優秀環
可換環論の優秀環(ゆうしゅうかん、テンプレート:Lang-en-short)、またはエクセレント環とは、ネーターな可換環であって完備化の操作に関して振る舞いがよく、さらに強鎖状であるもののことをいう。また、強鎖状以外の条件を満たす環のことを準優秀環、または準エクセレント環という。優秀環は、数論や代数幾何学に現れるほとんどの環を含み、かつ振る舞いのよい自然な環のクラスを探求する中で生まれた。ネーター環がそのクラスだと考えられていた頃もあったようだが、一般のネーター環は必ずしも振る舞いがよくないことを示す奇妙な反例が永田雅宜らによって複数発見された。例えば、正規ネーター局所環は必ずしもテンプレート:仮リンクではない。
優秀環のクラスは、振る舞いのよい環のクラスの候補としてアレクサンドル・グロタンディークによって1965年に定義された。準優秀環上では特異点解消問題を解くことができるだろうと予想されている。標数0の場合には広中平祐によってこれは示されているテンプレート:Sfnが、正標数の場合は大きな未解決問題として残されている(2016年)。基本的には、代数幾何学や数論に自然に現れるネーター環はすべて優秀である。優秀ではないネーター環の例を構成するのはかなり難しい。
定義
優秀環の定義は非常に込み入っているため、まず優秀環の定義に必要な各種の技術的な条件を復習しなければならない。優秀環であるためには非常に多くの条件を満たす必要があるように見えるかもしれないが、実際にはほとんどの環は優秀である。例えば、体や多項式環、完備なネーター環、標数0のデデキント環( など)、そしてこれらの商や局所化を取ったものは全て優秀である。
定義の準備
- 体 を含む環 が 上テンプレート:仮リンクとは、 の任意の有限次拡大 に対して環 が正則であることをいう。
- 環 がテンプレート:仮リンク[1](またはグロタンディーク環)であるとは、ネーターかつその形式的ファイバーが幾何学的に正則であることをいう。これは、任意の に対して、その局所化から完備化への準同型 が先の意味で正則であるという意味である。
最後に、環がテンプレート:仮リンクであるとは、任意の有限型 代数 がJ-1であること、つまり正則部分スキーム が開であることをいう[2]。
優秀環と準優秀環の定義
環 がG環かつJ-2環であるとき準優秀という。さらに、強鎖状であるとき優秀という[3][4]pg 214。実際上のほとんどのネーター環は強鎖状なので、優秀環と準優秀環の差は大きくない。
スキームが優秀、または準優秀であるとは、この性質を持つ開アフィン部分スキームによる被覆を持つことをいう。このとき、任意の開アフィン部分スキームは同様の性質を持つ。
性質
優秀環 はG環なので[1]、定義よりネーター環である。強鎖状なので、任意の2つの素イデアルを結ぶ素イデアルの極大鎖はすべて同じ長さを持つ。テンプレート:要検証
スキーム
優秀スキーム に対して局所的に有限型な射 があったとすると、 は優秀である[4]pg 217。
準優秀環
準優秀環はテンプレート:仮リンク[5]。
準優秀かつ被約な局所環はテンプレート:仮リンク。
準優秀かつ正規な局所環はテンプレート:仮リンク[6]。
例
優秀環
以下の例に示されるように、数論や代数幾何学に自然に現れるほとんどの可換環は優秀である。
- 全ての完備ネーター局所環は優秀[7]。体や [[P進数|テンプレート:Math 進整数]]の環 テンプレート:Math など。
- 全ての標数テンプレート:Mathのデデキント環は優秀。特に、整数環 テンプレート:Math は優秀である。標数がテンプレート:Mathより大きい体上のデデキント環は優秀とは限らない。
- 実数体 テンプレート:Math や複素数体 テンプレート:Math 上の有限個変数の収束冪級数の環は優秀[8]。
- 優秀環の局所化は優秀[9]。
- 優秀環上有限生成な環は優秀[9]。したがって優秀環 上多項式で生成される環 は優秀である。これは代数幾何学で考察の対象になるほとんどの環は優秀であることを意味する。
G環ではないJ-2環
標数 テンプレート:Math で次元がテンプレート:Mathの離散付値環 テンプレート:Math でテンプレート:Mathであるがテンプレート:Math環ではない、したがって準優秀でもない環の例を挙げる。テンプレート:Math を標数 テンプレート:Math の体で テンプレート:Math となるものとする。冪級数 テンプレート:Math で テンプレート:Math が有限になるもの全体の環を テンプレート:Math とする。テンプレート:Math の形式的ファイバーは幾何学的に正則にならないので、テンプレート:Math はテンプレート:Math環ではない。次元がテンプレート:Math以下の全てのネーター局所環はテンプレート:Math環なので、これはテンプレート:Math環である。また、これはデデキント環なので強鎖状である。ここで、テンプレート:Math はフロベニウス射 テンプレート:Math による テンプレート:Math の像である。
J-2環ではないG環
G環だがJ-2環ではなく、したがって準優秀でもない環の例を挙げる。無限に多くの不定元を持つ多項式環 テンプレート:Math の部分環 テンプレート:Math を、全ての不定元の2乗と3乗で生成されるものとして定義し、テンプレート:Math で生成されるどのイデアルにも入らない元の逆元を テンプレート:Math に付け加えた環を テンプレート:Math とする。テンプレート:Math は1次元ネーター整域でG環であるが、テンプレート:Math の全ての閉点は尖型特異点なので特異点の集合が閉にならず、テンプレート:Math環ではない。この環も、任意の素イデアルでの局所化が正則環の商になるため、強鎖状である。
優秀ではない準優秀環
鎖状だが強鎖状ではない2次元ネーター局所環の永田の例はG環で、任意の局所G環はJ-2環テンプレート:HarvなのでJ-2環でもある。したがってこれは準優秀かつ鎖状な局所環だが優秀ではない環の例になっている。
特異点解消
準優秀環は特異点解消の問題と密接に関係している。準優秀環を定義したグロタンディークの動機[4]pg 218はこれだったと考えられる。グロタンディーク (1965) は、整な完備ネーター局所環の特異点を解消することが可能ならば、被約準優秀環の特異点を解消することも可能であることを観察した。広中平祐 (1964) は標数0の体上の整な完備ネーター局所環に対して特異点解消が可能であることを証明した。その結果、標数0の体上の優秀スキームの特異点は解消可能であることが示された。逆に、ネーター環 テンプレート:Mvar 上の整な有限代数の テンプレート:Math の特異点を解消することが可能ならば、環 テンプレート:Mvar は準優秀である[10]。
関連項目
脚注
参考文献
- Alexandre Grothendieck, Jean Dieudonné, Eléments de géométrie algébrique IV Publications_Mathématiques_de_l'IHÉS 24 (1965), section 7
- テンプレート:Springer
- テンプレート:Citation and テンプレート:Citation
- Hideyuki Matsumura, Commutative algebra テンプレート:ISBN2, chapter 13.
外部リンク
- ↑ 1.0 1.1 テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Cite web
- ↑ テンプレート:Citation
- ↑ 4.0 4.1 4.2 テンプレート:Cite journal
- ↑ テンプレート:Citation
- ↑ テンプレート:Citation
- ↑ テンプレート:Citation
- ↑ EGA IV2, p. 217 に「収束冪級数環が優秀であることを§18で見る」とある。ただし、§18に該当する記述は見当たらなかった。
- ↑ 9.0 9.1 テンプレート:Citation
- ↑ EGA IV2, Proposition 7.9.5.