クロス積

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3次元ベクトル テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar のクロス積(テンプレート:Math)。クロス積は、テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar のなす平行四辺形面積に等しい大きさを持ち、平行四辺形に垂直なベクトルとなる。

テンプレート:読み仮名は、3次元空間(3次元有向内積空間)において定義される、2つのベクトルから新たなベクトルを与える二項演算である。

2つのベクトル テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar のクロス積は乗算記号を用いて テンプレート:Math、あるいは角括弧を用いて テンプレート:Math と表される。

呼称

「クロス積」という呼称は、積の記号に十字(×)を用いることに由来する(同様にベクトルの内積は点()を用いることからドット積と呼ばれる)。またクロス積の別称として、テンプレート:読み仮名がある。「ベクトル積」は積 テンプレート:Math がベクトルとなることに由来する(同様に積 テンプレート:Math はスカラーとなるため、ドット積はスカラー積とも呼ばれる)。

日本語中国語では、クロス積(テンプレート:Zh-hantテンプレート:Zh-hans)をしばしば外積テンプレート:Zh-hantテンプレート:Zh-hans)と呼び、しばしば同義語として扱う。しかし「外積」という語は、より一般には外積代数における楔積も指し、必ずしも「クロス積」とは一致しない。 楔積とクロス積を区別のため、前者を外積と呼び後者をクロス積と呼ぶ。

テンプレート:En もまた「外積」と訳されるが、こちらは直積テンプレート:En)を意味する。

表記

2つのベクトル テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar のクロス積は、以下のように表記される。

定義

右手の法則によるクロス積の向き
右手系の外積

3次元空間上の2つのベクトル テンプレート:Mvar, テンプレート:Mvar のクロス積 テンプレート:Math は、以下のように定義される:

𝒂×𝒃=|𝒂||𝒃|sin(θ) 𝒏

ただし、テンプレート:Mvar は2つのベクトルのなす角の角度、テンプレート:Mathベクトルの大きさテンプレート:Mvar は2つのベクトルがなす平面に対し垂直単位ベクトルを表す(テンプレート:Mvar右手系になるように取る)。

行列式による定義

3次元の向き付けられたベクトル空間におけるクロス積は、任意のベクトル v に対してドット積との間に テンプレート:Indent の関係を満たすベクトルの二項演算である。ここで ⟨ · , · , · ⟩ はベクトルを標準的な基底により列ベクトルと同一視することで得られる3次正方行列である。det は行列式を表す。

幾何的なベクトルの演算として定義できる。

行列式の交代性から、

テンプレート:Indent

である。

従って、2つのベクトル ab のクロス積 a×b は、元のベクトル ab の両方と直交する。言い換えれば、2つのベクトルが作る平面法線と平行な方向を向いている。

ただし、法線のどちらの方向に向いているかは座標軸の選び方に依存し、右手系左手系に分けられる。右手系の場合は、a をその始点の周りに180度以下の回転角で回して b に重ねるときに右ねじの進む方向である。すなわち、右手の親指を a、人差し指をb としたときの中指がクロス積 a×b の向きを表す。左手系の場合は、b をその始点の周りに180度以下の回転角で回して a に重ねるときに右ねじの進む向きである。

行列式とスカラー積の線型性からクロス積も双線型性をもつ。 特に、2つのベクトル ab のクロス積 a×b は、元のベクトル ab の大きさに比例する。 また、二つのベクトル ab のなす角を θ とすれば、標準的な基底の下で

テンプレート:Indent

と成分表示することができる。これらのクロス積は

テンプレート:Indent

となる。従ってクロス積の大きさは

テンプレート:Indent

であり、2つのベクトルが作る平行四辺形の面積に等しい。

成分表示

標準的な基底を (eテンプレート:Sub,eテンプレート:Sub)=δテンプレート:Sub として、ベクトル a の成分 aテンプレート:Sub=(eテンプレート:Sub,a) により列ベクトルとの同一視 テンプレート:Indent を行う。ベクトル ab のベクトル積 [a,b] は テンプレート:Indent テンプレート:Indent テンプレート:Indent あるいは テンプレート:Indent となる。以上のことを形式的に テンプレート:Indent と表現することもある。

エディントンのイプシロン εテンプレート:Sub を用いると テンプレート:Indent である。

クロス積の幾何的意味

(図1)2つのベクトルのクロス積の大きさは、それらが作る平行四辺形の大きさとなる。
(図2)3つのベクトルのクロス積は、平行六面体を定義する。

2つのベクトルのクロス積は、2つのベクトルが作る平行四辺形の大きさに等しい(図1)。

𝒂×𝒃=𝒂𝒃|sinθ|

また、3つのベクトル abcは、平行六面体を定義する。(図2)。この平行六面体の体積 Vについて、

V=|𝒂(𝒃×𝒄)|

が成り立つ。ここで絶対値記号を付けたのは、3つのベクトルのクロス積が負になる場合を考慮してのことである。

なお、

𝒂(𝒃×𝒄)=𝒃(𝒄×𝒂)=𝒄(𝒂×𝒃)

である。

性質

分配律

一般に分配律

が成り立つ。

反交換律

一般に反交換律

が成り立つ。これは、行列式の交代性やリー代数反交換性からも説明できる。特に、自分自身とのベクトル積はテンプレート:Indent であり恒等的に零ベクトルである。(複零性)

内積の性質、 テンプレート:Indent テンプレート:Indent と異なることに注意が必要。

双線型性

行列式の多重線型性から、ベクトル積も双線型性である。任意のベクトルに abc とスカラー kl に対して テンプレート:Indentテンプレート:Indent が成り立つ。特に k=l=0 であれば テンプレート:Indent である。内積(スカラー積)の場合は零ベクトルとの積はスカラーのゼロであるが、ベクトル積の場合は零ベクトルであることに注意が必要。

