環上の射影直線

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数学における環上の射影直線（しゃえいちょくせん、テンプレート:Lang-en-short）は体上の射影直線を一般化するものである。

定式化

単位元 テンプレート:Math を持つ単位的環 テンプレート:Mvar が与えられたとき、テンプレート:Mvar 上の射影直線 テンプレート:Math はテンプレート:仮リンクによって特定される点からなる。テンプレート:Mvar の単元群を テンプレート:Mvar とし、テンプレート:Math において関係 テンプレート:Math を

テンプレート:Math

と定めると、テンプレート:Math は同値関係である。この同値類を典型的には テンプレート:Math と書く。このとき、テンプレート:Math は

テンプレート:Math

と定義される。ここに、テンプレート:Mvar が「互いに素」とは テンプレート:Mvar の生成するイデアルが テンプレート:Mvar 全体になる テンプレート:Math ことを言う。

射影直線 テンプレート:Math は、射影変換群 (homography group) を作用域に持つ。この各射影変換は テンプレート:Mvar 上の行列環とその単元群 テンプレート:Math によって表される。すなわち、テンプレート:Mvar の単元群 テンプレート:Mvar の中心 テンプレート:Math に属するスカラーに対応するスカラー行列の全体を テンプレート:Math とすれば、テンプレート:Math の テンプレート:Math への作用は自明であり、テンプレート:Math は テンプレート:Math の正規部分群で、テンプレート:Math 上の射影変換群は剰余群 テンプレート:Math に同型である。

埋め込み テンプレート:Math によって テンプレート:Math は テンプレート:Mvar のコピーを含むから、射影直線 テンプレート:Math を環 テンプレート:Mvar の拡張と看做すことができる。反転写像 テンプレート:Math（通常は テンプレート:Mvar の単元群 テンプレート:Mvar に制限される）は テンプレート:Math 上の射影変換

U(a,1)(0110)=U(1,a)∼U(a−1,1).

で表される。さらに言えば、テンプレート:Math

(v001)(0110)(u001)(0110)=(v00u)

と書けるから、

U(a,1)(v00u)=U(av,u)∼U(u−1av,1)

であり、特に テンプレート:Mvar 上の内部自己同型は テンプレート:Math まで拡張できる。テンプレート:Mvar は任意だから、テンプレート:Math で置き換えれば、写像 テンプレート:Math も射影変換に拡張できる。一般に、

U(z,1)(acbd)=U(za+b,zc+d)∼U((zc+d)−1(za+b),1).

が成り立つので、テンプレート:Math 上の射影変換は一次分数変換 (linear-fractional transformation) と呼ばれる。

例

テンプレート:仮リンクは有限射影直線を持つ。テンプレート:仮リンク テンプレート:Math 上の射影直線は三点 テンプレート:Math からなる。その上の射影変換群は、この三点の置換群であるテンプレート:Sfnテンプレート:Rp。

整数の合同類環 テンプレート:Math (テンプレート:Math) の三元を テンプレート:Math と書けば、その単元 は テンプレート:Math であるから、その上の射影直線は四点 テンプレート:Math からなる。この射影直線上の射影変換群は12個の元を持ち、やはり行列や置換として記述できるテンプレート:Sfnテンプレート:Rp。

有理整数環 テンプレート:Mvar 上の射影直線は テンプレート:Mvar と テンプレート:Mvar が互いに素であるような類 テンプレート:Math からなる。その上の射影変換群はモヂュラー群である。モヂュラー群のテンプレート:仮リンク は合同類環 テンプレート:Math 上の射影変換群をあたえる[1]テンプレート:Sfn

可除環上の射影直線は、もとの環にただ一つの無限遠点 テンプレート:Math を付け加えたものになる。例えば、実射影直線、複素射影直線あるいは四元数上の射影直線などがこれに当たる。これら位相環上の例では、射影直線はもとの環の一点コンパクト化を与えている。複素数体上の例における射影変換群はふつうメビウス群と呼ばれる。

二重数上の射影直線は テンプレート:Harvtxt に記述されている。二重数­環は テンプレート:Math を満たす非零冪零元 テンプレート:Mvar を持つ。二重数の成す平面 テンプレート:Math は テンプレート:Math なる形の無限遠点の成す直線を含む射影直線を持つ[2]。テンプレート:仮リンクは「反転付きガリレイ平面」("inversive Galilean plane") について記述した。この平面に無限遠直線を加えたものは円柱の位相を持つテンプレート:Sfnテンプレート:Rp。同様に、テンプレート:Mvar が局所環ならば、テンプレート:Math は テンプレート:Mvar の極大イデアルの元全体に対応する点を加えることで得られる。

