線型代数群
数学において、線型代数群(せんけいだいすうぐん、テンプレート:Lang-en-short)とは、 テンプレート:Mvar 次正則行列の全体が(行列の積に関して)成す群(すなわち一般線型群)の部分群であって、それが多項式系によって定義されるものを総称して言う。例えば テンプレート:Math という関係式で定義される直交群は線型代数群である。(ここで テンプレート:Math は行列 テンプレート:Mvar の転置。)
多くのリー群は実数体あるいは複素数体上の線型代数群としてみることができる。(例えば、すべてのコンパクトリー群や単純リー群 テンプレート:Math といった多くの非コンパクト群は テンプレート:Math 上の線型代数群と見做せる。)単純リー群はヴィルヘルム・キリングとエリー・カルタンによって1880年代から1890年代にかけて分類された。当時は群構造が多項式で定義されている——代数群である——という事実が特別に利用されることはなかった。テンプレート:仮リンク、シュヴァレー、テンプレート:仮リンクテンプレート:Sfn などが代数群の理論の創始者である。1950年代にアルマン・ボレルは今日存在する代数群の理論の多くを築いた。
テンプレート:仮リンクの定義は初期におけるこの理論の用途のひとつであった。
例
正の整数 テンプレート:Mvar に対して、 テンプレート:Mvar 次正則行列から成る体 テンプレート:Mvar 上の一般線型群 テンプレート:Math は テンプレート:Mvar 上の線型代数群である。これは
- や
という形の行列から成る部分群
を含む。群 テンプレート:Math は乗法群 テンプレート:Lang と呼ばれる。すなわち、群 テンプレート:Math は体 テンプレート:Mvar のゼロでない元が乗法に関して成す群 テンプレート:Math である。加法群 テンプレート:Lang テンプレート:Math——テンプレート:Math(加法に関して)——も行列群として表すことができる:例えば テンプレート:Math の
という形の行列から成る部分群 テンプレート:Math として。
乗法群と加法群という、この二つの基本的な可換線型代数群は(代数群としての)線型表現に関して非常に異なった振る舞いをする。乗法群 テンプレート:Math のすべての表現は既約表現の直和である。(それらの既約表現はすべて1次元で、ある整数 テンプレート:Mvar によって テンプレート:Math という形で表される。)対照的に、加法群 テンプレート:Math の唯一の既約表現は自明表現である。したがって、すべての テンプレート:Math の表現は自明表現による拡大の反復であり、(表現が自明なときを除いて)それらの直和ではない。線型代数群の構造定理は線型代数群をこれら二つの基本的な群と(後述する)その一般化であるトーラスとべき単群の観点から分析する。
定義
代数的閉体 テンプレート:Mvar に関して、テンプレート:Mvar 上の代数多様体 テンプレート:Mvar に関する構造の多くはその テンプレート:Mvar 有理点の集合 テンプレート:Math にエンコードされていて、それにより線型代数群を初等的に定義することができる。まず、抽象群 テンプレート:Math から テンプレート:Mvar への関数が正則 テンプレート:Lang であるとは、それが テンプレート:Mvar 次正方行列 テンプレート:Mvar の成分と テンプレート:Math の多項式としてかけることをいう。ここで テンプレート:Math は行列式である。すると、テンプレート:Mvar が体 テンプレート:Mvar 上の線型代数群 テンプレート:Lang とは、ある自然数 テンプレート:Mvar に関する抽象群 テンプレート:Math の部分群 テンプレート:Math である。ここで テンプレート:Math は適当な正則関数のなす集合の零点として定義される。
任意の体 テンプレート:Mvar に関して、テンプレート:Mvar 上の代数多様体は テンプレート:Mvar 上のスキームの特別な場合として定義される。スキームの言葉では、体 テンプレート:Mvar 上の線型代数群 テンプレート:Mvar とは、ある自然数 テンプレート:Mvar に関する体 テンプレート:Mvar 上の テンプレート:Math のテンプレート:仮リンクな閉部分群スキームである。特に テンプレート:Mvar は テンプレート:Math 上の適当な正則関数のなす集合の零点として定義され、これらの関数は「任意の可換 テンプレート:Mvar 多元環 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math は抽象群 テンプレート:Math の部分群である」と言う性質を満たさなくてはならない。(したがって、テンプレート:Mvar 上の代数群 テンプレート:Mvar は単に抽象群 テンプレート:Math ではなくて、むしろ可換 テンプレート:Mvar 多元環 テンプレート:Mvar に対する群 テンプレート:Math の族全体である——これが関手的観点からスキームを記述する哲学である。)
