関数空間

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テンプレート:複数の問題 関数空間(かんすうくうかん、テンプレート:En、函数空間)とは、特定の空間上で、ある性質を持つ関数の全体を幾何学的な考察の対象として捉えたものである。

概要

関数空間はもとの空間の様々な性質を自然な形で内包しており、一定の条件を満たす空間であれば、その関数空間からもとの空間を「復元」することができる。通常、考察の対象となる関数は実数値関数や複素数値関数のように終域を共有するものである。関数の終域として、必要に応じて特定の体や環といった代数系をとることになるが、それにより関数空間にはベクトル空間や環上の加群の構造があらかじめ与えられていると考えることができる。もとの空間が代数的なものでなくても、関数空間へ移れば代数的な操作を利用した考察が可能となるということが、関数空間を考える動機のひとつである。つまり、関数空間の代数的な性質をもとの空間に還元してやることで、それまでには知られていなかった性質が発見されたり、逆にもとの空間の幾何学的な構造を関数空間に移して考えることで、ある種の代数系の性質が決定されることを知ったりするのである テンプレート:Efn。

また、関数空間には様々の位相が定義されて、位相空間を成すテンプレート:Efn。どのような位相が扱われるのかは議論の文脈により変わるが、代表的な例として以下のようなものが挙げられる。

各点収束位相
X から Y への配置集合を、X を添字とする Y のコピーの直積空間と見なして導入される積位相。
一様収束位相(一様ノルム位相)
有界な関数空間において、上限ノルム(一様ノルム、supノルム)により誘導される距離位相。
コンパクト開位相
局所コンパクト空間上の関数空間において、関数とその変数を同時に動かす際の連続性(随伴性)に関して自然に現れる位相。

関数空間上の関数空間といった概念も様々な形で現れる。例えば分布の理論は、関数空間上の関数空間として超関数全体の成す空間を規定するものであるし、また例えば微分形式は、多様体の各点における余接空間(接空間の双対空間であり、線型関数の空間とみなせる)への値割り当てとして局所的に記述され、大域的には余接束の切断として定義される。

歴史

関数空間の概念は、19世紀後半から20世紀初頭にかけての解析学の諸問題、とりわけ積分方程式論とスペクトル理論の発展の中で形成された。

汎関数の萌芽

ヴィト・ヴォルテラは曲線や関数に対応して値を定める「函数の函数」(後に汎関数と呼ばれる概念)を研究し、関数を無限次元空間の「点」とみなす発想の先駆けを示した[1]。 エリック・イヴァル・フレドホルムは線型積分方程式の一般理論を構築し、有限次元の線型方程式論との明示的な類比のもとで無限次元の問題を扱った[2]。

抽象化と公理化

モーリス・フレシェは1906年の学位論文において距離空間の概念を公理的に定式化し、連続関数の全体などの関数空間を抽象的な距離空間として統一的に捉える枠組みを提供した[3]。 ダフィット・ヒルベルトは1904年から1910年にかけて、二乗可積分な数列の全体(現在の ℓ2 空間に相当)を考察し、スペクトル理論の枠組みを整備した[4]。フリジェシュ・リースは1907年に L2 空間上の連続線型汎関数の表現定理を示し(リースの表現定理の原型)、1910年には Lp 空間を明示的に導入してその双対構造を解明した[5]。

関数解析学の確立

ステファン・バナッハは1922年に公刊した学位論文において完備ノルム空間(バナッハ空間)の概念を公理化した[6]。さらに著書 Théorie des opérations linéaires において、ハーン=バナッハの定理・開写像定理・一様有界性原理・閉グラフ定理といった関数解析学の根幹をなす定理群を体系的に整理した[7]。ジョン・フォン・ノイマンはヒルベルト空間の現代的な公理的定義を与え[8]、量子力学の数学的基礎としてスペクトル定理を確立した。

超関数理論の整備

ローラン・シュワルツは超関数の理論(Théorie des distributions)を整備し、テスト関数空間 𝒟(Ω) とその双対空間からなる関数空間の階層的構造を導入した[9]。この業績によりシュワルツは1950年にフィールズ賞を受賞している。以後、偏微分方程式の弱解論・ソボレフ空間の発展と相まって、関数空間論は現代数学の中核的な道具立てとして確立された。

一般化または追加の構造

分野別の例

関数空間は数学の広範な分野に現れる。以下に分野ごとの主要な例を挙げる。

集合論・代数学

幾何学

確率論・計算機科学

解析学

関数解析学においては、微分方程式の解を構成したり、積分の性質を調べたりするために、位相やノルムを備えた関数空間が不可欠となる。ノルム位相のほかに、弱位相(汎関数の各点収束による位相)および汎弱位相も重要であり、特に無限次元空間においてはバナッハ=アラオグルの定理により単位球の弱*コンパクト性が保証される。詳細については後述の#関数解析学の節に記述する。

