ギブズ-ヘルムホルツの式
ギブズ-ヘルムホルツの式(ギブズ-ヘルムホルツのしき、テンプレート:Lang)とは、熱力学における関係式。内部エネルギーまたはエンタルピーと、自由エネルギーの間の関係式である。1876年にウィラード・ギブズが理論的に導出し、1882年にヘルマン・フォン・ヘルムホルツが実験的に証明した[1]。ヴァルター・ネルンストは1906年、この式を手掛かりに熱力学第三法則を発見した。
化学反応における温度依存性を考える上で重要な式である。この式を使うと、化学電池の起電力が温度によってどの程度変わるかを、反応熱から推定できる。また、この式から導かれるファントホッフの式を使うと、化学平衡に達したときの反応物と生成物の存在比[注 1]が温度によってどの程度変わるかを、反応熱から推定できる。反応熱が不明あるいは不確かなときは逆に、これらの熱力学関係式を使って反応熱を決定できる。すなわち熱量計による直接測定が困難な反応熱は、起電力や平衡定数の温度依存性を測定することにより、間接的に測定できる。
系のヘルムホルツエネルギー テンプレート:Mvar が熱力学温度 テンプレート:Mvar と体積 テンプレート:Mvar の関数として表されているとき、この系の内部エネルギー テンプレート:Mvar は次式で与えられる。 テンプレート:Indent 系のギブズエネルギー テンプレート:Mvar が熱力学温度 テンプレート:Mvar と圧力 テンプレート:Mvar の関数として表されているとき、この系のエンタルピー テンプレート:Mvar は次式で与えられる。 テンプレート:Indent この二つの式と、これらから導かれる一連の式をギブズ-ヘルムホルツの式という。
バリエーション
等価な式
ギブズ-ヘルムホルツの式には、幾通りかの表し方がある[2]。たとえば、上記の式の右辺を1項にまとめた式もギブズ-ヘルムホルツの式と呼ばれる。 テンプレート:Indent この二つの式から関数 テンプレート:Math または テンプレート:Math の温度係数を与える式が得られる。 テンプレート:Indent 応用上は、次の形が便利である。 テンプレート:Indent 最後の式は、テンプレート:Math を温度の逆数 テンプレート:Math に対してプロットしたときの傾きがエンタルピー テンプレート:Mvar に等しい、ということを表している。
反応熱と自由エネルギー変化
温度 テンプレート:Mvar、圧力 テンプレート:Mvar の定温定圧条件下で起こる化学反応を考える。生成物のエンタルピー テンプレート:Math とギブズエネルギー テンプレート:Math の間にギブズ-ヘルムホルツの式が成り立つ。 テンプレート:Indent 反応物のエンタルピー テンプレート:Math とギブズエネルギー テンプレート:Math の間にも同様の式が成り立つ。 テンプレート:Indent 辺々引くと、反応エンタルピー テンプレート:Indent と反応ギブズエネルギー テンプレート:Indent の間の関係式が得られる。 テンプレート:Indent 温度 テンプレート:Mvar、体積 テンプレート:Mvar の定温定積条件下でも同様の式が成り立つ。 テンプレート:Indent この二つの式は、定圧反応熱または定容反応熱を、自由エネルギー変化に関係付ける式である。これらもギブズ-ヘルムホルツの式と呼ばれる[3]。
反応熱と起電力
化学電池の起電力 テンプレート:Math と反応ギブズエネルギー テンプレート:Math の間には、次の関係式が成り立つ。 テンプレート:Indent ここで テンプレート:Mvar は電池反応に伴って移動する電子の数[注 2]であり、テンプレート:Mvar はファラデー定数である[注 3]。この式を定温定圧条件下で成り立つギブズ-ヘルムホルツの式に代入すると、反応エンタルピー テンプレート:Math と起電力 テンプレート:Math の間の関係式が得られる。 テンプレート:Indent この式もギブズ-ヘルムホルツの式と呼ばれることがある[3][4]。
式の導出
自由エネルギーの定義式からエントロピーを消去すると、ギブズ-ヘルムホルツの式が得られる。以下、ヘルムホルツエネルギーを例にとって説明する。ギブズエネルギーに関してもほぼ同様の手順で導出できる。
熱力学第一法則と熱力学第二法則により、内部エネルギー テンプレート:Mvar の全微分 テンプレート:Math について テンプレート:Indent が成り立つ。ここで テンプレート:Mvar は熱力学温度、 テンプレート:Mvar はエントロピー、テンプレート:Mvar は圧力、テンプレート:Mvar は体積である。化学ポテンシャルの項は省略した。この式とヘルムホルツエネルギーの定義式 テンプレート:Indent から、ヘルムホルツエネルギー テンプレート:Mvar の全微分 テンプレート:Math について テンプレート:Indent が成り立つ。一方、ヘルムホルツエネルギーが温度 テンプレート:Mvar と体積 テンプレート:Mvar の関数 テンプレート:Math として与えられているとき、全微分 テンプレート:Math は テンプレート:Indent と表される。上の2式の テンプレート:Math の係数を比較すると