どちらの言葉を用いるにせよ、線型代数群に関する準同型 テンプレート:Lang の概念がある。例えば、テンプレート:Mvar が代数的閉体のときは、テンプレート:Math から テンプレート:Math への準同型は抽象群に関する準同型 テンプレート:Math であって、テンプレート:Mvar 上の正則関数で定義されるものである。これにより テンプレート:Mvar 上の線型代数群は圏をなす。特に、これにより線型代数群の同型とは何を意味するのかが定まる。
スキームの言葉を用いると、体 テンプレート:Mvar 上の線型代数群 テンプレート:Mvar は特に テンプレート:Mvar 上のテンプレート:仮リンク テンプレート:Lang である。つまり、テンプレート:Mvar 上のスキームであって テンプレート:Mvar 有理点 テンプレート:Math と テンプレート:Mvar 上の射
を持ち、群の積と逆に関する通常の(結合律・単位元・逆元に関する)公理を満たす。さらに線型代数群は滑らかで テンプレート:Mvar 上有限型であり、アフィン・スキームである。逆に、どんな体 テンプレート:Mvar 上の有限型アフィン群スキームもある自然数 テンプレート:Mvar に関して テンプレート:Mvar 上 テンプレート:Math への忠実表現を持つテンプレート:Sfn。例としては上述の加法群 テンプレート:Math の テンプレート:Math への埋め込みがある。その結果、線型代数群を行列群、あるいはより抽象的に体上の滑らかなアフィン群スキームと思うことができる。(「線型代数群」という用語を体上の有限型アフィン群スキームの意味で使う著者もいる。)
線型代数群を十分に理解するためには、より一般の(滑らかでない)群スキームを考える必要がある。例えば、テンプレート:Mvar を標数 テンプレート:Math の代数的閉体とする。このとき テンプレート:Math で定義される準同型 テンプレート:Math は抽象群としての同型 テンプレート:Math を誘導するが、テンプレート:Mvar は代数群としての同型ではない(なぜなら テンプレート:Math は正則関数ではないから)。群スキームの言葉を用いると、テンプレート:Mvar が同型でないより明快な理由がある:テンプレート:Mvar は全射であるが、非自明な核 テンプレート:Math(1の テンプレート:Mvar 乗根からなる群スキーム)を持つ。このような問題は標数ゼロのときには生じなかった。実際、標数ゼロの体 テンプレート:Mvar 上の有限型群スキームは テンプレート:Mvar 上滑らかであるテンプレート:Sfn。体 テンプレート:Mvar 上の有限型群スキームが テンプレート:Mvar 上滑らかである必要十分条件はそれが絶対被約 テンプレート:Lang、つまり を テンプレート:Mvar の代数的閉包としたときテンプレート:仮リンク テンプレート:Lang がテンプレート:仮リンクであることであるテンプレート:Sfn。
アフィン・スキーム テンプレート:Mvar はその正則関数のなす環 により決定されるので、体 テンプレート:Mvar 上のアフィン群スキーム テンプレート:Mvar もその環 と(テンプレート:Mvar の積と逆に由来する)ホップ代数構造により決定される。これは テンプレート:Mvar 上のアフィン群スキームの圏と テンプレート:Mvar 上の可換ホップ代数の圏の間の(矢印を反対にする)圏同値を与える。例えば、乗法群 テンプレート:Math に対応するホップ代数はローラン多項式環 テンプレート:Math であり、余積は テンプレート:Math で与えられる。
基本的な概念
体 テンプレート:Mvar 上の線型代数群 テンプレート:Mvar に対して、単位成分 テンプレート:Lang (点 テンプレート:Math を含む連結成分)は指数有限な正規部分群である。よって群の拡大
がある。ここで テンプレート:Mvar は有限代数群である。(代数的閉体 テンプレート:Mvar に対して、テンプレート:Mvar は抽象有限群と同一視できる。)このため、代数群の研究の多くは連結群に焦点を合わせている。
抽象群論における様々な概念は線型代数群へ拡張できる。線型代数群が可換・テンプレート:仮リンク・可解であるとは何を意味するかを定義するのは、抽象群論における定義の類似から、単純である。例えば、線型代数群が可解 テンプレート:Lang であるとは、線型代数部分群からなる組成列であって、その商群が可換となるものを持つことである。同様に、線型代数群 テンプレート:Mvar の閉部分群 テンプレート:Mvar に対し、その正規化群・中心・中心化群は自然に テンプレート:Mvar の閉部分群スキームと見做せる。もしそれらが テンプレート:Mvar 上滑らかならば、上で定義した線型代数群である。
