冪函数
数学の、特に解析学における冪函数(べきかんすう、巾函数、テンプレート:Lang-en-short)は、適当な定数 テンプレート:Mvar に対して定義される函数
を言う。ここに定数 テンプレート:Mvar は、この冪函数の冪指数 (exponent) と呼ばれ、文脈により自然数、整数、有理数、実数、複素数などに値をとることができるが、テンプレート:Mvar の持つ性質によって対応する函数 テンプレート:Mvar の自然な定義域が異なってくることに注意が必要である。
冪函数は実変数に対する函数として一般に定義することができる。自然数冪を持つ冪函数は、多項式函数あるいは冪級数の展開の基底を与える。また実数冪を持つ冪函数は物理学、生物学、経済学などにおいて関係するモデルを与える。
複素変数に関して有効な議論も中にはあるが、以下では専ら実変数 テンプレート:Mvar に関する冪函数について述べる。またより一般には、上記函数の定数倍 テンプレート:Mvar(単項式函数)をも含む意味で冪函数と呼ぶ場合もあるが、本項では常に テンプレート:Math のみを扱う。
自然数冪

各自然数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math 上の函数
が定義できる。この函数は、
- テンプレート:Mvar が偶数のとき偶函数、すなわち任意の実数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math であり、対応する函数のグラフは テンプレート:Mvar-軸に関して線対称になる。
- テンプレート:Mvar が奇数のとき奇函数、すなわち任意の実数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math であり、対応するグラフは原点に関して点対称である。
小さい テンプレート:Mvar に対する冪函数を具体的に書けば:
- テンプレート:Math のとき、恒等変換 テンプレート:Math これはもっとも単純な一次函数であり、線型変換にもなる。
- テンプレート:Math のとき、平方函数 テンプレート:Math これはもっとも単純な二次函数であり、グラフが放物線となる唯一の冪函数である.
- テンプレート:Math のとき、テンプレート:Math はもっとも単純な三次函数である.
- テンプレート:Math の場合もふつうはこの仲間に入る。これは規約により、対応 テンプレート:Math というよりは、定数函数 テンプレート:Math として定義される。
これらの函数はすべて、テンプレート:Math における値が テンプレート:Math に等しい。また特に、テンプレート:Math のとき
が成り立つ。
自然数冪の場合には、定数函数 テンプレート:Math となる テンプレート:Math の場合を除けば、任意の冪函数は正の実軸上で狭義単調に、テンプレート:Math のときの値 テンプレート:Math から テンプレート:Math のときの極限 テンプレート:Math まで増大する。対照的に負の実軸上では区別が生じ、テンプレート:Mvar が零でない偶数のとき狭義単調減少であり、テンプレート:Mvar が奇数のとき狭義単調増大になる(特に テンプレート:Math ならば原点に変曲点を持つ)。
自然数冪函数は多項式函数の構成に利用できる。また、自然数冪函数の全体は、別の函数を冪級数に展開する際の基底を与える。
負の整数冪

各負の整数 テンプレート:Math に対して、非零実数の集合 テンプレート:Math 上の函数
が定義される。[[#自然数冪|前節の テンプレート:Mvar]] と同様に、函数 テンプレート:Math は テンプレート:Mvar が偶数のとき偶、奇数のとき奇である。
小さい テンプレート:Mvar に対して具体的に書けば:
- テンプレート:Math のとき、逆数函数 テンプレート:Math これは、対応する函数のグラフが双曲線となる唯一の冪函数である。
これらの函数もすべて テンプレート:Math を満たす。また特に テンプレート:Math とするとき
が成り立つ。
これら負の整数冪の冪函数はすべて、正の実軸上で狭義単調に テンプレート:Math の極限となる テンプレート:Math から テンプレート:Math の極限となる テンプレート:Math まで減少する。これらのグラフはすべて テンプレート:Math と テンプレート:Math の二つの直線を漸近線に持つ。負の実軸上では、偶数冪ならば単調増大、奇数冪ならば単調減少の区別が生じる。
有理数冪