が導けるから、これをヘルムホルツエネルギーの定義式 テンプレート:Math に代入すると、ギブズ-ヘルムホルツの式 テンプレート:Indent が得られる。
他の等価な式は、微分の公式[注 4]を使うと テンプレート:Indent となることから、直ちに得られる。
熱力学ポテンシャル
ヘルムホルツエネルギー
温度 テンプレート:Mvar と体積 テンプレート:Mvar を変数とするヘルムホルツエネルギー テンプレート:Math は、熱力学ポテンシャルのひとつであり、系の平衡状態における熱力学的性質の情報を全て持つ。エントロピー テンプレート:Mvar と圧力 テンプレート:Mvar は、テンプレート:Math より テンプレート:Indent と表される。内部エネルギー テンプレート:Mvar は、ギブズ-ヘルムホルツの式より テンプレート:Indent と表される。ギブズエネルギー テンプレート:Mvar とエンタルピー テンプレート:Mvar は テンプレート:Indent と表される。すなわち、関数 テンプレート:Math が テンプレート:Math で偏微分可能であれば、温度 テンプレート:Math、体積 テンプレート:Math における テンプレート:Math が全て計算できる。
ギブズエネルギー
温度 テンプレート:Mvar と圧力 テンプレート:Mvar を変数とするギブズエネルギー テンプレート:Math もまた熱力学ポテンシャルであり、系の平衡状態における熱力学的性質の情報を全て持つ。エントロピー テンプレート:Mvar と体積 テンプレート:Mvar は、テンプレート:Math より テンプレート:Indent と表される。エンタルピー テンプレート:Mvar は、ギブズ-ヘルムホルツの式より テンプレート:Indent と表される。ヘルムホルツエネルギー テンプレート:Mvar と内部エネルギー テンプレート:Mvar は テンプレート:Indent と表される。すなわち、関数 テンプレート:Math が テンプレート:Math で偏微分可能であれば、温度 テンプレート:Math、圧力 テンプレート:Math における テンプレート:Math が全て計算できる。
エンタルピー
温度 テンプレート:Mvar と圧力 テンプレート:Mvar を変数とするエンタルピー テンプレート:Math は、熱力学ポテンシャルではない。エンタルピーの自然な変数は テンプレート:Math ではなく テンプレート:Math なので、テンプレート:Math ではなく テンプレート:Math が熱力学ポテンシャルである。たとえばギブズエネルギー テンプレート:Mvar は テンプレート:Indent のように、 テンプレート:Math とその偏微分係数 テンプレート:Math で表すことができる。
それに対して、テンプレート:Math は熱力学ポテンシャルではないので、テンプレート:Math とその偏微分係数 テンプレート:Math で温度 テンプレート:Math、圧力 テンプレート:Math におけるギブズエネルギー テンプレート:Mvar を表すことはできない。実際、テンプレート:Math が既知関数であるときギブズ-ヘルムホルツの式 テンプレート:Indent は、テンプレート:Math を未知関数とする微分方程式である。この微分方程式を テンプレート:Math の関係を使って解くと、その解は テンプレート:Indent と表される。温度 テンプレート:Math、圧力 テンプレート:Mvar におけるギブズエネルギー テンプレート:Mvar を計算するには、積分定数 テンプレート:Math または テンプレート:Math と、テンプレート:Math から テンプレート:Math の温度範囲にわたる テンプレート:Math が必要である[注 5]。
化学ポテンシャル
この節では、モルエンタルピーと化学ポテンシャルの間に成り立つギブズ-ヘルムホルツの式について述べる。
単一成分系
純物質のモルエンタルピー テンプレート:Math は、物質 1 モルあたりのエンタルピーであり、テンプレート:Mvar を物質量 テンプレート:Mvar で割ったものに等しい。またモルギブズエネルギー テンプレート:Math は、その物質の化学ポテンシャル テンプレート:Mvar に等しい。よって単一成分系のギブズ-ヘルムホルツの式は テンプレート:Indent と表される。
