テトレーション

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テトレーションテンプレート:Lang-en-short)とは、冪乗の次となる4番目のハイパー演算である。つまり、自らの冪乗を指定された回数反復する二項演算である。超冪(ちょうべき)ともいう。テトレーションという語はルーベン・グッドスタインによって、「4」を意味する接頭辞 tetra- と「繰り返し」を意味する iteration から作り出された[1]

定義

任意の正の実数 テンプレート:Math および非負整数 テンプレート:Math に対し、次のようにテトレーション テンプレート:Mvar再帰的に定める。

na:={1if n=0a[(n1)a]if n>0

冪乗の演算が右結合、すなわち テンプレート:Math のように積みあがった指数の上側から計算していくように、テトレーションの計算も テンプレート:Mvar に対する テンプレート:Mvar の部分から計算していく。

定義から直ちに、次の等式が成り立つ。

loga(n+1a)=na

テンプレート:Mvarテンプレート:Math互いに素であるとき、テンプレート:Mvar の最後の テンプレート:Mvar 桁がオイラーの定理から求められる。

表記

テトレーションには多数の表記が存在する。テトレーションに使われる表記の中にはペンテーションヘキセーションなど、より高次のハイパー演算の表記にも使用できるものもいくつかある。

名称 表記 説明
ルーディ・ラッカーの表記 na マウラー[2][3]グッドスタイン[1]によって導入され、ルーディ・ラッカーの『テンプレート:仮リンク』で広まった。
クヌースの矢印表記 an,a2n 矢印または添字を増やすことで拡張できる。
コンウェイのチェーン表記 an2 数字を増やす、またはチェーンを拡張することで拡張できる。
アッカーマン関数 n2=Ack(4,n3)+3 底が テンプレート:Math のときに限り、アッカーマン関数による表記が可能。
指数関数反復合成による表示 na=expan(1) 右辺の表記に関しては後述。
フーシュマンドの表記 uxpa(n),an_ フーシュマンドの論文では「ultra power」(超冪)と書かれている[4]
ハイパー演算子表記 a[4]n,H4(a,n)
hyper(a,4,n),hyper4(a,n)
数字を増やすことで拡張でき、一連のハイパー演算子を与える。
ASCII表記 a^^n ASCII文字で表現する際、冪乗をキャレット^で表すことから。
バウアーズの配列表記 {a,b,2} 拡張配列表記へと一般化でき、さらにBEAFおよびバードの配列表記へと一般化される[5]

反復指数関数

反復指数関数(テンプレート:Lang-en-short)、あるいは反復冪(テンプレート:Lang-en-short)とは指数関数反復合成、あるいはその類似の関数およびその値を指して呼ばれる関数である[6][7]。以降で表記を簡単にするため、非負整数 テンプレート:Mvar と正実数 テンプレート:Mvar の2つのパラメータを持つ実関数 exp\nolimits an(x) を次のように定義する:

expan(x)=aaaxテンプレート:Mvar 個の テンプレート:Mvar の上に テンプレート:Mvar が乗っている)

この関数は他に次のような表記で書かれる。

名称 表記 説明
(指数の反復合成) expan(x) 指数関数の表記 expa(x)オイラーによる。
クヌースの矢印表記 (a)n(x) 矢印の数を増やすことで拡張できる。en:Large numbersを参照。
ガリダキスの表記 n(a,x) 底の表記が小さくならない[8]
ASCII表記 テンプレート:Code 標準的な表記をベースにASCII文字のみを使用した表記。
J言語表記[9] テンプレート:Code

以下の表では、大部分の値が指数表記による表記すら困難なほど巨大であるため、それらの表記には底を テンプレート:Math とした反復指数関数を用いた。なお小数部を持つ値はすべて近似値である。

x 2x 3x 4x
1 1 (11) 1 (11) 1 (11)
2 4 (22) 16 (24) 65,536 (216)
3 27 (33) 7,625,597,484,987 (327) 1.258015 × 103,638,334,640,024
4 256 (44) 1.34078 ×10154 (4256) exp103(2.18726) (8.1 × 10153 桁)
5 3,125 (55) 1.91101 × 102,184 (53,125) exp103(3.33928) (1.3 × 102,184 桁)
6 46,656 (66) 2.65912 × 1036,305 (646,656) exp103(4.55997) (2.1 × 1036,305 桁)
7 823,543 (77) 3.75982 × 10695,974 (7823,543) exp103(5.84259) (3.2 × 10695,974 桁)
8 16,777,216 (88) 6.01452 × 1015,151,335 exp103(7.18045) (5.4 × 1015,151,335 桁)
9 387,420,489 (99) 4.28125 × 10369,693,099 exp103(8.56784) (4.1 × 10369,693,099 桁)
10 10,000,000,000 (1010) 1010,000,000,000 exp104(1) (1.0 × 1010,000,000,000 桁)