任意の非零自然数 テンプレート:Mvar に対して、
- テンプレート:Mvar が偶数のときは テンプレート:Math と見て、
- テンプレート:Mvar が奇数のときは テンプレート:Math と見て、
函数 テンプレート:Mvar は全単射である。従ってその逆函数が存在するが、テンプレート:Mvar の逆函数は テンプレート:Mvar-乗根函数といい、やはりこれも冪函数として
なる形に書くことができる。テンプレート:Math の極限で値は テンプレート:Math となるが、グラフは横軸に平行に近づく。直交座標系にグラフを書けば テンプレート:Math は、直線 テンプレート:Math に関して、テンプレート:Mvar と(必要ならば正の実軸上の函数に制限して)対称である。
実数冪

指数函数と対数函数が既知ならば、それらを用いて冪函数を任意の実数を冪指数とするものへ一般化することができる。テンプレート:Mvar は真に正の値をとるものとすれば、函数 テンプレート:Mvar は
で定義される。テンプレート:Mvar の値によっては、既にみたように テンプレート:Math や テンプレート:Math、テンプレート:Math 全体などへ定義域を拡張することができる。あるいは テンプレート:Mvar の値によって テンプレート:Math でも微分できるかどうかが異なる。また冪函数の増減の仕方は テンプレート:Mvar の符号で決まる。函数の凸性は二階導函数の符号に関係するが、したがって今の場合だと冪函数の凸性は テンプレート:Math の符号で決まる。
性質
導函数と原始函数
冪函数は区間 テンプレート:Math 上で常に微分可能で、その導函数は
によって与えられる。従って、冪指数が テンプレート:Math でなければ、同じ区間上で常に原始函数が存在して、その一つが
で与えられる。テンプレート:Math のときは、自然対数が原始函数として生じる。
増大度の比較
テンプレート:Main 対数函数、底 テンプレート:Math の指数函数および テンプレート:Math に対する冪函数は、何れも テンプレート:Math の極限で テンプレート:Math へ発散する。従って、それらに対してそれぞれの「強さ」を定義して増大度を比較することができる。すなわち
- 命題 (増大度の比較)
- テンプレート:Math において、指数函数は任意の冪函数「よりも強く」、同じく任意の冪函数は対数函数「より強い」:
無限小とヘルダー連続
テンプレート:Seealso 正の数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math である。他の函数とこの極限の収束度を比較しよう。函数 テンプレート:Mvar が位数 テンプレート:Mvar の無限小であるとは、テンプレート:Math が テンプレート:Math を含む十分小さな開区間上で有界なることとする[1]テンプレート:Efn.
函数 テンプレート:Mvar が区間 テンプレート:Mvar 上で [[ヘルダー条件|テンプレート:Mvar-ヘルダー連続]]とは、実数 テンプレート:Mvar が存在して
とできるときに言う。一般に、テンプレート:Mvar は テンプレート:Math で考えるものとする(テンプレート:Math ならば テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar 上で定数ということになってしまう)。
冪指数 テンプレート:Math の冪函数はもっとも簡単な テンプレート:Mvar-ヘルダー連続函数となる。実際、実数テンプレート:Math に対して
が成り立つ。
級数展開
テンプレート:Main 冪函数 テンプレート:Mvar は テンプレート:Math の近傍で冪級数
に展開できる。ただし、
- et
は一般二項係数である。
テンプレート:Mvar が自然数ならば、上記の和は有限項で止まり、二項定理となることに注意する(特にその場合には、収束半径は無限大である)。さもなくば和は無限項を含み、収束半径 テンプレート:Math である。
一般化
複素変数冪函数
複素変数を考える場合、任意の自然数 テンプレート:Mvar に対してはガウス平面 テンプレート:Math 上の函数 テンプレート:Math が定義できる。自然数冪函数の全体は テンプレート:Math 上の多項式函数の構成や正則函数の冪級数展開に利用される。また負の整数 テンプレート:Math に対しても、非零複素数の集合 テンプレート:Math 上の函数 テンプレート:Math が定まる。
しかし テンプレート:Mvar が実または複素数のとき、テンプレート:Math 上で一意な冪函数 テンプレート:Math を定義することはできない。実際、そのようなものを定義するには、定義域を テンプレート:Math の開集合であって、その上で複素対数函数 テンプレート:Mvar が定まるようなものへ制限する必要がある。そしてそのような開集合上で、冪函数は
と定義される正則函数となる。
脚注
注釈
出典
関連項目
外部リンク
- ↑ Jacqueline Lelong-Ferrand et Jean-Marie Arnaudiès, Cours de mathématiques, T2, Bordas, Paris, 1977, テンプレート:P..