体 テンプレート:Mvar 上の連結線型代数群 テンプレート:Mvar が持つ性質は抽象群 テンプレート:Math によってどの程度決定されるのかを問うことができる。この方面における有益な結果として、もし体 テンプレート:Mvar が完全(例えば標数 テンプレート:Math )、あるいは テンプレート:Mvar が簡約(後述)ならば、テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar 上単有理的 テンプレート:Lang であるというものがある。加えて テンプレート:Mvar が無限体ならば群 テンプレート:Math は テンプレート:Mvar においてテンプレート:仮リンク テンプレート:Lang であるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。例えば、上述の仮定の下で、テンプレート:Mvar が可換・べき零・可解である必要十分条件は テンプレート:Math が対応する性質を持つことである。
連結性の仮定をこれらの結果から除くことはできない。例えば テンプレート:Mvar を有理数 テンプレート:Math 上の テンプレート:Math の立方根の成す群 テンプレート:Math とする。すると テンプレート:Mvar は テンプレート:Math なる テンプレート:Math 上の線型代数群で テンプレート:Mvar においてザリスキー稠密でない。なぜなら は位数 テンプレート:Math の群であるから。
代数的閉体上では、代数群に関して代数多様体としてより強い結果がある:代数的閉体上のすべての連結線型代数群は有理多様体であるテンプレート:Sfn。
リー代数と代数群
代数群 テンプレート:Mvar のリー代数 はいくつかの等価な方法で定義される:単位元 テンプレート:Math における接空間 テンプレート:Math として、あるいは左不変テンプレート:仮リンクのなす空間として。テンプレート:Mvar が代数的閉体のとき、テンプレート:Mvar の座標環の テンプレート:Mvar 上の導分 が左不変 テンプレート:Lang であるとは
がすべての テンプレート:Math に対して成り立つことをいう。ここで は テンプレート:Mvar の左からの乗法により誘導される。任意の体 テンプレート:Mvar に関して、導分の左不変性も類似の線形写像 の等式によって定義されるテンプレート:Sfn。導分の括弧積は テンプレート:Math によって定義される。
よって テンプレート:Mvar から への移行は a process of differentiation である。元 テンプレート:Math に対して、共役写像 テンプレート:Math, テンプレート:Math の テンプレート:Math での導分は の自己同型であり、随伴表現
を与える。
標数ゼロの体上において、線型代数群 テンプレート:Mvar の連結部分群 テンプレート:Mvar はリー代数 により一意的に定まるテンプレート:Sfn。しかし のリー部分代数すべてが テンプレート:Mvar の代数部分群と対応するわけではない。(テンプレート:Math 上のトーラス テンプレート:Math がそのような例である。)正標数の場合には、同じリー代数を定める テンプレート:Mvar の連結部分群はいくつも存在し得る。(重ねてトーラス テンプレート:Math がそのような例である。)このような理由で、代数群のリー代数は重要ではあるものの、代数群の構造論にはより大域的な道具立てが必要とされる。
半単純元とべき単元
テンプレート:Main 代数的閉体 テンプレート:Mvar に関して、行列 テンプレート:Math は対角化可能であるとき半単純 テンプレート:Lang と呼ばれ、テンプレート:Math がべき零であるときべき単 テンプレート:Lang と呼ばれる。言い換えると、 テンプレート:Mvar がべき単であるのは テンプレート:Mvar のすべての固有値が テンプレート:Math と等しいことである。正則行列の乗法的ジョルダン分解はすべての行列 テンプレート:Math が積 テンプレート:Math として一意的に書けると述べている。ここで テンプレート:Mvar は半単純、 テンプレート:Mvar はべき単であり、テンプレート:Mvar と テンプレート:Mvar は互いに可換である。