理想気体
温度 テンプレート:Mvar、圧力 テンプレート:Mvar の理想気体の化学ポテンシャルは テンプレート:Indent と表される。テンプレート:Mvar は気体定数で、テンプレート:Math は標準圧力 テンプレート:Math の下での化学ポテンシャルである。これを単一成分系のギブズ-ヘルムホルツの式に代入すると、圧力 テンプレート:Mvar に依存する項が打ち消しあって テンプレート:Indent となる。理想気体のモルエンタルピー テンプレート:Math は圧力 テンプレート:Mvar に依らない(ジュールの法則)。
多成分系
混合物のギブズ-ヘルムホルツの式は、エンタルピー テンプレート:Mvar やギブズエネルギー テンプレート:Mvar が成分の物質量 テンプレート:Math に依存することをあらわに書くと テンプレート:Indent と表される。この式を成分 テンプレート:Mvar の物質量 テンプレート:Mvar で偏微分すると、次式が得られる。 テンプレート:Indent ここで テンプレート:Math は成分 テンプレート:Mvar の部分モルエンタルピーと呼ばれる量であり、次式で定義されるテンプレート:Sfnp。 テンプレート:Indent また テンプレート:Math は成分 テンプレート:Mvar の化学ポテンシャルであり、次式で定義される。 テンプレート:Indent 溶液や固溶体、混合ガス(混合気体)などの多成分系では、個々の成分についてギブズ-ヘルムホルツの式が成り立つテンプレート:Sfnp。
理想希薄溶液
理想希薄溶液の定義にはモル分率 テンプレート:Mvar に基づくものや質量モル濃度 テンプレート:Mvar に基づくもの、モル濃度 テンプレート:Mvar に基づくものなどいくつかのバリエーションがある[5]。熱力学的な考察をする際には、組成変数としてモル分率 テンプレート:Math を用いるのが便利である[6]。それに対して、現実の物理化学的な問題を扱う際には、質量モル濃度(溶質の物質量を溶媒の質量で割ったもの)やモル濃度(溶質の物質量を溶液の体積で割ったもの)が便利であるテンプレート:Sfnp。質量モル濃度 テンプレート:Mvar に基づいて理想希薄溶液を定義すると、温度 テンプレート:Mvar、圧力 テンプレート:Math における溶質成分 テンプレート:Mvar の化学ポテンシャル テンプレート:Mvar は次式で与えられる。 テンプレート:Indent ここで テンプレート:Math は標準状態 テンプレート:Math における化学ポテンシャルであり、 溶質成分 テンプレート:Mvar の標準化学ポテンシャルと呼ばれる。
この式を多成分系の個々の成分について成り立つギブズ-ヘルムホルツの式 テンプレート:Indent に代入すると、質量モル濃度 テンプレート:Mvar に依存する項が打ち消しあって テンプレート:Indent となる。この式から、理想希薄溶液の任意の成分の部分モルエンタルピー テンプレート:Mvar は組成 テンプレート:Mvar には依らないことが分かる。
標準状態
ある物質 B の標準状態[5]においては、標準モルエンタルピー テンプレート:Math と標準化学ポテンシャル テンプレート:Math の間に次式が成り立つ。 テンプレート:Indent 次節で述べるように、標準モルエンタルピー テンプレート:Math と標準化学ポテンシャル テンプレート:Math は、標準反応エンタルピー テンプレート:Math と標準反応ギブズエネルギー テンプレート:Math を定義する際にそれぞれ用いられる。
標準反応ギブズエネルギー
この節では、標準反応エンタルピー テンプレート:Math と標準反応ギブズエネルギー テンプレート:Math の間に成り立つギブズ-ヘルムホルツの式 テンプレート:Indent を導出する。この式を少し変形した テンプレート:Indent は、化学平衡の温度依存性を考える上で基礎となる式である。
定義
温度 テンプレート:Mvar における、ある化学反応の標準反応エンタルピー テンプレート:Math は次式で定義される[5]。 テンプレート:Indent ここで テンプレート:Math は、反応に関与する物質 B の標準状態におけるモルエンタルピーである。テンプレート:Mathは物質 B の化学量数(化学反応式の係数)であり、B が生成物のときは正の値、B が反応物のときは負の値である。たとえば反応
の場合、標準反応エンタルピーは テンプレート:Indent で定義される。
