分解型八元数

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数学における分解型八元数(ぶんかいがたはちげんすう、テンプレート:Lang-en-short)の全体は、八次元の分配多元環を成す。通常の八元数とは異なり、非可逆な非零元を含む。またその計量二次形式((二次の)ノルム)の符号数も異なり、通常の八元数のが正定値符号数 テンプレート:Math を持つのに対して、分解型八元数のは分解型符号数 テンプレート:Math を持つ。

八元数全体と分解型八元数全体の二者が、同型を除いて可能な実数体 テンプレート:Mathbf 上の一般八元数環の全てを尽くす。任意の テンプレート:Mvar 上でも対応する分解型の八元数環を考えることができる。

定義

ケーリー=ディクソン構成

八元数全体および分解型八元数全体は、四元数の対の間に乗法を定義することにより、ケーリー=ディクソン構成から得られる。新しい虚数単位 テンプレート:Mvar を導入して、四元数の対 テンプレート:Mathテンプレート:Math の形に書けば、その積は

(a+b)(c+d)=(ac+λd¯b)+(da+bc¯)(λ:=2)

なる規則から定められる[1]。ここで テンプレート:Math と選べば通常の八元数である。その代わりに、テンプレート:Math として分解型八元数が得られる。

あるいは、テンプレート:Ill2をケイリー–ディクソン構成で二重化しても分解型八元数を得ることができる(この場合、テンプレート:Mvarテンプレート:Math の何れの値を選んでも分解型になる)。

乗積表

分解型八元数の基底を集合 テンプレート:Math とする。任意の分解型八元数 テンプレート:Mvar はこれら基底元の実係数 テンプレート:Mvar を持つ線型結合として

x=x0+x1i+x2j+x3k+x4+x5i+x6j+x7k

と書かれる。

線型性により、分解型八元数の乗法は、基底元の間に成り立つ以下の乗積表によって完全に決定される:

基底の乗積表
右因子
1 i j k i j k
左因子 1 1 i j k i j k
i i 1 k j i k j
j j k 1 i j k i
k k j i 1 k j i
i j k 1 i j k
i i k j i 1 k j
j j k i j k 1 i
k k j i k j i 1
八元数の積の記憶術

分解型八元数の基底元の乗法表を表す簡便な記憶術が右図である。これは(基底元の記号を少し改めて書けば)以下のような計算規則(同値なものが480通りある):

スカラーである基底元を テンプレート:Math として eiej=δije0+εijkek (i,j,k=1,,7) および eie0=e0ei=ei;e0e0=e0

から導かれる。ここで、テンプレート:Mvarクロネッカーのデルタテンプレート:Mvarエディントンのイプシロン(これが テンプレート:Math の値を取るのは

テンプレート:Math

のとき)である。

図の赤矢印は、矢印の向き(掛ける順番)を逆転することで符号が逆になることを指し示すものである(上記、分解型八元数の基底同士の乗積表において、右下四分の一の部分を確認せよ)。

共軛・ノルム・逆元

分解型八元数 テンプレート:Mvar共軛元x¯=x0x1ix2jx3kx4x5ix6jx7k で与えられる(これは八元数の場合と同じ)。

テンプレート:Mvarノルム(計量二次形式)は N(x)=x¯x=(x02+x12+x22+x32)(x42+x52+x62+x72) で与えられる。非零八元数 テンプレート:Mvarテンプレート:Math となるもの(等方元)が存在するから、このノルム テンプレート:Math等方二次形式である。ノルム テンプレート:Mvar を考えることで、分解型八元数の全体は テンプレート:Mathbf 上八次元のテンプレート:Ill2となる(これをしばしばノルムの符号数を明示して テンプレート:Math と書く)。

