化学ポテンシャル

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}} 化学ポテンシャル(かがくポテンシャル、テンプレート:Lang-en)は、熱力学で用いられる示強性状態量の一つで、浸透圧相平衡化学反応のようなマクロな物質量の移動が伴う現象で重要となる物理量である。 推奨される量記号は、μ(ミュー)である。

化学ポテンシャルの概念および記号と用語は、ウィラード・ギブズの1876年の論文『不均一な物質系の平衡に就いてテンプレート:Sfnで導入された。

化学ポテンシャルは、物質の多寡により系が潜在的に持つエネルギーの大きさの尺度となる量である。 例えば、半透膜で隔てられた二つの系の間に濃度差が有った場合、浸透圧が生じ仕事を為す事ができる。 また、物質が増減する化学反応では熱の出入り(発熱反応吸熱反応)を伴う。 このように、物質が存在することにより系は潜在的にエネルギーを持つ。 そのに含まれるある成分の単位物質量あたりのギブスエネルギーがその成分の化学ポテンシャルに相当する。

定義

熱力学的な系内部エネルギーテンプレート:Mathの微小変化テンプレート:Mathは、熱力学第一法則より、テンプレート:Indentである。ここで、テンプレート:Mathは外部から系に流れる熱量、テンプレート:Mathは外部が系にする仕事である。系のエントロピーテンプレート:Math熱力学的温度テンプレート:Mathとすると、テンプレート:Mathであるから、上式は、テンプレート:Indentである。系が外部と粒子の出入りがない場合では、テンプレート:Mathは力学的仕事テンプレート:Mathテンプレート:Mathは系の圧力テンプレート:Mathは系の体積)に等しく、テンプレート:Indentとなる[1]が、粒子の出入りがある場合では、テンプレート:Mathに化学的仕事[2]テンプレート:Mathが加わる(ここでテンプレート:Mathは粒子の種類(成分)を識別する記号である)。すなわち、テンプレート:Mathであり、テンプレート:Mathテンプレート:Indentとなる[2]。ここで、テンプレート:Mathは成分テンプレート:Mathの物質量テンプレート:Mathの微小変化を表しており、テンプレート:Math

  μi(S,V,𝑵)=(UNi)S,V,Nji

で定義される、化学ポテンシャルと呼ばれる量[3]である。(全微分も参照)ここで、括弧に付く添え字はその変数を一定にして偏微分することを意味する。また、テンプレート:Mathテンプレート:Math以外の全ての成分の物質量を表す。

その他の表現

化学ポテンシャルは様々な変数の組の関数として、また様々な熱力学ポテンシャルの偏微分の関数として表現される。例えば、テンプレート:Mathを系のヘルムホルツエネルギーとすると、成分テンプレート:Mathの化学ポテンシャルは

  μi(T,V,𝑵)=(FNi)T,V,Nji

と表される[4]。これは次のようにして示される。まず、F=UTSなので、その微小変化は、dF=dUSdTTdSである。ここで(*)のテンプレート:Mathを代入するとdF(T,V,𝑵)=SdTPdV+iμidNiであるから、上式が成り立つことが言える。ここで、テンプレート:Mathからテンプレート:Mathへの変換はルジャンドル変換となっている。同様に、系のギブズエネルギーテンプレート:Mathエンタルピーテンプレート:Mathに対して、

  μi(T,P,𝑵)=(GNi)T,P,Nji

  μi(S,P,𝑵)=(HNi)S,P,Nji

も示される。また、(*)より、エントロピーテンプレート:Mathの微小変化はdS=1TdU+PTdV1TiμidNiなので、

  μi(U,V,𝑵)=T(SNi)U,V,Nji

も成り立つ。

ギブズエネルギーとの関係

部分モルギブズエネルギー

温度 テンプレート:Mvar圧力 テンプレート:Mvar、および物質量の組 テンプレート:Math により平衡状態が指定される場合での化学ポテンシャルはテンプレート:Indent で与えられる[5]テンプレート:Sfn。 このように温度と圧力と、1成分を除いた物質量を固定した示量変数の偏微分は部分モル量(テンプレート:En)と呼ばれ[6][7]、この意味で化学ポテンシャルは部分モルギブズエネルギーに等しいテンプレート:Sfn

オイラーの関係式

系のスケール変換を考えれば、ギブスエネルギーと物質量の示量性、及び温度と圧力の示強性から、スケール・パラメータ テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Indent が成り立つ。これを テンプレート:Mvar について微分すれば テンプレート:Indent であり、テンプレート:Math と置けば テンプレート:Indent の関係が得られる。各成分の化学ポテンシャルとその成分の物質量の積の総和がギブズエネルギーとなる。

特に単一成分系では テンプレート:Indent であり、ギブズエネルギーは物質量に比例し、化学ポテンシャルは物質量に依らない。 つまり1成分系では温度と圧力が等しければ化学ポテンシャルは等しい。これは自由に熱を通し自由に動くことができる壁に穴を開けても、平衡状態は変化しない(壁の両側でマクロな物質量は変化しない)ことを意味する[8]