微積分

テトレーション テンプレート:Mvar に対する テンプレート:Mvar は正の実数に対して定義できるので、テンプレート:Mvar を固定したときにそれぞれ微分と積分が定義できる。

高さが定数の微分

任意の正の整数 テンプレート:Mvar に対し、 テンプレート:Mvar の微分は次のようになる[10]

ddxnx=1xk=1n(lnx)k1j=nknjx

高さが定数の積分

区間 x ∈ (0, 1] における y = xxy = xx のグラフ。

テンプレート:Mathテンプレート:Mathテンプレート:Math から テンプレート:Math までの定積分は二年生の夢と呼ばれる。

0112xdx=n=112n(=1.29128599706266354040728259059560054149861936827)012xdx=n=12(n)(=0.78343051071213440705926438652697546940768199014)

任意の正の整数 テンプレート:Mvar に対し、テンプレート:Mvar の不定積分は次のようになる[11]

nxdx=j=0n(1)j(j+1)j1j!bj(x)+j=n+1(1)jan,jbj(x)+C

ここで テンプレート:Mvar

aj,k={1if k=01k!if j=01kl=1klaj,klaj1,l1otherwise

で与えられる有理数であり、 テンプレート:Math は第2種不完全ガンマ関数を用いて

bj(x)=Γ(j+1,lnx)

で与えられる。

拡張

テトレーションは、高さが正の整数以外の場合に拡張できる。

0の0乗が単純には定義できないため、 テンプレート:Math は直接定義できないが、極限

limx0+nx={1n20n2+1

と収束するため、

n0={1n20n2+1

と定義する。(ここで、テンプレート:Mathテンプレート:Math はそれぞれ偶数奇数の集合を表す。)

なお、ここで テンプレート:Math が一意に決まらないにもかかわらず テンプレート:Math が定義できるのは、 テンプレート:Mvarテンプレート:Mvarテンプレート:Mvar が等しいという条件下で極限を取ったからである。

底が複素数

収束または振動する点
発散する点

複素数の累乗が可能なことから、テトレーションは複素数の底に対しても定義できる。

例えばテトレーション テンプレート:Mvar対数関数主枝を用いて定められる。このときオイラーの公式から次の式が得られる。

ia+bi=e12πi(a+bi)=e12πb(cosπa2+isinπa2)

従って任意の テンプレート:Math に対して テンプレート:Math が次のように再帰的に定義できる。

a=e12πbcosπa2b=e12πbsinπa2

ここから以下の近似値が導かれる。

ni 近似値
1i=i i
2i=i(1i) [注 1] 0.2079
3i=i(2i) 0.9472+0.3208i
4i=i(3i) 0.0501+0.6021i
5i=i(4i) 0.3872+0.0305i
6i=i(5i) 0.7823+0.5446i
7i=i(6i) 0.1426+0.4005i
8i=i(7i) 0.5198+0.1184i
9i=i(8i) 0.5686+0.6051i

同様に値を逆向きに求めていくことで テンプレート:Mathテンプレート:Math が得られる。 テンプレート:Mvar の値を複素平面上にプロットすると、点列は渦巻状に極限値 テンプレート:Math へと近づく。この値は テンプレート:Math のときと解釈できる。

このようなテトレーションの列に関する研究はオイラーの時代から続けられてきているものの、そのカオス的な振る舞いのために不明な所が多い。これまでに発表された研究のほとんどは、無限反復指数関数の収束について焦点を当てたものである。現在の研究は高性能のコンピュータを用いたフラクタル数式処理システムの出現に大きな恩恵を受けている。テトレーションについて分かっていることの多くは、複素力学系の一般的な知識と、指数写像の専門的な研究によるものである。

高さが無限大

eexe1/e における limnnx のグラフ
関数 |W(lnz)lnz| の複素平面上のグラフ。実数値無限反復指数関数を黒い曲線で示した。

ある範囲の底 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math は有限の値に収束するので、この範囲においてテトレーションは高さ無限大の場合へ拡張できる。例えば テンプレート:Math は収束して、その値は テンプレート:Math であるから、 テンプレート:Math であると言える。

一般に無限反復指数関数 xx は、 テンプレート:Mvar が無限大に向かうときの テンプレート:Mvar の極限として定義される。これが テンプレート:Math (およそ テンプレート:Math から テンプレート:Math)の範囲で収束することはオイラーによって示された[12]

