行列指数関数

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テンプレート:Pathnav 線型代数学における行列の指数関数(ぎょうれつのしすうかんすう、テンプレート:Lang-en; 行列乗)は、正方行列に対して定義される行列値関数で、通常の(または複素変数の)指数関数に対応するものである。より抽象的には、行列リー群とその行列リー代数の間の対応関係(指数写像)を行列の指数函数が記述する。

テンプレート:Mvarまたは複素正方行列 テンプレート:Mvar の指数関数 テンプレート:Mvar または テンプレート:Math は、冪級数

eX=k=01k!Xk

で定義される テンプレート:Mvar次正方行列である。この級数は任意の テンプレート:Mvar に対して収束するから、行列 テンプレート:Mvar の指数関数は well-defined である。

テンプレート:Mvarテンプレート:Math次正方行列のとき、テンプレート:Mvarテンプレート:Mvarテンプレート:Math次正方行列であり、その唯一の成分は テンプレート:Mvar の唯一の成分に対する通常の指数関数に一致する。これらはしばしば同一視される。この意味において行列の指数函数は、通常の指数函数の一般化である。

性質

テンプレート:Math2テンプレート:Mvar次複素正方行列、テンプレート:Math2 を複素数とし、テンプレート:Mvar単位行列テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar次正方零行列テンプレート:Mvar でそれぞれ表すことにする。また、テンプレート:Mvar転置テンプレート:Math共役転置テンプレート:Math と表すことにする。行列の指数関数は以下の性質を満たす:

線型微分方程式

テンプレート:Main 行列の指数関数が重要であることの一つの理由として、常微分方程式系の解を求める際に使うことができることが挙げられる。以下の方程式

ddty(t)=Ay(t),y(0)=y0

の解は、テンプレート:Mvar を定行列として、次のように与えられる。

y(t)=eAty0

行列の指数関数はまた以下の様な非等質微分方程式に対しても有効である。

ddty(t)=Ay(t)+z(t),y(0)=y0

テンプレート:Mvar が定行列でないとき、

ddty(t)=A(t)y(t),y(0)=y0

の形の微分方程式は解を閉じた形の式として陽に表すことはできないが、テンプレート:仮リンクが無限和の形で解を与える。

和に対する指数函数

実数(あるいはスカラー)テンプレート:Math2 について、通常の指数関数が テンプレート:Math2 を満たすことはよく知られている。同じことは可換な行列に対しても成り立つ。即ち、行列 テンプレート:Math2 が交換可能(テンプレート:Math)ならば

eX+Y=eXeY

が成り立つ。しかし可換でない行列については上記の関係は成り立たない。この場合、テンプレート:仮リンクテンプレート:Math の計算に利用できる。

逆は一般には成り立たない。即ち、等式 テンプレート:Math2テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar が可換であることを意味しない。

エルミート行列について、行列指数関数のに関係する2つの注目すべき定理を挙げる。テンプレート:仮リンク は以下の定理である。

定理 (テンプレート:En)テンプレート:Sfn
テンプレート:Math2 がエルミートであるとき、次の不等式が成り立つ。
trexp(A+H)tr(exp(A)exp(H)).
ここで可換性は要求されないことに注意する。

ゴールデン–トンプソン不等式を 3つの行列に対するものに拡張できないことを示す反例が知られている。そもそもエルミート行列 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math2 が実になること自体が保証されないのだが、次に示すリーブの定理(エリオット・リーブに因む)はある意味でそのような保証を与える:

定理 (テンプレート:En)
固定されたエルミート行列 テンプレート:Mvar について、関数
f(A)=trexp(H+logA)
正定値行列上の凹関数であるテンプレート:Sfnテンプレート:Sfn

指数写像

テンプレート:Main 複素行列の指数関数が常に正則行列であるということに注意する(テンプレート:Mvar逆行列テンプレート:Math によって与えられる)。これは複素変数の指数関数が常に零でないことに対応する事実である。ゆえに、行列の指数関数 テンプレート:Mvar次正方行列の全体の成す空間から テンプレート:Mvar次元の一般線型群テンプレート:Mvar次正則行列の)への写像

exp:Mn()GL(n,)

