チェボタレフの密度定理

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代数的整数論テンプレート:読み仮名 ruby不使用とは、有理数体 ガロア拡大 テンプレート:Mvar における素数の分解の仕方について成り立つ統計的な法則を明らかにした定理である。一般に、素数は テンプレート:Mvar代数的整数の環でいくつかの理想因子に分解し、起こりうる分解のパターンは有限である。一般のガロア拡大において素数 テンプレート:Mvar がどう分解するか完全に記述することは大きな未解決問題であるが、整数 テンプレート:Mvar 未満の素数 テンプレート:Mvar で与えられたパターンで分解するものの割合は、テンプレート:Mvar を限りなく大きくしていったときある極限に収束することが証明された。これをチェボタレフの密度定理という。このことはニコライ・チェボタレフによって1922年に彼の学位論文にて証明され、テンプレート:Harv で公表された。

簡単な場合についてこの定理の内容を述べると、有理数体 テンプレート:Mvar 次ガロア拡大である代数体 テンプレート:Mvar において完全分解する素数の素数全体の中での密度は

テンプレート:Math

である、となる。一般には、フロベニウス元と呼ばれるガロア群

テンプレート:Math

の元が(ほとんど)全ての素数に対して共役を除いて定まり、この不変量が素数の分解の仕方を決定している。このとき、密度定理の主張は、この不変量がガロア群の中で一様に漸近分布し、したがって テンプレート:Mvar 個の元からなる共役類に入る頻度は漸近的には

テンプレート:Math

である、というものである。

歴史

カール・フリードリヒ・ガウス複素整数 テンプレート:Math の研究をはじめたとき、この新しい整数の中では普通の意味での素数がさらに分解できることに気づいた。素数 テンプレート:Mvarテンプレート:Math で1と合同ならば、2つの異なるガウス素数の積に分解する(完全分解)。素数 テンプレート:Mvarテンプレート:Math で3と合同ならば素数のままである(惰性)。素数 テンプレート:Mvar が2ならばガウス素数 テンプレート:Math の平方と可逆なガウス整数 テンプレート:Math の積に分解する(分岐)。具体例は

5=(1+2i)(12i) は完全分解
3 は惰性
2=i(1+i)2 は分岐

など。この合同による特徴づけから、完全分解する素数の割合は テンプレート:Math で、テンプレート:Math でも素数のままである素数の割合も同様であろうと想像がつく。実際、ディリクレの算術級数定理によってこのことを証明できる。素数の出現の仕方が不規則であったとしても、拡大

[i]

における素数の分解は簡単な統計法則にしたがうのである。

同様の素数の分解についての統計法則が、1の原始冪根を有理数体に付け加えて得られる円分拡大でも成り立つ。例えば、1の原始8乗根を付け加えた整数環での分解の仕方によって通常の素数を4つの種類に分類すると、それぞれの確率は テンプレート:Math となる。この体拡大は、拡大次数は4で、ガロア群はクラインの四元群と同型なアーベル拡大である。素数の分解には、体拡大のガロア群が重要な役割を果たしていることが判明した。ゲオルク・フロベニウスがこの分解の仕方を研究する方法を確立し、そして特別な場合に密度定理を証明した。一般的な形での証明はニコライ・チェボタレフにより1922年になされた。

ディリクレの定理との関係

チェボタレフの密度定理はディリクレの算術級数定理の一般化と見ることもできる。定量的な形のディリクレの定理とは、テンプレート:Math を整数、テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar互いに素な整数とすると、テンプレート:Mvar を法として テンプレート:Mvar に合同な素数 テンプレート:Mvar の比率は漸近的には テンプレート:Math に等しい、というものであった。ここで テンプレート:Math は[[オイラーのφ関数|オイラーの テンプレート:Mvar 関数]]である。これは1の原始 テンプレート:Math 乗根を付け加えた円分体 テンプレート:Mvar についてチェボタレフの密度定理を特殊化したものになっている。実際、まず テンプレート:Math のガロア群はアーベル群で テンプレート:Math の可逆な剰余類のなす群と自然に同一視できることに注意する。テンプレート:Mvar を割らない素数 テンプレート:Mvar の分解不変量は単にその剰余類である。これは、自然な同一視の作り方からわかる。したがってチェボタレフの密度定理により素数は テンプレート:Mvar と互いに素な剰余類たちに漸近的に一様分布する。

