モル質量定数
テンプレート:物理定数 モル質量定数(モルしつりょうていすう、テンプレート:Lang-en)はアボガドロ定数と原子質量定数の積[1]。 事実上 1 g/mol に等しい。原子量・分子量・式量にモル質量定数をかけると、いずれもモル質量になる。標準モル質量 (テンプレート:Lang-en) とも言う[2][3]。
SI基本単位の再定義 (2019年) により、定義値から実験値に変更された物理定数のひとつである。
定義
この節では、モル質量定数 テンプレート:Math がアボガドロ定数 テンプレート:Math と原子質量定数 テンプレート:Math の積に等しいことを示す[4]。
モル質量定数 テンプレート:Math は、炭素12のモル質量 テンプレート:Math の12分の1として定義される[5][注釈 1]。
12Cのモル質量 テンプレート:Math は、12C原子1個の質量 テンプレート:Math のアボガドロ定数倍に等しい[6]。
原子質量定数 テンプレート:Math は、テンプレート:Math の12分の1として定義される[7]。
以上の3式から、次式が成り立つ。
原子質量定数 テンプレート:Math は、統一原子質量単位 u と等しい[8]。したがって、テンプレート:Math は テンプレート:Math と u の積にも等しい。
定義値から実験値へ
2019年5月20日にモルの定義が変更されるまで、モル質量定数は厳密に 1 g/mol だった。モルの定義が変更された後は 1 g/mol から僅かにずれることになったが、そのずれは 10−9 g/mol 以下であり、実用上は 1 g/mol とみなせる。
2019年以前
モルは、12グラムの炭素12の中に存在する原子の数と等しい要素粒子を含む系の物質量である、と定義されていた[9]。この定義によれば、12グラムの炭素12の物質量は厳密に1モルである。モル質量は質量を物質量で割ったものであるから、炭素12のモル質量 テンプレート:Math は厳密に 12 g/mol である[4]。したがって テンプレート:Math の定義式から、モル質量定数は厳密に 1 g/mol となる。
この定義の下ではモル質量定数は定義定数であり、不確かさはない[注釈 2]。それに対してアボガドロ定数は、この定義の下では不確かさを持つ。というのは、アボガドロ定数 テンプレート:Math は テンプレート:Math を統一原子質量単位 u で割ったものに等しく、統一原子質量単位をグラム単位で表したときの数値[注釈 3] u/g が不確かさを持つからである。
この定義におけるアボガドロ定数の相対不確かさは、SI単位で表した統一原子質量単位の相対不確かさに等しい。2019年までのアボガドロ定数の値は、測定により求められる実験値だった。
2019年以降
SI基本単位の再定義により、アボガドロ定数は不確かさのない定義定数になった。モル質量定数 テンプレート:Math はアボガドロ定数 テンプレート:Math と統一原子質量単位 u の積に等しいので、u/mol単位で表したときのモル質量定数にも不確かさがなくなった。
統一原子質量単位をグラム単位で表したときの数値 u/g は相変わらず不確かさを持つので、g/mol単位で表したモル質量定数は不確かさを持つことになった。また、測定実験により決められる値になったので、必ずしも 1 g/mol には一致しない値になった。g/mol単位で表したモル質量定数の2025年現在の値は以下の通り[5]。
この定義におけるモル質量定数の相対不確かさは、SI単位で表した統一原子質量単位の相対不確かさに等しく、2025年現在 テンプレート:Val である[5]。
テンプレート:Math の 1 g/mol からのずれは非常に小さいので、標準原子量からモル質量を計算する際には、このずれは無視できる。後述するように、元素Eのモル質量 テンプレート:Math は原子量 テンプレート:Math とモル質量定数 テンプレート:Math の積に等しい。リンの標準原子量
と テンプレート:Math から、リンのモル質量 テンプレート:Math を計算すると以下の値が得られる。
テンプレート:Math を用いた場合とのずれは10桁目に初めて現れる。したがって、標準原子量からモル質量を計算する場合は テンプレート:Math として計算してよい[注釈 4][注釈 2]。
電子の原子量
モル質量定数 テンプレート:Math の値が、リュードベリ定数 テンプレート:Math、微細構造定数 テンプレート:Mvar、それと電子の原子量 テンプレート:Math の実験値から決められることを、以下に示す[11]。
まず、リュードベリ定数 テンプレート:Math を、微細構造定数 テンプレート:Mvar、電子の質量 テンプレート:Math、光速度 テンプレート:Mvar、プランク定数 テンプレート:Mvar を用いて表す。
