行列ノルム
線型代数学における行列ノルム(ぎょうれつノルム、テンプレート:Lang-en-short)は、ベクトルのノルムを行列に対し自然に一般化したものである。
性質
以下では体 テンプレート:Mathbf を実数体 テンプレート:Mathbf または複素数体 テンプレート:Mathbf のいずれかを指すものとして用いる。また、テンプレート:Math を、テンプレート:Mathbf の元を成分に持つ テンプレート:Mvar 行 テンプレート:Mvar 列の矩形行列の全体が、通常の和とスカラー倍に関してなすベクトル空間とする。テンプレート:Math 上の行列のノルムはベクトルとしてのノルムである。すなわち、行列 テンプレート:Mvar のノルムを テンプレート:Math で表せば
- 正定値性:テンプレート:Math2 かつ等号成立は テンプレート:Math2 と同値
- 斉次性:テンプレート:Math2 ならば テンプレート:Math2
- 劣加法性:テンプレート:Math2 ならば テンプレート:Math2
が全て満たされる。
正方行列 (テンプレート:Math2) に関して、以下に挙げる条件を課す場合がある。
ここで テンプレート:Math は複素行列 テンプレート:Mvar の随伴を表す。テンプレート:Mvar が実である場合、その随伴は テンプレート:Math は転置 テンプレート:Math に一致する。
劣乗法性を持つノルムを劣乗法的ノルム テンプレート:Lang と呼ぶ[注 1]。劣乗法的ノルムを備えた テンプレート:Mvar 次の正方行列全体の成す集合はバナッハ代数の一例である。
テンプレート:Anchors誘導されたノルム
2つのベクトル空間 テンプレート:Math2 におけるベクトルのノルムが与えられているとき、それらに対応して テンプレート:Math2 行列の空間 テンプレート:Math 上の行列ノルムを与えることができる。
この行列ノルムは誘導ノルム テンプレート:En あるいは作用素ノルム テンプレート:En と呼ばれる。テンプレート:Math で行列の定める線型写像の定義域と値域で同じノルムを用いている場合、誘導される作用素ノルムは劣乗法的である。ベクトルの テンプレート:Mvar ノルムに対応して、作用素ノルム
が得られる[注 2]。特に テンプレート:Math2 と テンプレート:Math2 に対しては
と計算することができる(前者は各列に対する「成分の絶対値の和」の最大の値で、後者は各行に対する同様の和の最大の値である)。
テンプレート:Anchors 特に テンプレート:Math2 かつ テンプレート:Math2, つまり正方行列に対してユークリッドノルムを考えた場合には、誘導された行列ノルムはスペクトルノルム テンプレート:En になる。行列 テンプレート:Mvar のスペクトルノルムとは テンプレート:Mvar の最大の特異値、別な言い方をすれば半正定値行列 テンプレート:Math の最大固有値の平方根
で与えられる。ここで テンプレート:Math は複素行列 テンプレート:Mvar の随伴行列を表す。
テンプレート:Math を テンプレート:Mvar のスペクトル半径とすると、誘導ノルムはいずれも不等式
を満たす(スペクトル半径は下界を与えている)。つまり テンプレート:Math は テンプレート:Mvar の誘導ノルム全体を動かしたときの下限である。さらに言えば、
というスペクトル半径公式も得られる。
成分ごとのノルム
行列の成分ごとのノルムとは、テンプレート:Mvar 行 テンプレート:Mvar 列の行列を テンプレート:Mvar 成分のベクトルと見なして、ベクトルの通常のノルムを考えたものである。例えばベクトルの テンプレート:Mvar ノルムを利用すれば
というノルムが得られる[注 2]。特別の場合として、テンプレート:Math2 のときはフロベニウスノルムが、テンプレート:Math のときは最大値ノルムがそれぞれ得られる。
フロベニウスノルム
テンプレート:Math2 の場合はフロベニウスノルム テンプレート:En またはヒルベルト=シュミットノルム テンプレート:En と呼ばれる(後者は普通、ヒルベルト空間の作用素に限定して使われる)。 このノルムはいくつか異なる定義があるが、