フロベニウスの研究

この分野におけるフロベニウスの先駆的な研究がサーベイ論文 テンプレート:Harvtxt で触れられている。テンプレート:Mvar有理数体 テンプレート:Mathガロア拡大とし、テンプレート:Math をモニックな整数係数多項式で テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar分解体になるようなものとする。素数 テンプレート:Mvar を法として テンプレート:Mvar の因数分解を考える。テンプレート:Math での テンプレート:Mvar の既約因子の次数のリストを'分解の型'と呼ぶ。'分解の型'は、テンプレート:Mvar の次数を テンプレート:Mvar とすると、テンプレート:Mvar分割 テンプレート:Mvar になっている。テンプレート:Math 上の テンプレート:Mvarガロア群テンプレート:Mvar とすると、テンプレート:Mvar の元 テンプレート:Mvarテンプレート:Mvarテンプレート:Math における根に置換で作用する。言い換えると、テンプレート:Mvar の根の集合に順序をいれることにより、テンプレート:Mvar対称群 テンプレート:Math に部分群として埋め込める。巡回置換表現を考えることで、 テンプレート:Mvar の'巡回置換型' テンプレート:Math が得られる。これもまた テンプレート:Mvar の分割になっている。

フロベニウスの定理とは、任意の分割 テンプレート:Mvar に対して、 テンプレート:Mvarテンプレート:Math での分解の型が テンプレート:Mvar になる素数 テンプレート:Mvar 全体は、テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar の元 テンプレート:Mvar で 巡回置換型 テンプレート:Mvar を持つものの割合とすると、テンプレート:仮リンク テンプレート:Mvar を持つ、という定理である。

より一般的なチェボタレフの定理は素イデアルのフロベニウス元(元といっても実際にはガロア群 テンプレート:Mvar共役類 テンプレート:Mvar)を使って述べられる。この定理は、ある固定した共役類 テンプレート:Mvar に対して、フロベニウス元が テンプレート:Mvar になる素数の割合は漸近的には テンプレート:Math になるという主張である。テンプレート:Mvar がアーベル群の場合には共役類の大きさ(含まれる元の数)は1である。位数が6の非アーベル群の場合には、共役類の大きさは1、2、3のいずれかである。これから、例えばフロベニウス元の位数が2となるような素数 テンプレート:Mvar の割合は50%であることがわかる。これらの素数の剰余次数は2なので、この群をガロア群とする テンプレート:Math の6次拡大ではちょうど3つの素イデアルに分解するテンプレート:Efn

定理の内容

テンプレート:Mvar を代数体 テンプレート:Mvar の有限次ガロア拡大とし、テンプレート:Mvar をそのガロア群とする。テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar の部分集合で共役で閉じているものとする。このとき、テンプレート:Mvar の素イデアル テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar で不分岐かつ対応するフロベニウス共役類 テンプレート:Mathテンプレート:Mvar に含まれているもの全体の集合は密度

#X#G

を持つ[1]。密度が自然密度であっても解析密度であってもこのことが成り立つ[2]

エフェクティブ版

一般化されたリーマン予想から、次のエフェクティブなチェボタレフの密度定理が得られる[3]テンプレート:Math を有限次ガロア拡大、そのガロア群を テンプレート:Mvarテンプレート:Mvarテンプレート:Mvar のいくつかの共役類の和集合とする。このとき、テンプレート:Mvar の不分岐な素イデアルでノルムが テンプレート:Mvar 以下かつそのフロベニウス共役類が テンプレート:Mvar に含まれるものの個数は

|C||G|(li(x)+O(x(nlogx+log|Δ|)))