同様に、温度 テンプレート:Mvar における標準反応ギブズエネルギー テンプレート:Math は次式で定義される[5]。 テンプレート:Indent ここで テンプレート:Math は物質 B の標準化学ポテンシャルであり、物質 B の標準状態におけるモルギブズエネルギー テンプレート:Math に等しい。反応 テンプレート:Math の標準反応ギブズエネルギーは テンプレート:Indent で定義される。
導出例1
標準反応エンタルピーの定義式 テンプレート:Math に、標準モルエンタルピー テンプレート:Math と標準化学ポテンシャル テンプレート:Math の間に成り立つ式 テンプレート:Indent を代入し、さらに標準反応ギブズエネルギーの定義式 テンプレート:Math を使うと、ギブズ-ヘルムホルツの式 テンプレート:Indent が導かれる。
導出例2
定温定圧条件下では、一般に次のギブズ-ヘルムホルツの式が成り立つ。 テンプレート:Indent 化学反応に関与する物質がすべて標準状態にあるとき、反応エンタルピー テンプレート:Math は標準反応エンタルピー テンプレート:Math に等しく、反応ギブズエネルギー テンプレート:Math は標準反応ギブズエネルギー テンプレート:Math に等しい。よって次式が成り立つ[7]。 テンプレート:Indent
平衡定数の温度依存性
平衡定数 テンプレート:Mvar の温度依存性を表すファントホッフの式 テンプレート:Indent は、標準反応ギブズエネルギー テンプレート:Math と標準反応エンタルピー テンプレート:Math の間に成り立つギブズ-ヘルムホルツの式 テンプレート:Indent から導かれる。
以下、この節では次の可逆反応
における化学平衡を例に述べる。
平衡の条件
外界との間で物質の出入りがない、閉鎖系を考える。温度 テンプレート:Mvar 一定、圧力 テンプレート:Mvar 一定の条件下で系が平衡状態になるのは、ギブズエネルギー テンプレート:Mvar が極小のときである。化学ポテンシャルの項を省略せずに テンプレート:Math を書くと テンプレート:Indent となるが、定温定圧では テンプレート:Math なので テンプレート:Indent が成り立つ。したがって反応 テンプレート:Math がわずかに進んで、化学成分 A, B, C, D の物質量がそれぞれ テンプレート:Math に変化したときのギブズエネルギーの変化量は テンプレート:Indent で与えられる。テンプレート:Mvar が極小のときは テンプレート:Math でなければならないので、右辺の テンプレート:Math の係数はゼロでなければならない。よって テンプレート:Indent が成り立つ。すなわち、温度 テンプレート:Mvar、圧力 テンプレート:Mvar の下で可逆反応
が化学平衡にあるとき、化学成分 A, B, C, D の化学ポテンシャル テンプレート:Math の間には、化学反応式から直ちに書き下せる関係式 テンプレート:Indent が成り立つ。
理想気体
理想気体の混合物の場合、成分 テンプレート:Mvar の化学ポテンシャル テンプレート:Mvar は テンプレート:Indent で与えられる。ただし テンプレート:Mvar は成分 テンプレート:Mvar の分圧であり、全圧 テンプレート:Mvar と テンプレート:Math の関係がある。また テンプレート:Math は標準圧力である。この式と平衡状態で成分 A, B, C, D の化学ポテンシャルの間に成り立つ関係式から、平衡状態では テンプレート:Indent が成り立つ。標準反応ギブズエネルギーの定義式 テンプレート:Math を使うと、この標準化学ポテンシャルと分圧の間に成り立つ関係式は テンプレート:Indent と表される。ただし テンプレート:Mvar は テンプレート:Indent で定義される量であり、圧力に基づいた平衡定数[5]または圧平衡定数と呼ばれる。標準反応ギブズエネルギー テンプレート:Math が全圧 テンプレート:Mvar にも物質量 テンプレート:Mvar にも依らないので、理想気体混合物の圧平衡定数 テンプレート:Mvar もまた テンプレート:Mvar にも テンプレート:Mvar にも依らない量であることが、上の関係式から分かる。
圧平衡定数 テンプレート:Mvar と標準反応エンタルピー テンプレート:Math の間のファントホッフの式は、ギブズ-ヘルムホルツの式から導かれる。 テンプレート:Indent 最後の式から、理想気体混合物の テンプレート:Math を温度の逆数 テンプレート:Math に対してプロットしたときの傾きは テンプレート:Math に等しい、ということが分かる[7]。
実在気体