のように書くことができる。ここで テンプレート:Math は行列 A の随伴、テンプレート:Mvar は行列 テンプレート:Mvar の特異値、テンプレート:Math は行列のトレースを表わす。フロベニウスノルムは テンプレート:Math 上のユークリッドノルムと似て、行列の空間上の(行列を単にベクトルと見なした)標準内積から得られるノルムになっている。
フロベニウスノルムは劣乗法的である。数値線型代数学において有益であり、またフロベニウスノルムは誘導ノルムより計算が容易なことが多い。
最大ノルム
最大ノルム テンプレート:En は テンプレート:Math2 に対する成分ごとのノルムとして
で定義される。これは劣乗法的ノルムではない。
シャッテンノルム
テンプレート:Main シャッテンノルム テンプレート:En は行列の特異値を並べたベクトルに対するノルムとして得られる。ベクトルノルムに テンプレート:Mvar ノルムを用いるものをシャッテン テンプレート:Mvar ノルムと呼ぶ。行列 テンプレート:Mvar のシャッテン p-ノルムは、テンプレート:Mvar の特異値を テンプレート:Mvar で表せば、以下のように定義される[注 2]。
シャッテンノルムはいずれの テンプレート:Mvar に対しても劣乗法的である。また、任意の行列 テンプレート:Mvar のユニタリ変換に対してシャッテンノルムは不変であり[注 3]、任意のユニタリ行列 テンプレート:Math2 対して テンプレート:Math2 が成り立つ。
テンプレート:Math2 の場合がよく知られており、テンプレート:Math の場合はフロベニウスノルムが得られる。テンプレート:Math2 はスペクトルノルム、すなわちベクトルの 2 ノルムから誘導される行列ノルムである。
トレースノルム
テンプレート:Math2 からは核型ノルム テンプレート:Lang、トレースノルム、あるいはテンプレート:Zh[注 4]テンプレート:En の テンプレート:Mvar ノルムとして知られるノルム
が定まる。ここで行列 テンプレート:Math の平方根は テンプレート:Math2 を満たす行列 テンプレート:Mvar の意味で用いている。
両立するノルム
空間 テンプレート:Math 上の行列ノルム テンプレート:Math は テンプレート:Math 上のノルム テンプレート:Math と テンプレート:Math 上のノルム テンプレート:Math に対して
を満たすとき、テンプレート:Math と両立する テンプレート:Lang という。テンプレート:Math2 から誘導される作用素ノルムは、その定義から明らかに テンプレート:Math2 と両立する。誘導ノルムをベクトルのノルムと両立する行列ノルムにまで広げても、スペクトル半径が下限を与えるという命題はなお正しい。
ノルムの同値性
有限次元ベクトル空間 テンプレート:Math の任意の2つの(ベクトルとしての)ノルム テンプレート:Math に対して、適当な定数 テンプレート:Math2 をとれば
が任意の行列 テンプレート:Math2 に対して成立するようにできる。言い換えれば、このようなノルムはどれも同値 テンプレート:Lang なノルムであり、空間 テンプレート:Math に同じ位相を誘導する。
さらに実行列 テンプレート:Math2 の場合、任意のノルム テンプレート:Math に対し一意な正の定数 テンプレート:Mvar が存在して、テンプレート:Math が(劣乗法的な)行列ノルムになる。
行列ノルム テンプレート:Math は、他のいかなる行列ノルム テンプレート:Math も テンプレート:Math2 を満たさないとき、極小(テンプレート:Lang-en-short)であると呼ばれる。
同値なノルムの例
実行列 テンプレート:Math2 に対し、以下の不等式が成立するテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn:
ここで テンプレート:Mvar は行列 テンプレート:Mvar のランクである。
他にも次のような関係は有用である:
これはヘルダーの不等式の特殊例である。
注釈
出典
参考文献
関連項目
外部リンク
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