極限値 テンプレート:Math が存在するとき、これは方程式 テンプレート:NumBlk を満たす正の実数に等しい。

式(1)より テンプレート:Math であり、このとき右辺の最大値が テンプレート:Math であることから、 テンプレート:Math については極限値が存在しないことがわかる。また xxyy1/y の逆関数(の分岐の下部)であることがわかる。

式(1)から、極限値 テンプレート:MathランベルトのW関数 テンプレート:Mvar を用いて次のように定義することで複素数の底 テンプレート:Mvar に対しても拡張される。 テンプレート:NumBlk

高さが非正

定義より

na=loga{(n+1)a}

が成り立つので、この関係を テンプレート:Math に対しても帰納的に拡張し

1n=logn(2n)=logn(nn)=nlognn=n0n=logn(1n)=lognn=11n=logn(0n)=logn1=0

と定義する。

ただし、定義できるのは テンプレート:Math までで、テンプレート:Math が存在しないため テンプレート:Math に対しては定義できず、従って テンプレート:Math に対して拡張できない。

高さが実数

テトレーションを高さ実数または複素数へ拡張する、という一般的な問題への広く受け入れられた解答は今のところ存在しない。いくつかのアプローチについて以下で述べる。

一般にこの問題は任意の実数 テンプレート:Math に対し、実数 テンプレート:Math で定義され、次の条件を満たす超指数関数 テンプレート:Math を求めるものである。

三つ目の条件は著者およびアプローチによって異なる。実数高さへの拡張には二つの主要なアプローチが存在し、一つは正則性、もう一つは微分可能性に基づいたものである。これらの二つのアプローチは、相反する結果を導くことから互いに大きく異なるとされ、調和は難しいと考えられている。

長さ テンプレート:Math の区間で テンプレート:Mvar が定義されれば、任意の テンプレート:Math に対し容易に拡張される。

一次近似

テンプレート:Math の一次近似によるグラフ(テンプレート:Math)。漸近線テンプレート:Math

一次近似(連続性のもと微分可能性を近似)は次のように与えられる。

xa{1+x1<x0a(x1a)0<xloga(x+1a)x1

ゆえに

近似 定義域
xax+1 1<x<0
xaax 0<x<1
xaaax1 1<x<2

と以下続く。但しこの微分可能性はあくまで区分的なものである。整数 テンプレート:Mvar を境に微分係数が テンプレート:Math 倍されるため、(テンプレート:Math の場合を除いて)整数 テンプレート:Mvar において微分不可能となる。

以下は値の計算例である。

π/2e5.868...4.30.54.03335...5.2640.65.35997...3.10.70.7580...

Ultra exponential function

フーシュマンドは ultra exponential function という関数を導入した[13]。 これはテトレーションの一次近似を表し、 テンプレート:Math と表記される。 テンプレート:Math は、次の定理によって一意に定められる。 テンプレート:Math theorem

証明は、三番目から五番目の条件より テンプレート:Mathテンプレート:Math で線型となることから従う。

フーシュマンドはさらに次のような一意性定理を導いた。 テンプレート:Math theorem

証明は先とほぼ同様である。漸化式より limx1+0f(x)=limx+0f(x) となること、三番目の条件より テンプレート:Mathテンプレート:Math で線型となることから従う。

定理より、 テンプレート:Math に対し テンプレート:Math および テンプレート:Math であって、かつ テンプレート:Math で下に凸であるような関数 テンプレート:Math は唯一 テンプレート:Math のみである。テンプレート:Math が十分微分可能であるためには テンプレート:Math極値を持つ必要がある。

より高次の近似

テンプレート:Math の二次近似によるグラフ(テンプレート:Math

(微分可能性についての)二次近似は次のように与えられる。

xa{loga(x+1a)x11+2ln(a)1+ln(a)x1ln(a)1+ln(a)x21<x0a(x1a)0<x

これは任意の テンプレート:Math について微分可能であるが二階微分可能でない。テンプレート:Math のときこれは一次近似に等しくなる。

三次近似および高次への一般化は次のように与えられる[14]

テンプレート:-

高さが複素数

複素平面上にテトレーション f=F(x+iy)を解析接続したものを描画。 |f|=1,e±1,e±2,arg(f)=0,±1,±2,を太い曲線で示した。

次の条件を満たす関数 テンプレート:Math が一意に定まる事が証明されている[15]

この関数 テンプレート:Math を右図に示す。また、底が e ではない場合についても、底がe1/eよりも大きい場合については同様に証明されている。倍精度浮動小数点数近似はオンラインで公開されている[16]

一意性

テトレーションを一意に定めるためには正則性の条件が重要となる。いま、関数 テンプレート:Math に対し関数 テンプレート:Math を次のように構成する。

A(z)=n=1sin(2πnz)αnB(z)=n=1(1cos(2πnz))βnS(z)=F(z+A(z)+B(z))