任意の体 テンプレート:Mvar に関して、元 テンプレート:Math は テンプレート:Mvar の代数的閉包上で対角化可能であるとき半単純という。体 テンプレート:Mvar が完全であるとき、元 テンプレート:Mvar の半単純成分とべき単成分もまた テンプレート:Math に属する。最後に、体 テンプレート:Mvar 上の任意の線型代数群 テンプレート:Math に対して、 テンプレート:Mvar の テンプレート:Mvar 値点は テンプレート:Math 内の半単純元あるいはべき単元であるとき、半単純あるいはべき単と定める。(これらの性質は テンプレート:Mvar の忠実表現の取り方に依存しない。)体 テンプレート:Mvar が完全であるとき、テンプレート:Mvar 値点の半単純成分とべき単成分もまた テンプレート:Mvar に属する。すなわち、すべての元 テンプレート:Math は テンプレート:Math において積 テンプレート:Math として一意的に書ける(ジョルダン分解 テンプレート:Lang)テンプレート:Sfn。ここで テンプレート:Mvar は半単純、 テンプレート:Mvar はべき単であり、テンプレート:Mvar と テンプレート:Mvar は互いに可換である。これによって テンプレート:Math の共役類を記述する問題は半単純な場合とべき単の場合に還元される。
トーラス
テンプレート:Main 代数的閉体 テンプレート:Mvar 上のトーラス テンプレート:Lang とは テンプレート:Math と同型な群を指す。ここで テンプレート:Mvar はある自然数であり、 テンプレート:Math は テンプレート:Mvar 上の乗法群 テンプレート:Math の テンプレート:Mvar 個のコピーの直積である。線型代数群 テンプレート:Mvar に対して、 テンプレート:Mvar の極大トーラス テンプレート:Lang とは テンプレート:Mvar に含まれるトーラスであって、より大きなトーラスに含まれていないものを指す。例えば、テンプレート:Mvar 上の テンプレート:Math に含まれる対角行列群は テンプレート:Math の極大トーラスで テンプレート:Math と同型である。理論における基本的な結果は、代数的閉体 テンプレート:Mvar 上において テンプレート:Mvar のどんな極大トーラスも適当な テンプレート:Math の元によって互いに共役であるというものであるテンプレート:Sfn。テンプレート:Mvar の階数 テンプレート:Lang は極大トーラスの次元を指す。
任意の体 テンプレート:Mvar に関して、 テンプレート:Mvar 上のトーラス テンプレート:Lang テンプレート:Mvar とは テンプレート:Mvar 上の線型代数群であって、テンプレート:Mvar の代数的閉包への底変換 テンプレート:Lang がある自然数 テンプレート:Mvar に対して 上 テンプレート:Math と同型であることを指す。テンプレート:Mvar 上分裂トーラス テンプレート:Lang とは テンプレート:Mvar はある自然数に対して テンプレート:Mvar 上 テンプレート:Math と同型な群を指す。実数 テンプレート:Math 上分裂しないトーラスの例としては
がある。ただし、群構造は複素数 テンプレート:Math の積によって与える。ここで テンプレート:Math は テンプレート:Math 上 テンプレート:Math 次元のトーラスである。テンプレート:Math は円周群であり、抽象群としてすら テンプレート:Math と同型でないので、これは分裂しない。
体 テンプレート:Mvar 上のトーラスの任意の元は半単純である。逆に、もし テンプレート:Mvar が連結線型代数群で のすべての元が半単純であるならば テンプレート:Mvar はトーラスであるテンプレート:Sfn。
一般の基礎体 テンプレート:Mvar 上の線型代数群 テンプレート:Mvar に対して、すべての極大トーラスが テンプレート:Math の元によって互いに共役であるとは限らない。例えば、上述の乗法群 テンプレート:Math や円周群 テンプレート:Math は テンプレート:Math 上 テンプレート:Math の極大トーラスとして現れる。しかし、 テンプレート:Mvar 上の テンプレート:Mvar に含まれるどんな極大分裂トーラス テンプレート:Lang (これはより大きな分裂トーラスに含まれていないものを指す)も適当な テンプレート:Math の元によって互いに共役であるテンプレート:Sfn。その結果として、テンプレート:Mvar 上の テンプレート:Mvar の テンプレート:Lang あるいは テンプレート:Lang を極大分裂トーラスの次元として定義することができる。
体 テンプレート:Mvar 上の線型代数群 テンプレート:Mvar の極大トーラス テンプレート:Mvar に関して、グロタンディークは は の極大トーラスであることを示したテンプレート:Sfn。この結果から体 テンプレート:Mvar 上の テンプレート:Mvar に含まれる極大トーラスは、同型である必要はないが、同じ次元を持つ。
べき単群
テンプレート:Math で テンプレート:Mvar 上 テンプレート:Math に含まれる対角成分がすべて テンプレート:Math である上三角行列からなる群とする。体 テンプレート:Mvar 上の群スキーム(例えば線型代数群)は、ある テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math のある閉部分群スキームと同型であるとき、べき単 テンプレート:Lang であるという。テンプレート:Math がべき零であることは簡単に確かめられる。よって、任意のべき単群スキームはべき零である。