と等しい。ここで、ランダウの記号に暗に含まれている定数は絶対定数であり、テンプレート:Mvarテンプレート:Mvarテンプレート:Math 上の次数、テンプレート:Mvar はその判別式である。

一般化されたリーマン予想を仮定しない場合、エフェクティブなチェボタレフの密度定理ははるかに弱いものとなる。テンプレート:Mvarテンプレート:Math の次数 テンプレート:Mvar の有限次ガロア拡大とし、そのガロア群を テンプレート:Mvar とする。ρ を次数 テンプレート:Mvar の自明でない テンプレート:Mvar の既約表現とし、𝔣(ρ) をこの表現のアルティン導手とする。そして、ρρ または ρρ¯ の部分表現 ρ0 に対して L(ρ0,s)整関数だったと仮定する。つまり、アルティン予想が全ての ρ0 に対して成り立ったと仮定する。χρρ の指標とする。このとき、正の絶対定数 c が存在して、x2 に対して

px,p∤𝔣(ρ)χρ(Frp)logp=rx+O(xββ+xexp(c(dn)4logx3log𝔣(ρ)+logx)(dnlog(x𝔣(ρ)))

が成り立つ。ここで rρ が自明なら1、そうでなければ0である。また、βL(ρ,s)テンプレート:仮リンクと呼ばれる実数である。その零点が無い場合は項 xβ/β は出てこない。この式に暗に含まれている定数は絶対定数である[4]

無限次拡大

チェボタレフの密度定理は テンプレート:Mvar の素イデアルの有限集合 テンプレート:Mvar の外では不分岐な無限次ガロア拡大 テンプレート:Math に対して一般化できる。この場合、テンプレート:Math のガロア群 テンプレート:Mvar はクルル位相を備えた副有限群である。テンプレート:Mvar はこの位相でコンパクトであるから、テンプレート:Mvar 上には一意的なハール測度 テンプレート:Mvar が存在する。テンプレート:Mvar に含まれない テンプレート:Mvar の任意の素イデアル テンプレート:Mvar に対してフロベニウス共役類 テンプレート:Math が定まる。この場合のチェボタレフの密度定理は次のように述べられる[1]

テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar の共役で閉じている部分集合で境界のハール測度がゼロであるものとする。このとき、テンプレート:Mvar に含まれない テンプレート:Mvar の素イデアル テンプレート:Mvarテンプレート:Math となるものの集合の密度は
μ(X)μ(G)
である。

テンプレート:Math が有限次拡大の場合にはハール測度は数え上げ測度になるので、有限次の場合の密度定理と同じ主張となる。

この定理から、テンプレート:Mvar の不分岐な素イデアルのフロベニウス元たちは テンプレート:Mvar で稠密となることがわかる。

重要な帰結

チェボタレフの密度定理から、代数体のガロア拡大を分類する問題は拡大での素イデアルの分解を記述する問題に帰着されることがわかる。具体的にいうと、代数体 テンプレート:Mvar のガロア拡大 テンプレート:Mvar は、この拡大で完全分解する テンプレート:Mvar の素イデアルの集合によって一意的に決定されることがこの定理からわかる[5]。また、テンプレート:Mvar のほとんどすべての素イデアルが テンプレート:Mvar で完全分解するならば、実際には テンプレート:Math であることがわかる[6]

