部分リーマン多様体の接続と曲率
本項、部分リーマン多様体の接続と曲率では、古典的なテンプレート:仮リンクを高次元のリーマン多様体の場合に拡張した成果を述べる。具体的にはリーマン多様体の部分多様体テンプレート:Mvarに対し、
- 、テンプレート:Mvarのレヴィ・チヴィタ接続やリーマン曲率の関係性
- 第二基本形式、テンプレート:仮リンク
- 主曲率、ガウス曲率、テンプレート:仮リンク
- Theorema Egregium
- ガウス写像
- ガウス・ボンネの定理
といったものを高次元化した成果を述べる。
以下、本項ではをリーマン多様体とし、
をその部分多様体テンプレート:Refnとする。また特に断りがない限り、単に「多様体」、「写像」等といった場合はテンプレート:Mvar級のものを考える。
テンプレート:Mvarの接続とテンプレート:Mvarの接続の関係性
をテンプレート:Mvarが定める上のレヴィ-チヴィタ接続とする。またリーマン計量テンプレート:Mvarをテンプレート:Mvarに制限することで、がリーマン多様体になるので、テンプレート:Mvarが定めるテンプレート:Mvar上のレヴィ-チヴィタ接続を考える事ができる。
一方、テンプレート:Mvarはの部分多様体なので、のレヴィ-チヴィタ接続のテンプレート:Mvarへの制限も考える事ができる。
実はこの2つは以下の関係を満たす: テンプレート:Math theorem ここでは、の元の接ベクトル空間テンプレート:Mvarへの射影
である。
法接続
上ではの接続のテンプレート:Mvarの接ベクトルバンドルテンプレート:Mvarへの射影を考えたが、同様にの接続のテンプレート:Mvarの法ベクトルバンドルへの射影を考える事ができる。 テンプレート:Mvarの点テンプレート:Mvarに対し、
をの元の法ベクトルバンドルへの射影とする。 テンプレート:Math theorem
第二基本形式とワインガルテン写像
上述したように、テンプレート:Mvar上のレヴィ-チヴィタ接続はのレヴィ-チヴィタ接続のテンプレート:Mvarへの射影であるので、両者の差 はの法ベクトルバンドルへのの射影となる。 テンプレート:Mvarの点テンプレート:Mvarに対し、
をそれぞれの元の接ベクトル空間テンプレート:Mvarへの射影、の元の法ベクトルバンドルへの射影とする。
テンプレート:Math theorem なお、「第二基本形式」という名称はガウスの曲面論から来ており、ガウスの曲面論ではリーマン計量の事を第一基本形式というのに対応した名称である[1]。
であったので、以下が成立する:
テンプレート:Math theorem
第二基本形式は以下を満たす[2]: テンプレート:Math theorem
また、をテンプレート:Mvar上の曲線、を上のテンプレート:Mvarに接するベクトル場とするとき、以下が成立する: テンプレート:Math theorem
上ではの接続とテンプレート:Mvarの接続の差を第二基本形式として定義したが、同様にの接続とテンプレート:Mvarの法接続の差を考える事ができる。
テンプレート:Mvar、テンプレート:Mvarをテンプレート:Mvar上のベクトル場、テンプレート:Mvarを法ベクトルバンドルの切断とすると、テンプレート:Mvarとテンプレート:Mvarは直交するので、
である。よって次が成立する: テンプレート:Math theorem
曲率の関係式
前節と同様に記号を定義し、により定まるテンプレート:Mvarの曲率を、により定まるの曲率をとする。
さらにテンプレート:Mvar、テンプレート:Mvar、テンプレート:Mvar、テンプレート:Mvarをテンプレート:Mvar上のベクトル場とし、テンプレート:Mvar、テンプレート:Mvarをテンプレート:Mvarの法ベクトルバンドルの切断とする。このとき、次が成立する: テンプレート:Math theorem ここでは
をの切断とみたときの共変微分であり、
である。
ガウスの方程式はテンプレート:Mvarの曲率が全空間の曲率と第二基本形式から決まる事を意味している。同様にリッチの方程式はテンプレート:Mvarの法曲率がワインガルテン写像から決まる事を意味している。
またガウスの方程式からテンプレート:Mvarの断面曲率
- との断面曲率に関して以下の系が従う:
部分多様体の基本定理
詳細はテンプレート:Refnを参照。 テンプレート:節stub
第三基本形式
これまで同様をリーマン多様体、をその部分多様体とし、テンプレート:Mvarをテンプレート:Mvarの点とし、テンプレート:Mvar、テンプレート:Mvarをテンプレート:Mvarの元とし、テンプレート:Mvarを法ベクトル空間テンプレート:Mvarの元とする。