体 テンプレート:Mvar 上の線型代数群 テンプレート:Mvar がべき単である必要十分条件は のすべての元がべき単であることであるテンプレート:Sfn。
テンプレート:Math に含まれる上三角行列からなる群 テンプレート:Math は半直積
である。ここで テンプレート:Math は テンプレート:Lang テンプレート:Math である。より一般に、連結で可解な線型代数群はトーラスとべき単群の半直積 テンプレート:Math であるテンプレート:Sfn。
完全体(例えば、代数的閉体) テンプレート:Mvar 上滑らかで連結なべき単群は、すべての商群が加法群 テンプレート:Math と同型である組成列を持つテンプレート:Sfn。
ボレル部分群
ボレル部分群 テンプレート:Lang は線型代数群の構造論において重要である。代数的閉体 テンプレート:Mvar 上の線型代数群 テンプレート:Mvar に対して、テンプレート:Mvar のボレル部分群とは滑らかで可解な連結(閉)部分群のなかで極大なものを指す。テンプレート:Mvar 上の線型代数群 テンプレート:Mvar は必ずボレル部分群を持つ。例えば、テンプレート:Math の上三角行列からなる部分群 テンプレート:Math はボレル部分群である。
理論における基本的な結果のひとつは、代数的閉体 テンプレート:Mvar 上の連結群 テンプレート:Mvar に含まれるどんなボレル部分群も適当な テンプレート:Math の元によって互いに共役であるというものであるテンプレート:Sfn。(標準的な証明はボレルの不動点定理——連結可解群 テンプレート:Mvar が代数的閉体 テンプレート:Mvar 上の空でない完備多様体 X に正則に作用するならば、テンプレート:Mvar の作用で固定される テンプレート:Mvar の テンプレート:Mvar 有理点が存在する——を使う。)テンプレート:Math におけるボレル部分群の共役は、テンプレート:仮リンクに達する:テンプレート:Math に含まれる滑らかな連結可解部分群は上三角行列群の部分群と テンプレート:Math において共役である。
任意の体 テンプレート:Mvar に関して、テンプレート:Mvar のボレル部分群 テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar の代数的閉包 上で が のボレル部分群である テンプレート:Mvar 上の部分群と定義される。したがって テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar 上ではボレル部分群を持たないこともある。
テンプレート:Mvar の閉部分群スキーム テンプレート:Mvar に関して、商空間 テンプレート:Math は テンプレート:Mvar 上滑らかな準射影的スキームであるテンプレート:Sfn。連結群 テンプレート:Mvar の滑らかな部分群 テンプレート:Mvar は テンプレート:Math が テンプレート:Mvar 上射影的(あるいは テンプレート:Mvar 上固有的)であるときテンプレート:仮リンク テンプレート:Lang という。ボレル部分群 テンプレート:Mvar の重要な性質として、 テンプレート:Math は旗多様体 テンプレート:Lang と呼ばれる射影多様体になる。つまり、ボレル部分群は放物型部分群である。より精密には、代数的閉体 テンプレート:Mvar に関して、ボレル部分群は テンプレート:Mvar の極小放物型部分群に他ならない。逆に、ボレル部分群を含む任意の部分群は放物型であるテンプレート:Sfn。したがって、固定したボレル群を含む テンプレート:Mvar の線型代数部分群をすべて列挙することで、テンプレート:Mvar の放物型部分群を テンプレート:Math 共役を除いてすべて列挙することができる。例えば、テンプレート:Mvar 上の部分群 テンプレート:Math で上三角行列からなるボレル部分群 テンプレート:Math を含むものは
である。対応するテンプレート:仮リンク テンプレート:Lang テンプレート:Math は、それぞれ
- 線型空間の鎖 すべてから成る旗多様体
- 点
- テンプレート:Math に含まれる直線(一次元部分空間)の射影空間 テンプレート:Math
- テンプレート:Math に含まれる平面の双対射影空間 テンプレート:Math
である。
半単純群と簡約群