化学ポテンシャルの偏微分

温度テンプレート:Mvar、圧力テンプレート:Mvarを変数としたときの化学ポテンシャルの偏微分は テンプレート:Indent テンプレート:Indent となる。

 「ギブズ・デュエムの式」も参照

具体的な表示

気体の化学ポテンシャル

理想気体のモル体積は テンプレート:Math であり、これを積分すると テンプレート:Indent となる。ここで テンプレート:Math標準状態圧力テンプレート:Math は標準化学ポテンシャルである。

実在気体の場合はモル体積をビリアル展開テンプレート:Indent と表わしたものを積分すれば テンプレート:Indent となる。標準化学ポテンシャルは テンプレート:Indent で定義される[9]。 また、フガシティー テンプレート:Mvar を用いることで実在気体の化学ポテンシャルを テンプレート:Indent と表わすこともできる。ビリアル展開の形と比較すれば、フガシティーは テンプレート:Indent である[9]テンプレート:Main

混合のポテンシャル

混合物の組成をモル分率 テンプレート:Mvar の組で表したとき、理想混合系の化学ポテンシャルは テンプレート:Indent で表される[10]。ここで テンプレート:Sup純物質における量を表している。

特に理想混合気体では テンプレート:Indent となり、純粋系での圧力をその組成の分圧 テンプレート:Mvar で置き換えた形となる。 実在気体の混合系では、分圧をフガシティーへ置き換えて表される。 テンプレート:See also

実在の固溶体や実在溶液では、モル分率を活量へ置き換えて テンプレート:Indent で表わされる[11]テンプレート:Main

溶液の化学ポテンシャル

理想溶液において、溶質 テンプレート:Mvar の濃度が質量モル濃度 テンプレート:Mvar で表されるときの化学ポテンシャルは テンプレート:Indent で表される。ここで テンプレート:Math は標準質量モル濃度であり、通常 テンプレート:Math に選ばれる。

溶質の濃度がモル濃度 テンプレート:Mvar で表されるときの化学ポテンシャルは テンプレート:Indent で表される[12]。ここで テンプレート:Math は標準モル濃度であり、通常 テンプレート:Math に選ばれる。

実在溶液の場合は活量を用いることで、それぞれに テンプレート:Indent テンプレート:Indent と表わすことができる[13][12]。 無限希釈の極限 テンプレート:Math あるいは テンプレート:Math で理想溶液に漸近するので、標準化学ポテンシャルは テンプレート:Indent テンプレート:Indent で定義される[13]

見かけの化学ポテンシャル

溶質の濃度が質量モル濃度 テンプレート:Mvar で表されるときの溶媒のモル分率は テンプレート:Indent なので、理想溶液における溶媒の化学ポテンシャルは テンプレート:Indent である。実在溶液においては活量で置き換えて テンプレート:Indent となる。 ここで テンプレート:Indent は浸透係数であるテンプレート:Sfn。 このときギブズエネルギーは テンプレート:Indent となる。ここで テンプレート:Sup は見かけの量テンプレート:Enlinkを表している。

化学平衡

化学量論数 テンプレート:Mvar で表される化学反応において、反応進行度テンプレート:Mvar とすれば、物質量は テンプレート:Indent と表わされる。等温等圧条件下ではギブズエネルギーが減少する方向に変化が進行し、平衡状態においてギブズエネルギーが極小となる。従って テンプレート:Indent を満たす テンプレート:Mvar において化学平衡となる。 反応のギブズエネルギーは化学ポテンシャルを用いて テンプレート:Indent と書くことができて、理想混合気体においては テンプレート:Indent となる。 標準平衡定数テンプレート:Indent で定義すれば、平衡の条件は テンプレート:Indent となる。 テンプレート:Main

物性物理学への応用

モル数でなく、粒子数としての化学ポテンシャルμも考えることができる。固体電子論における電子系(例:電子ガス)でも化学ポテンシャルを定義することができ、特に温度T = 0 Kにおける化学ポテンシャル μ のことを、フェルミエネルギーεFと呼ぶ場合がある。 テンプレート:Indent

脚注

  1. 清水 明『熱力学の基礎』p.135
  2. 2.0 2.1 清水 明『熱力学の基礎』p.158 ただし、多成分の場合に拡張して書いてある。
  3. 清水 明『熱力学の基礎』p.107
  4. 田崎 p.174
  5. バーロー『物理化学(上)』 pp.233-235, §8.10
  6. バーロー『物理化学(上)』 p.163
  7. Kirkwood & Oppenheim p.9
  8. テンプレート:Cite book
  9. 9.0 9.1 Kirkwood & Oppenheim p.89-92, §7-6.
  10. バーロー『物理化学(下)』 p.612
  11. バーロー『物理化学(下)』 pp.619-621, §19.4
  12. 12.0 12.1 バーロー『物理化学(下)』 pp.621-624, §19.5
  13. 13.0 13.1 Kirkwood & Oppenheim p.160-164, §11-1.

参考文献

関連項目

外部リンク

テンプレート:Normdaten