テンプレート:Math ならば テンプレート:Mvar は(両側)逆元 テンプレート:Math を持ち、x1=N(x)1x¯ で与えられる。

性質

分解型八元数の全体は、通常の八元数と同様に非可換かつ非結合的である。またやはり通常の八元数と同様に合成代数を成す(これはノルム テンプレート:Mvar が乗法的、すなわち N(xy)=N(x)N(y) を満たすことを意味する)。分解型八元数の全体はテンプレート:Ill2を満足し、それゆえ交代代数を成す。したがって、テンプレート:Ill2により、任意の二つの分解型八元数が生成する部分多元環は結合的である。可逆な分解型八元数の全体 テンプレート:Mathテンプレート:Ill2を成す。

ツォルンのベクトル行列代数

分解型八元数の積は非結合的であるから、それを通常の行列として表すことはできない(行列の積は常に結合的である)。マックス・オーギュスト・ツォルンは、行列の積を少しく修正したものを用いて、スカラーとベクトルを混合的に成分に持つ「行列」として書き表す方法を発見した[2] 具体的に、ベクトル行列は、実数 テンプレート:Mvar および テンプレート:Math のベクトル テンプレート:Mathbf を成分に持つ テンプレート:Math 行列として (a𝐯𝐰b) の形に書き表されるものと定義する[3][4][5]。このベクトル行列の乗法規則は、三次元ベクトルの点乗積 テンプレート:Math および交叉積 テンプレート:Math を用いて (a𝐯𝐰b)(a𝐯𝐰b)=(aa+𝐯𝐰a𝐯+b𝐯+𝐰×𝐰a𝐰+b𝐰𝐯×𝐯bb+𝐯𝐰) と定義される。加法とスカラー倍は通常の通り成分ごとに定めるものとすると、ベクトル行列の全体は テンプレート:Mathbf 上八次元の単位的分配多元環を成し、ツォルンのベクトル行列代数と呼ばれる。

ベクトル行列の「行列式」を det(a𝐯𝐰b)=ab𝐯𝐰 なる規則で定めれば、この「行列式」テンプレート:Math はツォルンのベクトル行列代数上の二次形式として、合成律: det(AB)=det(A)det(B) を満足する。

実はこのベクトル行列代数は分解型八元数全体の成す多元環に同型になる。分解型八元数 テンプレート:Mvar を実数 テンプレート:Mvar および純虚四元数 テンプレート:Mathbf(これを テンプレート:Math のベクトルと見る)を用いて x=(a+𝐯)+(b+𝐰) と書けば、分解型八元数全体からベクトル行列代数への同型 テンプレート:Mvarxφ(x):=(a+b𝐯+𝐰𝐯+𝐰ab) で与えられる。この同型は、テンプレート:Math が成り立つから、ノルムを保つ。

応用

分解型八元数は物理法則の記述に用いられる。例えば

(a) ディラック方程式(電子や陽子のような、スピン1/2の自由粒子の運動の方程式)は生の分解型八元数の算術で表すことができる[6]
(b) 超対称量子力学は octonionic extension を持つ[7]

参考文献

テンプレート:Reflist

テンプレート:Number systems

  1. Kevin McCrimmon (2004) A Taste of Jordan Algebras, page 158, Universitext, Springer テンプレート:ISBN2 テンプレート:Mr
  2. Max Zorn (1931) "Alternativekörper und quadratische Systeme", Abhandlungen aus dem Mathematischen Seminar der Universität Hamburg 9(3/4): 395–402
  3. Nathan Jacobson (1962) Lie Algebras, page 142, Interscience Publishers.
  4. Richard D. Schafer (1966) An Introduction to Nonassociative Algebras, pp 52–6, Academic Press
  5. Lowell J. Page (1963) "Jordan Algebras", pages 144–186 in Studies in Modern Algebra edited by A.A. Albert, Mathematics Association of America : Zorn’s vector-matrix algebra on page 180
  6. M. Gogberashvili (2006) "Octonionic Electrodynamics", Journal of Physics A 39: 7099-7104. テンプレート:Doi
  7. V. Dzhunushaliev (2008) "Non-associativity, supersymmetry and hidden variables", Journal of Mathematical Physics 49: 042108 テンプレート:Doi; テンプレート:Arxiv