テンプレート:Main 代数的閉体上の連結線型代数群 テンプレート:Mvar が半単純 テンプレート:Lang であるとは、テンプレート:Mvar のどんな滑らかで連結な可解正規部分群も自明であることを指す。より一般に、代数的閉体上の連結線型代数群 テンプレート:Mvar が簡約 テンプレート:Lang であるとは、テンプレート:Mvar のどんな滑らかで連結なべき単正規部分群も自明であることを指すテンプレート:Sfn。(簡約群に連結性を要請しない著者もいる。)半単純群は簡約群である。任意の体 テンプレート:Mvar 上の群 テンプレート:Mvar が半単純あるいは簡約であるとは、 が半単純あるいは簡約であることを指す。例えば、適当な体 テンプレート:Mvar 上の行列式 テンプレート:Math の テンプレート:Mvar 次行列からなる群 テンプレート:Math は半単純である一方、非自明なトーラスは簡約であるが半単純ではない。同様に、テンプレート:Math も簡約であるが半単純でない(なぜならば中心 テンプレート:Math が非自明で滑らかな連結可解正規部分群だから)。
任意のコンパクト連結リー群はテンプレート:仮リンクと呼ばれる複素簡約代数群を持つ。その上、この構成はコンパクト連結リー群と複素簡約群の同型類に対して一対一対応を与えるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn。
体 テンプレート:Mvar 上の線型代数群 テンプレート:Mvar は半単純かつ非自明で テンプレート:Mvar 上 テンプレート:Mvar のどんな滑らかな連結正規部分群も自明であるとき、単純 テンプレート:Lang (あるいは テンプレート:Lang)と呼ばれるテンプレート:Sfn。(この性質を テンプレート:Lang と呼ぶ著者もいる。)この用語は抽象群のものとは僅かに異なっており、単純代数群は非自明な中心を持つことがある(ただし中心は必ず有限になる)。例えば、テンプレート:Math 以上の整数 テンプレート:Mvar と体 テンプレート:Mvar に関して、テンプレート:Mvar 上の群 テンプレート:Math は単純で、その中心は テンプレート:Math の テンプレート:Mvar 乗根の群スキーム テンプレート:Math である。
完全体 テンプレート:Mvar 上の連結線型代数群 テンプレート:Mvar は簡約群 テンプレート:Mvar の滑らかな連結べき単群 テンプレート:Mvar による(一意的な)拡大である:
テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar のべき単根基 テンプレート:Lang と呼ばれる。もし テンプレート:Mvar の標数がゼロならば、より精密にテンプレート:仮リンク テンプレート:Lang を持つ:テンプレート:Mvar 上の線形代数群 テンプレート:Mvar は簡約群のべき単群による半直積 テンプレート:Math であるテンプレート:Sfn。
簡約群の分類
テンプレート:Main 簡約群は実際問題として現れるテンプレート:仮リンク——テンプレート:Math, テンプレート:Math, 直交群 テンプレート:Math, 斜交群 テンプレート:Math——などの重要な線型代数群の多くを含んでいる。一方で、簡約群の定義は極めて「消極的」であり、多くを語ることができるのか明らかではない。驚くべきことに、クロード・シュヴァレーは代数的閉体上の簡約群の完全な分類を与えた:それらはテンプレート:仮リンクによって決定されるテンプレート:Sfn。特に、代数的閉体 テンプレート:Mvar 上の単純群は(有限中心的部分群スキームによる商を除いて)そのディンキン図形によって分類される。特筆すべきことに、この分類は テンプレート:Mvar の標数に依存しない。例えば、例外型リー群 テンプレート:Math, テンプレート:Math, テンプレート:Math, テンプレート:Math, テンプレート:Math はどんな標数でも(さらに テンプレート:Math 上の群スキームとしてさえも)定義することができる。有限単純群の分類は多くの有限単純群が有限体 テンプレート:Mvar 上の単純代数群かその亜種の テンプレート:Mvar 有理点のなす群として生じると述べている。
体上の簡約群はトーラスとある単純群との直積の有限中心的部分群スキームによる商である。例えば
である。
任意の体 テンプレート:Mvar に関して、簡約群 テンプレート:Mvar は テンプレート:Mvar 上の極大分裂トーラス(つまり、テンプレート:Mvar に含まれる分裂トーラスであって、テンプレート:Mvar の代数的閉包上でも極大である)を含むならば分裂 テンプレート:Lang するという。例えば、テンプレート:Math はどんな体 テンプレート:Mvar 上でも分裂簡約群である。シュヴァレーは分裂簡約群の分類はどんな体上でも同じであることを示した。それとは対照的に、任意の簡約群の分類は難しいこともあり、基礎体に依存する。例えば、体 テンプレート:Mvar 上の任意の非退化二次形式 テンプレート:Mvar は簡約群 テンプレート:Math を定め、テンプレート:Mvar 上の任意の中心的単純多元環 テンプレート:Mvar は簡約群 テンプレート:Math を定める。その結果、テンプレート:Mvar 上の簡約群の分類問題は本質的に テンプレート:Mvar 上の二次形式や テンプレート:Mvar 上の中心的単純多元環の分類問題を含んでいる。これらの問題は テンプレート:Mvar が代数的閉体のときは易しいし、数体などいくつかの体上では理解されているが、任意の体上では多くの未解決問題がある。