ここで テンプレート:Mathテンプレート:Math は十分速く減衰する実数列であり、少なくとも実軸の近くで テンプレート:Mathテンプレート:Math を収束させるとする。

この関数 テンプレート:Mathテンプレート:Math と同様に最初の二つの条件 テンプレート:Mathテンプレート:Math を満たす。また テンプレート:Mathテンプレート:Math が十分速く テンプレート:Math に近づくとき、テンプレート:Math は正の実軸近傍で解析的となる。しかし テンプレート:Mathテンプレート:Math が全て テンプレート:Math でない場合、テンプレート:Math は新たに大量の特異点と不連続線を複素平面上に持つことになる。これは テンプレート:Mathテンプレート:Math が虚軸に沿って指数関数的に増大するためである。これらの特異点は テンプレート:Mathテンプレート:Math が小さければ小さいほど実軸から離れていくため、 テンプレート:Math が正則であるためには全ての テンプレート:Mathテンプレート:Mathテンプレート:Mathとなる、即ち テンプレート:Math であればよい。

実解析上のテトレーションは一意的に定まらないので、複素平面への拡張は一意性に必要である。

未解決問題

逆関係

冪根対数の二つの逆関係を持つ。これに倣って、以下テトレーションの逆関係をそれぞれ超冪根(テンプレート:Lang-en-short)とテンプレート:日本語版にない記事リンクと呼ぶ。

超冪根

超冪根はテトレーションの底に関する逆関係である。

超平方根

テンプレート:Math のグラフ。

超平方根(テンプレート:Lang-en-short)は テンプレート:Math の逆であり、二つの等価な表記 テンプレート:Math, テンプレート:Math を持つ。

この関数は次のようなランベルトのW関数による表示を持つ。[18]

ssrt(x)=eW(ln(x))=ln(x)W(ln(x))

またこの関数により、冪根と対数の間の鏡映的な関係が表れる。次の方程式は テンプレート:Math のときに真となる。

xy=logyx

平方根と同様に超平方根は一つとは限らない。ただし、平方根と異なり超平方根の個数を決定するのは容易とは言えない。一般に、テンプレート:Math のとき テンプレート:Math は二つの正の超平方根を 0 と 1 の間に持ち、テンプレート:Math のとき テンプレート:Math は 1 より大きい一つの正の超平方根を持ち、テンプレート:Math のとき テンプレート:Math は超平方根を実数の範囲で持たない。しかし上の式より、任意の テンプレート:Math は可算無限個の超平方根を複素数の範囲で持つことが従う。[18]

超平方根はネットワークのクラスタサイズを決定するのに使用される。[19]

その他の超冪根

任意の整数 テンプレート:Math に対して テンプレート:Math は定義され、テンプレート:Math のとき増加となり テンプレート:Math を満たす。従って テンプレート:Math のとき テンプレート:Math は存在する。しかし上述した一次近似を用いた場合、テンプレート:Math のとき テンプレート:Mathテンプレート:Math によらず テンプレート:Math となり、従ってこの場合 テンプレート:Math は存在しない。

超平方根のほか テンプレート:Math 次の超冪根も同様の記号を用いて テンプレート:Math と表すことができる。

超冪根は高さが無限大の場合へと拡張することができ、これは テンプレート:Math の場合に限り問題なく定義される(#高さが無限大を参照)。テンプレート:Math が存在するとき テンプレート:Math が成り立つことから、無限次の超冪根は初等関数によって テンプレート:Math と表すことができる。例えば テンプレート:Math となる。

テンプレート:Math を任意の正の整数とするとゲルフォント=シュナイダーの定理より、超平方根 テンプレート:Math は整数または超越数となり、超立方根 テンプレート:Math は整数または無理数(これが超越数かどうかは知られていない)となる。

超対数

超対数はテトレーションの高さに関する逆関係である。

テトレーション テンプレート:Mathテンプレート:Mvar に関して連続的に増加するものとして定義すると、任意の実数 テンプレート:Math に対し超対数 テンプレート:Math が定義される。

この関数 テンプレート:Math は以下の式を満たす。

slogaxa=xslogaax=1+slogaxslogax=1+slogalogaxslogax>2

さらなる拡張

テトレーションはa2b22zという風に拡張できる。そしてテトレーションの回数を数え上げるペンテーションを定義することができ、a3bと表せる。

同じようにヘキセーションも定義できる(a4b)。この拡張を一般化してクヌースの矢印表記ができる。

またテトレーションはハイパーE表記ax=E(a)a#xと書ける。

脚注

注記

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出典

テンプレート:Reflist

関連項目

外部リンク

テンプレート:巨大数 テンプレート:二項演算


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