実在気体の場合、成分 テンプレート:Mvar の化学ポテンシャル テンプレート:Mvar は テンプレート:Indent で与えられる。ただし、テンプレート:Mvar は成分 テンプレート:Mvar のフガシティーである。理想気体のときと同じ議論を繰り返すと テンプレート:Indent で定義されるフガシティーに基づいた平衡定数 テンプレート:Mvar と標準反応エンタルピー テンプレート:Math の間のファントホッフの式が導かれる。 テンプレート:Indent この式から、実在気体の圧平衡定数 テンプレート:Mvar と平衡組成における反応エンタルピー テンプレート:Math の間のファントホッフの式が導かれる[注 6]。 テンプレート:Indent ここで テンプレート:Math は温度 テンプレート:Mvar、圧力 テンプレート:Mvar で化学平衡にあるときの物質量 テンプレート:Mvar を表す。また、反応エンタルピー テンプレート:Math は次式で定義される[5]。 テンプレート:Indent ただし、テンプレート:Math は各成分の部分モルエンタルピーである。実在気体では、分子間の相互作用が無視できないので、一般に テンプレート:Math である[8]。 テンプレート:Indent テンプレート:Mvar と テンプレート:Math の間のファントホッフの式を使うと、測定が困難な テンプレート:Mvar の温度依存性を、標準生成エンタルピー テンプレート:Math から容易に計算できる。一方 テンプレート:Mvar と テンプレート:Math の間のファントホッフの式を使うと、測定が容易な テンプレート:Mvar の温度依存性から、直接測定が困難な テンプレート:Math を決定できる。全圧 テンプレート:Math の極限では テンプレート:Math および テンプレート:Math となるので、分子間の相互作用が無視できるほど十分に低い圧力では、どちらの式も理想気体のファントホッフの式と同じになる。
理想希薄溶液
標準圧力 テンプレート:Math の下で、質量モル濃度 テンプレート:Mvar の溶質成分 テンプレート:Mvar の化学ポテンシャル テンプレート:Mvar が テンプレート:Indent で与えられる溶液を考える。理想気体のときと同じ議論を繰り返すと テンプレート:Indent で定義される質量モル濃度に基づいた平衡定数 テンプレート:Mvar と標準反応エンタルピー テンプレート:Math の間のファントホッフの式が導かれる。 テンプレート:Indent テンプレート:Math が質量モル濃度 テンプレート:Math に依らないので、 テンプレート:Mvar も テンプレート:Mvar には依らない。最後の式から、理想希薄溶液の テンプレート:Math を温度の逆数 テンプレート:Math に対してプロットしたときの傾きは テンプレート:Math に等しい、ということが分かる。
実在溶液
標準圧力 テンプレート:Math の下にある実在溶液[注 7]の場合、成分 テンプレート:Mvar の化学ポテンシャル テンプレート:Mvar は テンプレート:Indent で与えられる。ただし、テンプレート:Mvar は成分 テンプレート:Mvar の活量である。圧力 テンプレート:Math の下で平衡状態にあるときの活量 テンプレート:Math で定義される平衡定数 テンプレート:Indent を標準平衡定数または熱力学平衡定数と呼ぶ。標準平衡定数 テンプレート:Mvar と標準反応ギブズエネルギー テンプレート:Math の間には次の関係が成り立つ[5]。 テンプレート:Indent テンプレート:Math が質量モル濃度 テンプレート:Mvar に依らないので、テンプレート:Mvar も テンプレート:Mvar には依らない。標準反応エンタルピー テンプレート:Math との間には次の関係が成り立つ。 テンプレート:Indent この式から、実在溶液の質量モル濃度に基づいた平衡定数 テンプレート:Mvar と平衡組成における反応エンタルピー テンプレート:Math の間のファントホッフの式が導かれる。 テンプレート:Indent 実在溶液では、溶質間の相互作用が無視できないので、一般に テンプレート:Math である[8]。 テンプレート:Indent ここで テンプレート:Mvar は成分 テンプレート:Mvar の化学量数(化学反応式の係数)であり、生成物のときは正の値、反応物のときは負の値である。また テンプレート:Mvar は成分 テンプレート:Mvar の質量モル濃度に基づいた活量係数であり、次式で定義される[5]。 テンプレート:Indent 熱力学平衡定数 テンプレート:Math と テンプレート:Math の間のファントホッフの式を使うと、測定が困難な テンプレート:Math の温度依存性を、標準生成エンタルピー テンプレート:Math から容易に計算できる。一方 テンプレート:Mvar と テンプレート:Math の間のファントホッフの式を使うと、測定が容易な テンプレート:Mvar の温度依存性から、直接測定が困難な テンプレート:Math を決定できる。濃度 テンプレート:Math の極限では テンプレート:Math および テンプレート:Math となるので、溶質間の相互作用が無視できるほど十分に希薄な溶液では、どちらの式も理想希薄溶液のファントホッフの式と同じになる。