応用
表現論
簡約群が重要である理由のひとつは表現論に由来する。べき単群が持つ任意の既約表現は自明である。より一般に、線型代数群 テンプレート:Mvar をべき単群 テンプレート:Mvar の簡約群 テンプレート:Mvar による拡大
として書いたとき、テンプレート:Mvar が持つ任意の既約表現は テンプレート:Mvar を経由 テンプレート:Lang するテンプレート:Sfn。この事実は焦点を簡約群の表現論へと絞り込む。(ここで言う表現とは、テンプレート:Mvar の〈代数群としての〉表現である。したがって、体 テンプレート:Mvar 上の群 テンプレート:Mvar に関して、表現とは テンプレート:Mvar ベクトル空間であり、テンプレート:Mvar の作用は正則関数で与えられている。それは重要である一方、実簡約群 テンプレート:Mvar に対して群 テンプレート:Math の連続表現を分類する問題〔あるいは他の体上における類似〕とは異なる。)
シュヴァレーは体 テンプレート:Mvar 上の分裂簡約群が持つ既約表現は有限次元であり、テンプレート:仮リンクにより径数付けられることを示したテンプレート:Sfn。これはコンパクト連結リー群の表現論や複素半単純リー代数の表現論で起きていたことと同様である。標数がゼロである テンプレート:Mvar に関して、これらの理論は本質的には等価である。特に、標数ゼロの体上の簡約群 テンプレート:Mvar が持つ任意の表現は既約表現の直和であり、テンプレート:Mvar が分裂しているならば、既約表現の指標はワイルの指標公式により与えられる。ボレル=ヴェイユの定理は標数ゼロのとき簡約群 テンプレート:Mvar が持つ既約表現の幾何学的構成を旗多様体 テンプレート:Math 上の直線束の切断の空間として与える。
正標数 テンプレート:Mvar の体上における(トーラスでない)簡約群の表現論はよく理解されているわけではない。この状況では、表現が既約表現の直和であるとは限らない。さらに、既約表現は支配的ウェイトで径数付けられるものの、その次元や指標は限られた場合にしか知られていない。テンプレート:Harvtxt は群のテンプレート:仮リンクに対して標数 テンプレート:Mvar が十分大きいときに(ルスティック予想を証明することで)これらの指標を決定した。小さな素数 テンプレート:Mvar に対しては、未だ明瞭な予想すら存在しない。
群作用と幾何学的不変式論
線型代数群 テンプレート:Mvar の体 テンプレート:Mvar 上定義された代数多様体(あるいはスキーム)テンプレート:Mvar へのテンプレート:Ill2とは射 であって群作用の公理系を満足するものを言う。他の種類の群論と同様、群は幾何学的対象の対称性として自然に生じるものであるから、群作用を調べることは重要である。
群作用の理論の一端として、幾何学的不変式論は線型代数群 テンプレート:Mvar の代数多様体 テンプレート:Mvar への作用の軌道全体の成す集合を記述する商多様体 テンプレート:Mvar を構成することを目的とするものだが、これには様々な困難が生じる。たとえば テンプレート:Mvar がアフィン代数多様体ならば テンプレート:Mvar を テンプレート:Ill2 テンプレート:Math のスペクトル テンプレート:Math として構成しようと試みることはできるけれども、永田雅宜は「不変式環は必ずしも テンプレート:Mvar-代数として有限生成でない」(したがって、不変式環のスペクトルも一般には代数多様体でないスキームとなる)というテンプレート:Ill2に対する否定的解答を示した。肯定的な方向での解答として「テンプレート:Mvar が簡約群ならば対応する不変式環が有限生成である」というテンプレート:Ill2が、標数 0 の場合にはヒルベルトと永田により証明されている。
簡約群 テンプレート:Mvar が射影代数多様体 テンプレート:Mvar に作用するとき、幾何学的不変式論にはさらに微妙な問題が含まれてくる。特に、その理論では テンプレート:Mvar の「固定」点および「半固定」点 ("stable" and "semistable" points) からなる開部分集合を定めるが、そのための商射は半固定点集合上でしか定義されない。
関連概念
線型代数群の変種としていくつかの方向性が考えられる。逆写像 の存在を落とせば線型代数モノイドの概念が得られる。[1]
リー群