チェボタレフの証明

現代ではチェボタレフの密度定理は類体論を応用して証明されるテンプレート:Sfn。しかしチェボタレフによる元々の証明は類体論を使わないもので、まず任意の代数体の円分拡大に対して算術級数定理の証明と同様の方法で密度定理を証明し、次にそれを用いて任意のアーベル拡大に対して密度定理を証明し、最後に任意のガロア拡大に対する密度定理をアーベル拡大の場合に帰着して証明するという方法であった。道具としては基礎的なガロア理論や代数的整数論しか使わないものであるが、特に円分拡大に対する密度定理からアーベル拡大に対する密度定理を導出する方法はアーベル拡大と円分拡大を「交差」させるという巧妙なもので、円分体交差法という名前がつけられている。歴史的には、チェボタレフがまず類体論を使わずに密度定理を証明し、次にその証明に使われた「円分体交差法」を使ってアルティンがアルティン相互法則を証明し、そのあとにチェボタレフの密度定理が類体論によって証明されるようになったテンプレート:Sfnテンプレート:Harvtxt には、現代までに知られているアルティン相互法則の証明はすべてチェボタレフのこの方法を用いている、と書かれている。この手法の原型はダフィット・ヒルベルトによるクロネッカー・ウェーバーの定理の証明に見られるという[7]

円分体交差法によるアーベル拡大に対する密度定理の証明とは次のようなものであるテンプレート:Sfn。まず有限次代数体のガロア拡大 テンプレート:Math とそのガロア群 テンプレート:Mvar とその共役類 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math でフロベニウス元が テンプレート:Mvar に含まれる テンプレート:Mvar の素イデアルの密度を表すものとする。密度定理とは テンプレート:Math が存在し テンプレート:Math に等しいという主張である。

アーベル拡大に対して密度定理を証明したいので テンプレート:Math をアーベル拡大とし テンプレート:Math を拡大次数とする。ここで、やや唐突であるが、テンプレート:Mvar の判別式を割らない素数 テンプレート:Mvar を取る。そして テンプレート:Math を1の テンプレート:Mvar 乗根とする。判別式を割らないという仮定からガロア群 テンプレート:Mathテンプレート:Math と同型であり テンプレート:Mathテンプレート:Math と同型である。

円分体交差法のハッセ図

テンプレート:Mvar の素イデアル テンプレート:Mathテンプレート:Math におけるフロベニウス元を テンプレート:Math とすると、拡大 テンプレート:Math における テンプレート:Math のフロベニウス元は テンプレート:Math なので、テンプレート:Mathテンプレート:Mvar の定義で極限の代わりに下極限を取ったものを表すことにすると

dinf(K/F,{σ})τHdinf(K(ζ)/F,{(σ,τ)})

が成り立つ。

テンプレート:Mathテンプレート:Math を取って固定する。テンプレート:Math はその位数が テンプレート:Mvar で割り切れるものを取ったとする。テンプレート:Math で生成される部分群を テンプレート:Math とすると、これと テンプレート:Math の共通部分は単位元のみである。 テンプレート:Mvarテンプレート:Math に対応する部分体とすると テンプレート:Math であり テンプレート:Math は円分拡大である。

円分拡大については密度定理は証明できていたとすると テンプレート:Math は存在しその値は密度定理が主張するものと等しい。これから簡単な議論テンプレート:Efnにより テンプレート:Math も存在しその値は テンプレート:Math に等しいことがわかる。先ほどの不等式において和を取る範囲を テンプレート:Mvar から位数が テンプレート:Mvar で割り切れる テンプレート:Mvar の元の集合 テンプレート:Math に狭めこの値を代入することにより不等式

dinf(K/F,{σ})#Hn/(#G#H)

が得られる。テンプレート:Math がいくらでも1に近くなるように素数 テンプレート:Mvar が取れるテンプレート:Efnので、これから

dinf(K/F,{σ})1/#G

が成り立つことがわかった。この不等式が テンプレート:Math 個ある全ての テンプレート:Math について成り立つためにはこの不等式が等号で成り立たねばならない。よって密度定理が証明できた。以上が円分体交差法による証明である。

脚注

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注釈

テンプレート:Notelist

出典

テンプレート:Reflist

参考文献

  1. 1.0 1.1 Section I.2.2 of Serre
  2. テンプレート:Cite web
  3. テンプレート:Cite journal
  4. テンプレート:Cite book
  5. Corollary VII.13.10 of Neukirch
  6. Corollary VII.13.7 of Neukirch
  7. On the history of the Artin Reciprocity Law