ルシャトリエの原理とファントホッフの式
温度 テンプレート:Mvar で化学平衡にある系に、圧力 テンプレート:Mvar を一定に保ったまま外部から微小な熱量 テンプレート:Math を加えた結果、温度が テンプレート:Math に変化したとする。また、温度の変化に伴って反応 テンプレート:Math がわずかに進み、化学成分 A, B, C, D の物質量がそれぞれ テンプレート:Math に変化したとする。定圧過程では加えられた熱量 テンプレート:Math は系のエンタルピー変化 テンプレート:Math に等しいから、テンプレート:Math と テンプレート:Math の関係は次式で与えられる。 テンプレート:Indent ここで テンプレート:Math は、組成が テンプレート:Mvar に固定された系の定圧熱容量に相当する。というのは、定圧条件下で外部から微小熱量 テンプレート:Math を加えたときに、仮に化学反応が正方向にも逆方向にも進まなかったなら テンプレート:Math となるので、系の温度上昇が テンプレート:Math に等しくなるからである。
ルシャトリエの原理より、可逆反応が起こるときの温度上昇 テンプレート:Math は、化学成分 A, B, C, D の物質量が固定されたときの温度上昇より小さくなければならないテンプレート:Sfnp。 テンプレート:Indent したがって定圧過程において、一般に次の不等式が成り立つ。 テンプレート:Indent 吸熱反応では テンプレート:Math であり、発熱反応では テンプレート:Math である。吸熱反応ではルシャトリエの原理より テンプレート:Math となるから、温度が高くなると反応は正の向きに進み生成物の量が増える。発熱反応では テンプレート:Math となるから、温度が高くなると反応は逆向きに進み生成物の量が減る。温度を下げたときは逆に、吸熱反応では生成物の量が減り、発熱反応では生成物の量が増える。
温度を変えたときに可逆反応がどちら向きに進むかは、ルシャトリエの原理と反応熱の符号から分かる。しかし、反応がどの程度進むかについては、ルシャトリエの原理からは何もいえない。ファントホッフの式を使うと、可逆反応がどの程度進むかを標準反応エンタルピー テンプレート:Math から推定できる。 テンプレート:Indent 何らかの方法で成分のフガシティー テンプレート:Mvar や活量係数 テンプレート:Mvar を見積もることができるなら、推定の精度は上がる。あるいは系を理想気体または理想希薄溶液とみなせる場合は、可逆反応がどの程度進むかを テンプレート:Math から定量的に予測できる。
起電力の温度依存性
化学電池の起電力 テンプレート:Math と反応エンタルピー テンプレート:Math の間には、次のギブズ-ヘルムホルツの式が成り立つ。 テンプレート:Indent ここで テンプレート:Mvar は電池反応に伴って移動する電子の数[注 2]であり、テンプレート:Mvar はファラデー定数である[注 3]。この式の両辺を熱力学温度 テンプレート:Mvar で微分すると次式が得られる。 テンプレート:Indent この式は、反応エンタルピー テンプレート:Math の温度依存性を無視する近似では起電力の温度係数 テンプレート:Math が温度に依らない定数になることと、起電力の2次微分係数 テンプレート:Math が生成物と反応物の定圧熱容量の差 テンプレート:Math から計算できることを示している(キルヒホッフの法則)。
燃料電池の起電力
水素を燃料とする燃料電池の起電力の温度依存性は、水素の燃焼熱から計算できる。
電池の全反応を
と書くと テンプレート:Math であり、反応に関与する物質が全て標準状態にあるなら、25℃における起電力 テンプレート:Math は 1.229 V[9]である。この反応の テンプレート:Math は水素の標準燃焼エンタルピー −285.83 kJ/mol に等しいから、ギブズ-ヘルムホルツの式を使うと起電力の温度係数は テンプレート:Math と計算される。
脚注
出典
注釈
参考文献
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book
- テンプレート:Cite book
関連項目
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