分解型複素数環 テンプレート:Mvar 上の射影直線は、無限遠直線 テンプレート:Math および テンプレート:Math を与える。立体射影により、分解型複素数平面にこれら無限遠直線を加えたものは一葉双曲面にテンプレート:仮リンクされるテンプレート:Sfnテンプレート:Rpテンプレート:Sfn。テンプレート:Mvar 上の射影直線は、それを射影変換による双曲­面の振舞いによって特徴づけるとき、テンプレート:仮リンクとも呼ばれる。

鎖

複素数平面における実数直線は射影化で円となり、メビウス変換によって他の実­直線に写される（という議論は実際には実射影直線の複素射影直線への標準埋め込みに関して言う）。複素数体 テンプレート:Math を実数体 テンプレート:Math 上の多元環と見れば、この状況を体 テンプレート:Mvar 上の多元環 テンプレート:Mvar に対して一般化して考えることができる。テンプレート:Math の テンプレート:Math の中への標準埋め込みは

UF(x,1)↦UA(x,1),UF(1,0)↦UA(1,0)

で与えられる。これによる テンプレート:Math の埋め込み像を テンプレート:Math の任意の射影変換で写した像を鎖 (chain) と呼ぶ。鎖に四点が載るための必要十分条件は、それら四点の複比 テンプレート:Mvar に属することである。カール・フォン・シュタウトはこの性質を自身の テンプレート:Lang（実茎）論において顕わにした[3]

点平行性

射影直線 テンプレート:Math の二点が平行 (parallel) であるとは、それらを結ぶ鎖が存在しないときに言う。点が多数の場合にも同様の言い方を適用する。互いに平行であるという関係は、この射影直線上の射影変換で不変である。どの二つも平行でない三点が与えられたとき、その三点を通る鎖が一意に存在するテンプレート:Sfn

加群としての解釈

環 テンプレート:Mvar 上の射影直線 テンプレート:Math は加群 テンプレート:Math 内の射影加群全体の成す空間とも同一視することができる。つまり テンプレート:Math の各元は テンプレート:Math の直和因子になる。このより抽象的なやり方により、射影幾何学を線型空間の線型部分空間の幾何学とみる視点が与えられ、またバーコフの束論[4] やテンプレート:仮リンクの著書 Linear Algebra and Projective Geometry と関連付けられることもある。有理整数環 テンプレート:Math の場合、テンプレート:Math を定義する因子加群は テンプレート:Mvar が互いに素であるような テンプレート:Math に絞って考えればよいし、テンプレート:Mvar が位相環のとき テンプレート:Math の主要な特徴である埋め込みも落ちている。テンプレート:Harvtxt はこの直和因子による定義に触れている。

論文 "Projective representations: projective lines over rings"[1]（「射影表現: 環上の射影直線」）では、環上の射影直線の定義に、行列環 テンプレート:Math の単元群および、加群、両側加群の概念が用いられている。この単元群は（ふつうは テンプレート:Mvar が体の場合に考える一般線型群の記法を流用して）テンプレート:Math と書かれる。この場合の射影直線は、テンプレート:Math の自由巡回部分加群 テンプレート:Math の テンプレート:Math による軌道全体の成す集合になる。ベンツの可換理論を拡張して、環の元の右または左逆元の存在は テンプレート:Math と テンプレート:Math に関係する。デデキント有限性が特徴付けられる。最も著しいことは、テンプレート:Math の可除環 テンプレート:Mvar 上の射影空間における表現は、テンプレート:Math-両側加群 テンプレート:Mvar（つまり、テンプレート:Mvar は左 テンプレート:Mvar-線型空間かつ右 テンプレート:Mvar-加群）となることである。テンプレート:Math の各点は、その補加群が テンプレート:Math に同型となるような部分空間である。

複比定理

ここでは複比の存在性、一意性、整合三つ組および不変性について考察する。p, q, r ∈ A に対し

t = (r − p)−1, v = (t + (q − r)−1)−1

と置き、これら逆元 t, v が存在するとき、「p, q, r は十分に分離される」と言う。いま

(10−r1)(0110)(10t1)(v001)