関数解析学

関数解析学の主要なテーマは、線型構造に加えて位相やノルムといった構造を持つ関数空間を研究することである。具体的には、位相ベクトル空間、バナッハ空間、ヒルベルト空間などが対象となる。

以下に、解析学において頻出する主要な関数空間の例と、それらの相互関係を挙げる。ここで、Ω はユークリッド空間 ℝn の開部分集合とする。

連続関数・滑らかな関数の空間

これらの空間は、関数の正則性(滑らかさ)や無限遠での挙動によって定義される。

  • C(Ω):Ω 上の連続関数の空間。通常は各点収束位相あるいはコンパクト開位相を考える。
  • Cb(Ω):有界連続関数の空間。上限ノルム(一様ノルム)‖f‖∞=supx∈Ω|f(x)| によりバナッハ空間となる。
  • C0(Ω):無限遠で消える(ϵ>0 に対して集合 {x∈Ω:|f(x)|≥ϵ} がコンパクトとなる)連続関数の空間。Cb(Ω) の閉部分空間である[11]。
  • Ck(Ω):k 階連続微分可能な関数の空間。Ω がコンパクトでない場合、半ノルムの族によって定まるフレシェ空間の構造を持つが、バナッハ空間にはならない。
  • C∞(Ω):無限回微分可能な(滑らかな)関数の空間。コンパクト部分集合上の各階導関数の上限による半ノルムを用いてフレシェ空間となる。
  • Cc(Ω),Cc∞(Ω):コンパクトな台を持つ連続関数、および滑らかな関数の空間。後者は検定関数の空間 𝒟(Ω) とも呼ばれ、超関数理論の基礎となる。

可積分関数の空間(ルベーグ空間)

測度論に基づく積分を用いて定義される空間であり、バナッハ空間の重要なクラスを形成する。

  • Lp(Ω)(1≤p<∞):|f|p がルベーグ積分可能であるような可測関数(の同値類)の空間。ノルムは ‖f‖p=(∫Ω|f(x)|pdx)1/p で定義される。特に L2(Ω) はヒルベルト空間となる。また、1≤p<∞ のとき、Lp の双対空間は Lq(ただし 1/p+1/q=1、すなわち 1<q≤∞)と自然に同一視される。特に p=1 の場合は (L1)∗≅L∞ となる。なお、1<p<∞ のとき Lp は反射的であるが、p=1 および p=∞ のときは一般に反射的でない。
  • L∞(Ω):本質的に有界な可測関数の空間。ノルムは本質的上限 ‖f‖∞=esssupx∈Ω|f(x)| で与えられる。

数列空間

自然数全体の集合 ℕ を定義域とする関数空間は、実数または複素数の数列全体の集合と同一視され、数列空間と呼ばれる。ℕ 上の測度を数え上げ測度と見なすことで、数列空間も Lp 空間の一種として統一的に扱えるが、測度が無限であるため有界領域上の関数空間とは異なる性質を持つ。

  • ℓp(1≤p<∞):p 乗総和可能な数列の空間。ノルムは ‖x‖p=(∑n=1∞|xn|p)1/p で定義される。ℓ2 はヒルベルト空間の最も基本的な例である。
  • ℓ∞:有界な数列の空間。ノルムは ‖x‖∞=supn|xn|。
  • c0:0 に収束する数列の空間。ℓ∞ の閉部分空間である。
  • 包含関係:ℓp 空間の包含関係は、有界領域上の Lp 空間とは逆に、p<q ならば ℓp⊂ℓq となる(これは ℕ の測度が無限大であることに起因する)。

微分可能性を持つ関数の空間

古典的な微分可能性を拡張し、微分方程式論などで中心的な役割を果たす。

その他の空間

空間の相互関係

関数空間の間には、稠密性や埋め込み定理といった関係が存在する。

稠密性
コンパクトな台を持つ滑らかな関数の空間 Cc∞(Ω) は、1≤p<∞ において Lp(Ω) の稠密な部分空間である。これは、任意の Lp 関数が滑らかな関数で任意の精度で近似できることを意味する。
包含関係
領域 Ω が有界(かつ有限測度)であるとき、p<q ならば Lq(Ω)⊂Lp(Ω) が成り立つ(ヘルダーの不等式による)。
ソボレフ埋め込み
ソボレフ空間 Wk,p(Ω) は、領域 Ω がリプシッツ境界などの正則性条件を満たすとき、パラメータ k,p と次元 n の関係に応じて、より高い可積分性を持つ Lq 空間や、連続関数の空間 Cm に連続的に埋め込まれる(ソボレフの不等式)。
コンパクト埋め込み
無限次元の関数空間では、有界閉集合がコンパクトとは限らない(ハイネ・ボレルの被覆定理が成立しない)ことが解析上の大きな障害となる。これを補う性質として、ある関数空間から別の関数空間への埋め込み写像がコンパクト作用素となる場合がある。例えば、有界領域上のソボレフ空間 W1,p は Lp にコンパクトに埋め込まれる(レリッヒ=コンドラショフの定理)。この性質は、偏微分方程式の解の存在を示す際などに重要となる。