ヤコビ恒等式

ベクトル積による演算結果はベクトルなので、別のベクトルとのベクトル積を考えることができる。3つのベクトルのベクトル積はベクトル三重積と呼ばれている。ベクトル三重積は テンプレート:Indent となる。3つのスカラーの積と異なり、ベクトル三重積では一般に テンプレート:Indent であり、結合法則が成り立たない。ベクトル積では結合法則に代わって テンプレート:Indent の関係式が成り立つ。これを変形すれば テンプレート:Indent が得られ、ヤコビ恒等式と呼ばれている。

三重積の証明

テンプレート:Main ベクトル三重積:𝒂×(𝒃×𝒄)

ベクトル𝒂とベクトル(𝒃×𝒄)の外積であるから、これはベクトルである。そのx 成分は

{𝒂×(𝒃×𝒄)}x=ay(𝒃×𝒄)zaz(𝒃×𝒄)y=ay(bxcybycx)az(bzcxbxcz)=aybxcyaybycxazbzcx+azbxcz=(aycy+azcz)bx(ayby+azbz)cx=(aycy+azcz)bx+axbxcx(ayby+azbz)cxaxbxcx=(axcx+aycy+azcz)bx(axbx+ayby+azbz)cx=(𝒂𝒄)bx(𝒂𝒃)cx

同様にして、y 成分、z 成分は、

{𝒂×(𝒃×𝒄)}y=(𝒂𝒄)by(𝒂𝒃)cy{𝒂×(𝒃×𝒄)}z=(𝒂𝒄)bz(𝒂𝒃)cz

ゆえに、

𝒂×(𝒃×𝒄)=(𝒂𝒄)𝒃(𝒂𝒃)𝒄

多次元への拡張

行列式を使った拡張

行列式による定義を拡張して、n 次元ベクトル空間における n - 1 項演算としてのベクトル積が テンプレート:Indent を定義できる。 完全反対称行列を用いれば テンプレート:Indent となる。

例えば、2次元のベクトル空間では単項演算として テンプレート:Indent となり、4次元ではそれぞれ三項演算として テンプレート:Indent となる。また、1次元では定数 1 となる。

多元数を使った拡張

3次元のクロス積

(a1,a2,a3)×(b1,b2,b3)=(a2b3a3b2,a3b1a1b3,a1b2a2b1)

は、4元数a+bi+cj+dk)のベクトル成分(bi+cj+dk の部分)の乗算

(a1i+a2j+a3k)(b1i+b2j+b3k)=(a1b1+a2b2+a3b3)+(a2b3a3b2)i+(a3b1a1b3)j+(a1b2a2b1)k

のベクトル成分で定義できる。ちなみに、スカラー成分を符号反転した a1b1+a2b2+a3b3内積になっている。

3次元のクロス積はハミルトン4元数の概念をもとにして、ウィラード・ギブズオリヴァー・ヘヴィサイドがそれぞれ独立に、ドット積と対になる数学的概念として考案した。

これを多元数に拡張すると、n + 1 元数の乗算から n 次元でのクロス積を定義できる。つまり、実数(1元数)、複素数(2元数)、4元数、8元数の乗算から、0次元、1次元、3次元、7次元でのクロス積が定義できる(要素数が多くなるため縦ベクトルで表す)。

()×()=()(a1)×(b1)=(0)(a1a2a3)×(b1b2b3)=(a2b3a3b2a3b1a1b3a1b2a2b1)(a1a2a3a4a5a6a7)×(b1b2b3b4b5b6b7)=(a2b3a3b2a4b5+a5b4a6b7+a7b6a1b3+a3b1a4b6+a5b7+a6b4a7b5a1b2a2b1a4b7a5b6+a6b5+a7b4a1b5+a2b6+a3b7a5b1a6b2a7b3a1b4a2b7+a3b6+a4b1a6b3+a7b2a1b7a2b4a3b5+a4b2+a5b3a7b1a1b6+a2b5a3b4+a4b3a5b2+a6b1)

これら以外の次元では、必要な対称性を持つ乗算が定義できないため(これはアドルフ・フルヴィッツによって証明された)、クロス積は定義できない。また、0次元では自明なことを確認できるにすぎず、1次元のクロス積は常に零ベクトルである。

直積を使った拡張(外積)

クロス積は、直積

𝒂𝒃=𝒂𝒃=(aibj)

を使って

𝒂×𝒃=𝒂𝒃𝒃𝒂 (*)

と定義できる。ただしここで、反対称テンソル擬ベクトルを等価

(x,y,z)=(0zyz0xyx0)

としたが、これをホッジ作用素写像として明示すると

𝒂×𝒃=(𝒂𝒃𝒃𝒂)

と書ける。

(*)式はそのまま、一般次元での定義に使える。ただし、これで定義できる積は、クロス積ではなく外積と呼び、

𝒂𝒃=𝒂𝒃𝒃𝒂

で表す。外積は3次元ではクロス積に一致するが、同義語ではないので注意が必要である。

外積は2階の反対称テンソルであり、これはホッジ作用素により、n 次元では n - 2 階の擬テンソルに写像できる。つまり、2次元では擬スカラー(0階の擬テンソル)、3次元では擬ベクトル(1階の擬テンソル)に写像できるが、4次元以上ではテンソルとして扱うしかない。

外積(テンプレート:Lang-de)は、グラスマンによって導入されたが、当時はそれほど注目されず、彼の死後に高く評価された。

関連項目

テンプレート:Div col

テンプレート:Div col end

外部リンク