第三基本形式は二次形式 のトレースであるので、は基底の取り方に依存せずwell-definedである。
第三基本形式は以下のようにも表現可能である: テンプレート:Math theorem テンプレート:Math proof
が定曲率空間の場合、第三基本形式は以下を満たす: テンプレート:Math theorem 特にテンプレート:Mvarの余次元がテンプレート:Mvarであれば、前述したワインガルテン写像による第三基本形式の表記を適用することで、以下が成立する事がわかる: テンプレート:Math theorem
主曲率、ガウス曲率、平均曲率
本節では、埋め込みが余次元テンプレート:Mvarの場合、すなわちの場合、テンプレート:Mvarに対し主曲率、ガウス曲率、平均曲率という3つの曲率概念を定義する。
これらの概念を定義するためにまずその動機を述べる。今は余次元テンプレート:Mvarなので、長さテンプレート:Mvarの法ベクトルテンプレート:Mvarを(±1倍を除いて)一つだけ選ぶ事ができる。
点テンプレート:Mvarにおける接ベクトルテンプレート:Mvarに関し、曲線をテンプレート:Mvarを通りテンプレート:Mvarに接する(弧長パラメータテンプレート:Mvarでパラメトライズされた)テンプレート:Mvarの測地線とすると、 がテンプレート:Mvarの測地線であった事から、は必ずテンプレート:Mvarに直交するので、テンプレート:Mvarの余次元がテンプレート:Mvarな事から、はテンプレート:Mvarと平行になる。 よっては測地線の曲率の大きさに符号をつけたものである。
主曲率とは(符号付きの)測地線の曲率の大きさの極値になっている値の事である。
主曲率は具体的には下記のように求める事ができる。なので、 曲線に沿ったガウスの公式と第二基本形式の定義より、
よって主曲率、すなわちの極値は二次形式を回転行列により対角化した際の対角成分の事である。
ガウス曲率は主曲率の積、平均曲率は主曲率の平均値である。
厳密な定義は以下の通りである: テンプレート:Math theorem テンプレート:Math theorem なお、ガウス曲率の事を全曲率(テンプレート:Lang-en-short)という事もあるがテンプレート:Refn、「全曲率」という言葉は測地線曲率の曲線全体に対する積分値を指す場合もあるので注意が必要である[3]。
上記の定義についていくつか補足を述べる。第一に、単位法ベクトルテンプレート:Mvarの向きを反転させると、主曲率の符号が反転してしまう。このためテンプレート:Mvarやが向き付け可能なときは、テンプレート:Mvarの向きがの向きと一致するという規約を授けてテンプレート:Mvarの向きを固定する事が多い。
第二に、は対称二次形式であるので、次が成立する: テンプレート:Math theorem
第三にワインガルテンの公式から
であるので、明らかに次が成立する: テンプレート:Math theorem
よって固有多項式の一般論から、特に次が成立する: テンプレート:Math theorem ここではがに誘導する写像を である。
第四に、平均曲率に関しては、が余次元テンプレート:Mvarでなくとも、を法ベクトル空間に値を取る二次形式とみなしたときのトレース(のテンプレート:Mvar)として定義できる: テンプレート:Math theorem
平均曲率ベクトル場は極小曲面の特徴付けとして有用であり、閉多様体が極小曲面になる必要十分条件はテンプレート:Mvar上の平均曲率ベクトル場が恒等的にテンプレート:Mvarである事である事が知られている[4]。
ガウス写像
本節では、向き付可能なリーマン多様体テンプレート:Mvarをユークリッド空間に余次元テンプレート:Mvarで埋め込んでいる場合、すなわち、テンプレート:Mathの場合に対し、「ガウス写像」を定義する事で、ワインガルテン写像やガウス曲率に幾何学的な意味付けを与える。
これまで同様テンプレート:Mvarをテンプレート:Mvarの単位法ベクトル場とすると、各点テンプレート:Mathに対し、ベクトルテンプレート:Mvarは長さテンプレート:Mvarのベクトルなので、テンプレート:Mvarを原点中心の単位球テンプレート:Mvarの元とみなす事ができる。このようにみなす事で定義できる写像
をガウス写像(テンプレート:Lang-en-short[5]、テンプレート:Lang-en-short[6])という。
テンプレート:Mvarのテンプレート:Mvarにおける接ベクトル空間の元テンプレート:Mvarをのテンプレート:Mvarにおける接平面と自然に同一視すると、任意のテンプレート:Mathに対し、