有界線型作用素

関数解析学において、関数空間は単に対象として研究されるだけでなく、空間の間の写像(作用素)を通じてその構造が解明される。バナッハ空間 X から Y への有界線型作用素 T:X→Y とは、線型性を満たし、かつある定数 C>0 が存在して ‖Tx‖Y≤C‖x‖X(すべての x∈X に対して)が成り立つ写像のことである。有界線型作用素の全体は作用素ノルム ‖T‖=sup‖x‖=1‖Tx‖ によってバナッハ空間 B(X,Y) を成す。

有界線型作用素の重要なクラスとして、以下のものが挙げられる。

コンパクト作用素
有界な集合を相対コンパクトな集合に写す作用素。無限次元空間では恒等写像はコンパクトでないため、コンパクト作用素は有限次元的な挙動の「近似」を与えると見なされる。
積分作用素
積分方程式論の起源でもあるフレドホルム型積分作用素 (Tf)(x)=∫ΩK(x,y)f(y)dy(K は積分核)は、適切な条件のもとで L2(Ω) 上のコンパクト作用素となる。
微分作用素
偏微分作用素 P(D)=∑|α|≤kaαDα は一般に非有界であるが、適切な定義域を持つ閉作用素として関数解析学の枠組みで扱われる。ソボレフ空間 Wk,p はこのような微分作用素の定義域となる空間として自然に現れる。
ユニタリ作用素
ヒルベルト空間の間の等長同型写像であり全射なもの。フーリエ変換は L2 上のユニタリ作用素の典型例である(プランシュレルの定理)。

基本定理

テンプレート:See also 関数解析学には、個々の関数空間の性質とは独立に、バナッハ空間(あるいはヒルベルト空間)という構造一般に成り立つ重要な定理群がある。

ハーン=バナッハの定理
ノルム空間上の部分空間で定義された有界線型汎関数は、ノルムを保ったまま全体の空間に拡張できる。双対空間が「十分豊富」であることを保証し、分離定理や弱位相論の基礎となる。
一様有界性原理
バナッハ空間 X からノルム空間 Y への有界線型作用素の族 {Tλ} が各 x∈X に対して supλ‖Tλx‖<∞ を満たすならば、supλ‖Tλ‖<∞ が成り立つ。フーリエ級数の収束論など、逐次的な近似操作の有界性を議論する際に使用される。
開写像定理
バナッハ空間の間の全射有界線型作用素は開写像である。系として、バナッハ空間の間の全単射有界線型作用素の逆写像は自動的に有界となる。
閉グラフ定理
バナッハ空間 X から Y への線型作用素 T が、X の全域で定義され、かつそのグラフ {(x,Tx):x∈X}⊂X×Y が閉じているならば、T は有界(連続)である。この定理は逆説的に、微分作用素のような非有界な閉作用素は、バナッハ空間全体では定義され得ず、その定義域を(稠密な)部分空間に制限しなければならないことを示唆している。

補間空間

リース=ソリンの定理
線型作用素 T が Lp0 から Lq0 へ、かつ Lp1 から Lq1 へそれぞれ有界であるとき、1pθ=1−θp0+θp1(0<θ<1)を満たす中間の指数 pθ,qθ に対しても T は Lpθ から Lqθ へ有界となり、その作用素ノルムについて不等式 ‖T‖θ≤‖T‖01−θ‖T‖1θ が成り立つ(対数凸性)。
マルチンケーヴィッチの定理
リース=ソリンの定理を拡張したもの。

フーリエ変換と関数空間

フーリエ変換は、ある関数空間を別の(あるいは同一の)関数空間へ写す線型作用素として捉えられ、微分方程式の解析などで強力な道具となる。

  • L2(ℝn):プランシュレルの定理により、フーリエ変換は L2 空間からそれ自身への等長同型写像(ユニタリ作用素)となる。
  • 𝒮(ℝn):シュワルツ空間もまた、フーリエ変換によって自分自身に移る(自己同型)。この性質を利用して、双対空間である緩増加超関数 𝒮′ 上のフーリエ変換が定義される。
  • L1(ℝn):リーマン・ルベーグの補題により、L1 関数のフーリエ変換は、無限遠で消える有界連続関数(C0)になる。
  • ソボレフ空間:L2 空間上のフーリエ変換を用いると、微分操作が多項式の掛け算に変換されるため、ソボレフ空間 Hs(ℝn) (s は実数)を、(1+|ξ|2)s/2f̂(ξ)∈L2 を満たす関数の全体として自然に定義できる。

注

注釈

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出典

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関連項目

外部リンク

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