実数体 テンプレート:Mathbf 上の線型代数群 テンプレート:Mvar に対して、その実点全体の群 テンプレート:Math はリー群である(これは本質的には テンプレート:Mvar 上の乗法を記述する実係数多項式が滑らかな函数であることによる)。同様に複素数体 テンプレート:Mathbf 上の線型代数群 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math はテンプレート:Ill2となる。線型代数群の理論の多くは、リー群の理論の類似対応物として展開された。
リー群が必ずしも テンプレート:Mathbf 上の線型代数群の構造を持つわけでないことの理由はいくつかある:
- 成分の群 テンプレート:Math(テンプレート:Math は単位成分)が無限群となるリー群 テンプレート:Mvar は線型代数群として実現できない。
- テンプレート:Mathbf 上の代数群 テンプレート:Mvar は、線型代数群として連結であるにもかかわらず付随するリー群 テンプレート:Mvar が連結でないということが起こり得る。連結の代わりに単連結群としても同様で、例えば代数群 テンプレート:Math は任意の体上で単連結だが、対応するリー群 テンプレート:Math は整数の加法群 テンプレート:Mathbf に同型な基本群を持つ。テンプレート:Math の二重被覆(これをテンプレート:Ill2という)は テンプレート:Mathbf 上の線型代数群と見なすことができないリー群である(より強く、テンプレート:Mvar は忠実な有限次元表現を持たないことが言える)。
- テンプレート:Ill2 は任意の単連結冪零リー群が一意的な仕方で テンプレート:Mathbf 上の冪単代数群 テンプレート:Mvar と見なせることを示した[2](代数多様体の場合と同じく、テンプレート:Mvar は テンプレート:Mathbf 上適当な次元のアフィン空間に同型である)。これと対照的に、単連結可解リー群で実代数群と見為せないものが存在する。例えば、半直積群 テンプレート:Math の普遍被覆 テンプレート:Mvar は、その中心が テンプレート:Mathbf に同型でこれは線型代数群ではないから、したがって テンプレート:Mvar も テンプレート:Mathbf 上の線型代数群と見ることはできない。
アーベル多様体
アフィンでない代数群は非常に異なった振る舞いをする。特に、適当な体上の射影多様体となるような滑らかな連結群スキームをアーベル多様体と呼ぶ。線型代数群とは対照的に、任意のアーベル多様体は可換である。にも拘らず、アーベル多様体は豊かな理論を持つ。一次元アーベル多様体のことである楕円曲線の場合でさえ、その理論は数論において中心的であり、例えばフェルマーの最終定理などを含めた広い応用がある。
淡中圏
代数群 テンプレート:Mvar の有限次元表現の全体にテンプレート:Ill2を考えた圏 テンプレート:Math は淡中圏を成す。実は、適当な体上の「ファイバー函手」を持つ淡中圏はアフィン群スキームの圏に圏同値になる(体 テンプレート:Mvar 上の任意のアフィン群スキームは、それが体 テンプレート:Mvar 上の有限型群スキームの射影極限に書けるという意味で「副代数的」 (pro-algebraic) である[3])。例えば、テンプレート:Ill2の全体とテンプレート:Ill2の全体はこのような方法論を用いて構成される。(副-)代数群 テンプレート:Mvar のある種の性質は、その表現全体の成す圏から読み取ることができる。例えば、標数 0 の体上で、テンプレート:Math がテンプレート:Ill2となるための必要十分条件は、テンプレート:Mvar の単位成分が副簡約的であることである[4]。
関連項目
- テンプレート:Ill2: 有限体上の単純代数群から構成される有限単純群
- テンプレート:Ill2
- テンプレート:Ill2・ブリュア分解・BN対・ワイル群・テンプレート:Ill2・随伴型の群・テンプレート:Ill2
- テンプレート:Ill2・テンプレート:Ill2
- アデール代数群・テンプレート:Ill2
- テンプレート:Ill2・ラングランズ・プログラム・テンプレート:Ill2
- テンプレート:Ill2・テンプレート:Ill2・テンプレート:Ill2・テンプレート:Ill2・テンプレート:Ill2・テンプレート:Ill2・テンプレート:Ill2
- テンプレート:Ill2
- 微分ガロワ理論
- テンプレート:Ill2
注
参考文献
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外部リンク
- ↑ テンプレート:Citation.
- ↑ Milne (2017), Theorem 14.37.
- ↑ Deligne & Milne (1982), Corollary II.2.7.
- ↑ Deligne & Milne (1982), Remark II.2.28.