形式微分
テンプレート:混同 数学のとくに抽象代数学における形式微分(けいしきびぶん、テンプレート:Lang-en-short)は、微分法における通常の微分を形の上で真似た、多項式環または形式冪級数環上で定義される演算である。結果だけ見れば通常の微分と同じと言えるけれども、形式微分は極限の概念に基づくものではない(そもそも一般の環では極限の概念が意味を持つとは限らないのであった)という点において、代数的操作であることは有意である。形式微分は通常の微分が満たす多くの性質を満足するけれども、一部、特に数値的な性質については満たさないことに留意しなければならない。
初等代数学において、形式微分を重根の判定に用いることができる。
定義
係数環 テンプレート:Mvar(可換でなくともよい)を決めて、テンプレート:Mvar 上の多項式環 テンプレート:Math を考える。テンプレート:Mvar 上の演算としての形式微分 "テンプレート:Math" または "テンプレート:Mvar" は、テンプレート:Mvar 上の多項式 に対して、その導多項式(形式導函数)と呼ばれる多項式 を対応付ける(これは実または複素数体上の多項式函数に対する通常の微分を考えたときとちょうど同じ式である)。
- 注
- ここで、自然数 テンプレート:Mvar と係数環の元 テンプレート:Mvar に対する テンプレート:Mvar のような式が係数に現れてくるが、これが上記の環における積でないことに注意すべきである: テンプレート:Math.
係数環が非可換の場合には、この定義ではやや不十分である(定義式が誤っているわけではないが、多項式の標準形がないので)。実際、この形だと、定数 テンプレート:Mvar-倍に関する公式 テンプレート:Math の証明は難しい。テンプレート:Efn
性質
以下のような性質を満足することが確認できる:
- 線型性
- 二つの多項式 テンプレート:Math およびスカラー テンプレート:Mvar に対し が成り立つ。
- テンプレート:Mvar が非可換の場合には、スカラー右乗版 テンプレート:Math が上記のスカラー左乗版とは別に成り立つ。
- テンプレート:Mvar が単位元を持たない場合には、多項式同士の(スカラー倍しない)和の場合や一方だけスカラー倍した場合の和に関する条件を別に書かないといけないことに注意。
- 積の微分(ライプニッツ則)
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- 積の順番に注意すべきである(特に テンプレート:Mvar が非可換のとき、安易に順番を変えることはできない)。
この二性質を満足することは、形式微分子 テンプレート:Mvar が テンプレート:Mvar 上のテンプレート:Ill2となることを意味する。
応用
重根判定法
微分積分学におけると同様に、導函数によって重根の判定が可能である。係数環 テンプレート:Mvar が体ならば テンプレート:Math はユークリッド環であり、この設定のもとでも「根の重複度」の概念が定義できる —任意の多項式 テンプレート:Mvar とスカラー テンプレート:Mvar に対して、非負整数 テンプレート:Mvar と多項式 テンプレート:Mvar が一意的に存在して とできる。この テンプレート:Mvar を テンプレート:Mvar の根としての テンプレート:Mvar の重複度と呼ぶのであった—。ライプニッツ則を用いれば、この設定においても、テンプレート:Mvar を繰り返し微分して テンプレート:Mvar が根に現れないようにするために必要な微分の回数が テンプレート:Mvar であることが確認できる。
この判定法の有効性というのは、「一般には テンプレート:Mvar に属する テンプレート:Mvar-次多項式が重複度を込めて テンプレート:Mvar 個の根を持つということは言えないけれど、係数体を(なかんづく、その代数閉包まで)拡大すればそうできる」のだけれども、こうしてしまうと単に テンプレート:Mvar 上で考えたのでは出てこない根が重根となるかもしれないということにある(例えば、係数環 テンプレート:Mvar を三元体 テンプレート:Math とするとき、多項式 は テンプレート:Mvar において根を持たないが、導多項式は零多項式である(テンプレート:Mvar およびその任意の拡大体において テンプレート:Math となるのであった)から、代数閉包に移れば テンプレート:Mvar における因数分解自体からでは見つからない重根がある)。その意味において、形式微分法は重複度の効果的な概念を与えるものになっている。
ガロワ理論では分離拡大(単根しか持たない多項式によって定義される)と非分離拡大を区別するから、このような判定法は重要である。
解析学的定義との対応
係数環 テンプレート:Mvar が可換環であるときには、形式微分の上記定義と同値な(そして微分積分学で見るものとよく似た)別定義をあたえることができる。二変数多項式環 テンプレート:Math において、その元 テンプレート:Mvar は、任意の自然数 テンプレート:Mvar に対する二項式 テンプレート:Mvar を整除するから、したがって任意の一変数多項式 テンプレート:Mvar に対する テンプレート:Math も整除する。そのときの商を テンプレート:Mvar と書けば、つまり と置けば、テンプレート:Math とした テンプレート:Math が テンプレート:Mvar の(上で定義した)形式微分に一致することを見るのは難しくない。
いま見たような形式微分の定式化は、係数環が可換である限りにおいて、形式冪級数に対しても同じく適用できる。
実用においては、本節における定義は テンプレート:Mvar として テンプレート:Mvar において連続な テンプレート:Mvar の函数のクラスで行えば古典的な通常の微分の概念の捉え直しになるものである。さらに強く テンプレート:Mvar 両方に関して(多変数連続性の意味で)連続な函数のクラスで適用すれば、一様可微分性の概念が得られ、また テンプレート:Mvar は連続的微分可能となる。同様にほかのクラスの函数(例えばリプシッツ函数のクラス)をとることにより、異なる毛色の可微分性概念を作ることができる。このように得られる微分法は、函数環の理論の一部を成すものである。