である事から、においてテンプレート:Mvarはテンプレート:Mvarと平行な超平面であるので、自然にテンプレート:Mvarとテンプレート:Mvarを同一視する。このとき次が成立する: テンプレート:Math theorem
さらにガウス写像はガウス曲率と以下の関係を満たす: テンプレート:Math theorem
Theorema Egregium
断面曲率と第二基本形式の関係と主曲率の定義から、特に以下の系が成立する:テンプレート:Math theorem
ここで、はそれぞれテンプレート:Mvar、テンプレート:Mvarの断面曲率である。
よってとくにが曲率テンプレート:Mvarのテンプレート:仮リンク、すなわち上の任意の点テンプレート:Mvarにおける任意の方向の断面曲率がテンプレート:Mvarである空間の場合には、
が成立する。
実は上式の右辺はテンプレート:Mvarに内在的な量である: テンプレート:Math theorem テンプレート:Math proof
であったので、上記の定理は、有名なTheorema Egregiumの一般化になっている: テンプレート:Math theorem
Theorema Egregiumの一般化から以下の系が従う: テンプレート:Math theorem
一方、奇数次元のガウス曲率はテンプレート:Mvarに内在的な量ではない。実際ガウス曲率の定義はテンプレート:Mvarの単位法線テンプレート:Mvarというテンプレート:Mvarに外在的な量に依存しており、テンプレート:Mvarの向きを変えればの符号は全て反転してしまい、次元テンプレート:Mvarが奇数である事からの符号も反転してしまう。
しかし次元テンプレート:Mvarが奇数の場合であっても、符号を除いてガウス曲率は内在的な量となる事を前述のTheorema Egregiumの一般化から示すことができる:
以上の事から、テンプレート:Mvarが偶数の場合にはにおけるテンプレート:Mvarのガウス曲率をリーマン曲率で具体的に書きあらわす事ができる。次節ではがユークリッド空間である場合に対し、この具体的な表記を求める。
オイラー形式
前節ではが偶数次元でしかも余次元がテンプレート:Mvarのとき、[[#偶数次元のガウス曲率の内在性|ガウス曲率がテンプレート:Mvarの内在的な量である事]]を示した。
本節の目的はの場合に、ガウス曲率をテンプレート:Mvarに内在的な量で具体的に書きあらわす事にある。そのために導入するのがオイラー形式である。オイラー形式は偶数次元のリーマン多様体テンプレート:Mvar上で曲率テンソルを用いて定義される。そしてテンプレート:Mvarが余次元テンプレート:Mvarでに埋め込まれているときは、オイラー形式はガウス曲率の定数倍に一致する。
本節の内容は後でガウス・ボンネの定理を記述するときに重要となる。「オイラー形式」という名称も、ガウス・ボンネの定理からこの値がオイラー標数と関係づけられる事に由来する。
パッフィアン
オイラー形式を定義するため、「パッフィアン」を定義する。これは後述するように行列式の平方根に相当する。 テンプレート:Math theorem 上記の定理において、の存在一意性はがテンプレート:Mvar次元ベクトル空間な事から明らかに従う。テンプレート:Mvarと同じ向きの正規直交基底の取り方によらないことも、の定義がテンプレート:Mvarの成分表示によらず、しかもがそのような基底の取り方によらない事から明らかに従う。
歪対称行列に対し、紛れがなければのパッフィアンの事をとも表記する。
定義から明らかに次が成立する。
テンプレート:Math theorem
パッフィアンは具体的には以下のように書ける。 テンプレート:Math theorem
パッフィアンは行列式の平方根である: テンプレート:Math theorem
なお本節で我々は偶数次の歪対称行列に対して行列式の平方根がパッフィアンと一致する事を見たが、奇数次の歪対称行列の場合は行列式は常にテンプレート:Mvarになる事が知られている。よって奇数次の場合には「行列式の平方根」もテンプレート:Mvarになる。
オイラー形式
次に我々はパッフィアンを使ってオイラー形式を定義する。 テンプレート:Math theorem
上記の定義に関して3つ補足する。第一に、オイラー形式を定義する際、パッフィアンをで割るのは、このようにすると後述するガウス・ボンネの定理で不要な定数が消えて定理の記述が簡単になるからである。
第二に、「」という記号の意味についてである。「」は[[#パッフィアンの具体的表記|パッフィアンテンプレート:Mathの具体的表記]]において、行列テンプレート:Mvarをテンプレート:Mvarに置き換え、さらに積をウェッジ積に置き換えることで定義される。すなわち、
