algebras. Graduate Texts in Mathematics, 88. Studies in the History of Modern Science, 9. Springer-Verlag, New York-Berlin, 1982 ISBN 0-387-90693-2
外部リンク
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- ↑ Lorenz (2008) p.194