電子の原子量 テンプレート:Math と テンプレート:Math の積は電子のモル質量 テンプレート:Math に等しく、テンプレート:Math は テンプレート:Math のアボガドロ定数倍に等しいことから、次式が成り立つ。
これらの式を使うと、モル質量定数 テンプレート:Math は次式で表せる。
上式の最右辺に含まれる テンプレート:Math は、2019年以降は不確かさのない定義定数である。 したがって テンプレート:Math の実験値と不確かさから テンプレート:Math の値と不確かさが決まる。
相対モル質量とモル質量
この節では、原子量・分子量・式量の諸概念が相対モル質量として一つにまとめられることを述べた後、「原子量・分子量・式量にg/mol単位をつけると、その物質のモル質量になること」テンプレート:Sfnを物理量の値は数値と単位の積で表されるという観点[12]から述べる。
相対モル質量
モル質量 テンプレート:Mvar を モル質量定数 テンプレート:Math で割ったものを相対モル質量 テンプレート:Math と呼ぶ[3]。
相対モル質量 テンプレート:Math は単位を付けない(単位が1の)無次元量である[注釈 5]。要素粒子が原子のとき、相対モル質量は原子量と呼ばれ、記号 テンプレート:Math が用いられる[1]。要素粒子が分子のとき、相対モル質量は分子量と呼ばれる[1]。要素粒子がNaClなどのその他のときは、相対モル質量は式量と呼ばれる。
相対モル質量 テンプレート:Math にモル質量定数 テンプレート:Math をかけるとモル質量 テンプレート:Mvar に戻るので、原子量・分子量・式量にモル質量定数をかけると、いずれもモル質量になる。
原子量
元素Eの原子量 テンプレート:Math には、『原子量表』に記載されている標準原子量を用いることが多い。単位の付かない原子量 テンプレート:Math にモル質量定数 テンプレート:Math をかけると、単位の付いたモル質量 テンプレート:Math が得られる。
例えば、炭素の原子量として4桁の原子量を使うと テンプレート:Math であり、これに テンプレート:Math をかけると炭素のモル質量 テンプレート:Math が得られる。
分子量・式量
分子量や式量は、分子・イオン・組成を表す化学式と、それに含まれる元素の原子量から計算できるテンプレート:Sfn。化学式Xで表される要素粒子のモル質量 テンプレート:Math は、単位の付かない分子量・式量 テンプレート:Math にモル質量定数 テンプレート:Math をかけると得られる。
以下に4桁の原子量を使った例を示す。
- 二酸化炭素の分子量は テンプレート:Math であり、これに テンプレート:Math をかけると二酸化炭素のモル質量 テンプレート:Math が得られる。
- アンモニウムイオンの式量は テンプレート:Math であり、これに テンプレート:Math をかけるとアンモニウムイオンのモル質量 テンプレート:Math が得られる。
- 塩化ナトリウムの式量は テンプレート:Math であり、これに テンプレート:Math をかけると塩化ナトリウムのモル質量 テンプレート:Math が得られる。
SIの再定義
相対モル質量の値はSI基本単位の再定義 (2019年) の影響を受けなかった[13]。炭素12のモル質量 テンプレート:Math が 12 g/mol から テンプレート:Val[注釈 6] に変化したのに対し、炭素12の相対モル質量は2019年前後で変わらず テンプレート:Math のままである。これは、粒子Xの相対モル質量 テンプレート:Math が、粒子Xの質量 テンプレート:Math を統一原子質量単位 u で表したときの数値に等しいためである。統一原子質量単位 u は非SI単位なので、u単位で表した質量の値はSI単位が変わっても変わらない。
あるいは、もっと単純に、原子量・分子量は相対質量なので単位に依らない、と考えてもよい。
脚注
注釈
出典
参考文献
外部リンク
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関連項目
- ↑ 1.0 1.1 1.2 グリーンブック (2009) p. 57.
- ↑ グリーンブック (2009) p. 143.
- ↑ 3.0 3.1 Gold Book R05270.
- ↑ 4.0 4.1 SI 日本語版 (2019) pp.102-103.
- ↑ 5.0 5.1 5.2 CODATA Mu.
- ↑ CODATA M(12C).
- ↑ CODATA mu.
- ↑ CODATA u.
- ↑ グリーンブック (2009) p. 104.
- ↑ 原子量表 (2019).
- ↑ 倉本 (2019) p. 199.
- ↑ 日本化学会 (2020).
- ↑ 倉本 (2019) p. 198.
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