なお、添字の上下がテンプレート:Mathの具体的表記とは異なっているが、正規直交基底を考えているのでこれは問題にならない。
第三に、テンプレート:Mvarは2-形式であるので、上述のウェッジ積はテンプレート:Mvarの入れ替えに関して可換である。よって前節で通常の実数係数の行列に対して成立した定理の多くがに対しても成立する。
特に、は正規直交基底の向きを保つ取り方に対して不変であり、したがってオイラー形式はテンプレート:Mvarと同じ向きの正規直交基底の取り方によらずwell-definedである。
したがって、オイラー形式はテンプレート:Mvarの全域で定義可能である。
(正規直交とは限らない)基底とその双対基底をを使って曲率テンソルを
と成分表示すると、オイラー形式を下記のように成分表示できる: テンプレート:Math theorem
なお、上式はおよびがの置換になっている項以外はテンプレート:Mvarになる。
オイラー形式とガウス曲率の関係
本節では、偶数次元リーマン多様体テンプレート:Mvarが余次元テンプレート:Mvarでユークリッド空間に埋め込まれているときは、ガウス曲率とオイラー形式は定数倍を除いて一致する事を見る:
テンプレート:Math theorem テンプレート:Math proof
なお、なぜパッフィアンという「行列式の平方根」がここで登場するか、という問いに対する答えるには、チャーン・ヴェイユ理論を必要とするため、本項では触れない。
ガウス・ボンネの定理
本節ではガウス・ボンネの定理を紹介する。この定理は、偶数次元のリーマン多様体において、オイラー標数をオイラー形式の全空間における積分で記述できるという趣旨の定理である。
元々はテンプレート:Mvarが2次元の場合に対して示されたものであり、一般の偶数次元に対する定理は区別のためチャーン・ガウス・ボンネの定理とも呼ばれる。
証明のアイデア
を余次元テンプレート:Mvarで向き付け可能なリーマン多様体とする。すでに述べたように、テンプレート:Mvar、テンプレート:Mvarの体積要素をそれぞれ、とすると、両者の間には
という関係がある。ここでテンプレート:Mvarはテンプレート:Mvarのガウス曲率である。
テンプレート:Mvarがコンパクトで縁がなければ、ド・ラームコホモロジーの一般論から、ガウス写像の写像度は
に等しいテンプレート:Refn。ここでは球面テンプレート:Mvarのテンプレート:Mvar次元体積である。
この事実を利用すると、偶数次元のテンプレート:Mvarに対し以下の定理が結論付けられる:
上記の定理にガウス曲率がオイラー形式で表記できたという事実を適用する事で、ホップは以下を示した: テンプレート:Math theorem ここで我々はテンプレート:Mathとすると、
であるテンプレート:Refn事を用いた(超球の体積の項目も参照)。
上記の定理は「テンプレート:Mvarがに余次元テンプレート:Mvarで埋め込まれている」という強い条件の元でのみ成立しているので、ガウス・ボンネの定理を示すにはこの条件を無くす必要がある。そのために使うのが下記の定理である: テンプレート:Math theorem
よってテンプレート:Mvarがの部分多様体だと仮定しても一般性を失わない。しかしテンプレート:Mvarはにおいて余次元テンプレート:Mvarとは限らないので、このままでは前述のホップによる定理を適用できない。
そこでテンプレート:Mvarのをテンプレート:Mvarだけ「太らせたもの」(すなわちテンプレート:仮リンク)をテンプレート:Mvarとすると、テンプレート:Mvarが小さければテンプレート:Mvarはテンプレート:Mathと位相同型である。ここでテンプレート:Mvarはテンプレート:Mvarの次元である。よって
が成立する。
はで余次元テンプレート:Mvarなので、前述のホップによる結果を適用でき、
が言えるテンプレート:Refn。ここではテンプレート:Mvarの曲率形式である。
ヘルマン・ワイルは管状近傍の体積を具体的に(非常に複雑な計算で)求める事で、がテンプレート:Mathのときのテンプレート:Mvar倍に収束する事を示したテンプレート:Refn。以上の議論からガウス・ボンネの定理が証明された。
擬リーマン多様体の場合
本稿ではリーマン多様体に対するガウス・ボンネの定理を記述したが、擬リーマン多様体でも同様の定理が成立する[7]:
脚注
出典
注釈
文献
参考文献
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