に着目すると、最初の二つの因子は r を一つ決めるごとにそれを U(1, 0) = ∞ へ写す（これは残りの因子では動かない）。また第三因子は t の取り方から、p の最初の二つの因子による像を U(0, 1)（つまり自然な埋め込みのもとでの原点 0）へ写す（これは第四因子で動かない）。そして第四因子は q の最初の三つの因子による像の v による回転の形で U(q, 1) を U(1, 1) へ写す。以上から、三つ組 (p,q,r) はこの変換で三つ組 (0,1,∞) にすることができる。三つ組を (0,1,∞) へ写す生成元の不動点を軸に考えれば、このような射影変換は明らかに一意的である。

s および t が二つの十分に分離された三つ組とすれば、対応する射影変換 g および h がそれぞれ s および t を (0,1,∞) へ写す写像として定まるから、射影変換 h−1 ∘ g は s を t に写す。

p,q,r によって決まる上記の射影変換 f による x の像を f(x) := (x,p,q,r) で表すとき、この函数 f(x) を p, q, r ∈ A によって定まる複比 (cross-ratio) と言う。この函数の一意性により、三つ組 (p, q, r) を一つの射影変換 g ∈ G(A) によって別の三つ組 (g(p), g(q), g(r)) に取り換えるとき、新しい三つ組に関する複比函数 h は f ∘ g に一致しなければならない。つまり h ∘ g−1 = f, 故に複比に関して

(g(x), g(p), g(q), g(r) ) = (x, p, q, r)

なる不変性が成立することがわかる。

歴史

メビウスは、著書『重心算法』(Baricentric Calculus, 1827) および1855年の論文「純幾何学的表現における相互関係の理論」("Theorie der Kreisverwandtschaft in rein geometrischer Darstellung") においてメビウス変換を研究した。また、フォイエルバッハとテンプレート:仮リンクは斉次座標の創始者として名を知られている。1898年にテンプレート:仮リンクおよび1908年にエリ・カルタンが、それぞれドイツ語およびフランス語版の『数学百科事典』に記した超複素数系 (hypercomplex numbers) の項目では、その算術を用いたメビウス変換とよく似た一次分数変換が定義されている。1902年にファーレンは、クリフォード環のある線型汎函数変換について調べた短いがよく参照される論文テンプレート:Harvを寄稿する。二重数の環 D に対する射影直線 P(D) は テンプレート:Harvtxt が提示の機会を得ており、この環については テンプレート:Harvtxt が引き続いて展開した。

テンプレート:仮リンクは、双四元数変換を通じて相対性を採用した初期の学者の一人で、相対性を研究したテンプレート:Harvで四元数逆数変換を考えた。1947年には、反転四元数幾何のいくつかの要素をゴルムレイが論文テンプレート:Harvで記述している。1968年にはイザーク・ヤグロムのロシア語で書かれた本が『幾何学における複素数』(Complex Numbers in Geometry) として英訳されて、P(D) がユークリッド平面における直線幾何を、分解型複素数上の射影直線 P(M) がロバチェフスキー平面を、それぞれ記述するのに用いられている。またヤグロムの教科書『ある単純な非ユークリッド幾何』(A Simple Non-Euclidean Geometry) も1979年に英訳されている。その174ページから200ページにかけて、ミンコフスキー幾何が展開され、P(M) が「反転ミンコフスキー平面」("inversive Minkowski plane") として記述されている。ヤグロムの教科書のロシア語原版が出版されたのは1969年であり、英訳版が出るまでの間に出版された テンプレート:Harvtxt では分解型複素数の環 M に値を取る斉次座標の概念が含まれている。

注記

テンプレート:Reflist

参考文献

関連文献

  1. ↑ 1.0 1.1 テンプレート:Harvnb. この文献では テンプレート:Mvar 上の テンプレート:Math（テンプレート:Mvar と テンプレート:Mvar は互いに素）の形の元からなる射影直線に限って環上の射影直線を定義している。
  2. ↑ テンプレート:Harvnb
  3. ↑ Karl von Staudt (1856) Beträge zur Geometrie der Lage
  4. ↑ Birkhoff and Maclane (1953) Survey of modern algebra, pp 293–8, or 1997 AKP Classics edition, pp 312–7
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