を定めている。実は、この写像は全射、すなわちどんな正則行列も何らかの行列乗として書くことができる(ここで実数体 テンプレート:Mathbf でなく複素数 テンプレート:Mathbf 上で考えることが本質的に利いてくる)。

2つの行列 テンプレート:Math2 について

eX+YeXYeXeY

が成り立つ。ここで テンプレート:Math は任意の行列ノルムである。ここから、指数写像はコンパクト部分集合 テンプレート:Math 上で連続かつリプシッツ連続であることが従う。

写像

tetX(t)

テンプレート:Math2単位元を通る、一般線型群内の滑らかな曲線を定義する。実は

etXesX=e(t+s)X

が成り立つから、これらは一般線型群のテンプレート:仮リンクを与えている。

この曲線の テンプレート:Mvar 上の微分係数(あるいは接ベクトル)は テンプレート:NumBlk で与えられる。テンプレート:Math2 での微分係数はまさに行列 テンプレート:Mvar であり、これはつまり テンプレート:Mvar がこの一径数部分群を生成することを示している。

より一般にテンプレート:Sfnテンプレート:Mvar に依存する生成的指数 テンプレート:Math に対して

ddteX(t)=01eαX(t)dX(t)dte(1α)X(t)dα

となる。右辺の テンプレート:Math を積分記号の外へ出して、残った被積分関数をアダマールの補題を使って展開すれば、以下の有用な行列乗の微分係数の表示

(ddteX(t))eX(t)=ddtX(t)+12![X(t),ddtX(t)]+13![X(t),[X(t),ddtX(t)]]+

が得られる。この式における係数はもとの指数函数の成分に現れているものとは異なることに注意せよ。また閉じた形の式はテンプレート:仮リンクを参照。

行列の指数関数の行列式

ヤコビの公式から、任意の複素正方行列について次のテンプレート:仮リンクが成り立つ:

det(eA)=etr(A).

計算に役立つだけでなく、上記の等式の右辺は常に非零であるから、左辺の行列式は非零 テンプレート:Math2 であり、したがって行列指数関数 テンプレート:Mvar は常に正則であることが分かる。

実行列の場合、上記の公式から写像

exp:Mn()GL(n,)

全射ではないことも分かる。なぜならば、実行列について公式の右辺は常に正であるが、行列式が負の正則行列は存在するからである。このことは先に触れた複素行列の場合とは対照的である。

指数函数の計算

一般の行列乗の計算を確度と精度を以って行うことは非常に難しく、現在においても数学、特に数値解析において重要な研究トピックの一つである。MATLABGNU Octaveパデ近似を使っている[1][2]

いくつかの行列のクラスに関しては、比較的容易に計算ができる。

対角行列の場合

対角行列

A=[a1000a2000an]

に対して、行列 テンプレート:Mvar乗は単に主対角成分のそれぞれを肩に載せた

eA=[ea1000ea2000ean]

で与えられる。これは対角行列同士の行列の積は単に成分ごとの積に等しいということからの帰結である。特に通常の指数函数は「一次元」の場合の対角行列の指数函数とみなせる。

これを利用すれば対角化可能行列乗も計算できる。つまり テンプレート:Math2 かつ テンプレート:Mvar が対角行列ならば

テンプレート:Math2

である。テンプレート:仮リンクを応用しても同じ結果が得られる。

正射影行列の場合

考える行列が射影行列ならば、これは冪等だから、行列乗は

テンプレート:Math2

となることが指数函数の定義より容易に分かる。実際、冪等性により テンプレート:Math2 だから、

eP=I+k=1Pkk!=I+(k=11k!)P=I+(e1)P

である。

冪零行列の場合

冪零行列 テンプレート:Mvar は適当な正整数 テンプレート:Mvar に対して テンプレート:Math2 を満たす。テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar は指数函数の定義級数から直接に

eN=I+N+12N2+16N3++1(q1)!Nq1

と計算できる(級数は有限項で終わる)。

より一般の場合

行列 テンプレート:Mvar に対してその最小多項式が一次式の積に分解されるとき、行列 テンプレート:Mvar

X=A+N

なる形に書くことができる(ジョルダン分解)。このとき テンプレート:Mvar乗の計算は

eX=eA+N=eAeN

により、先の対角化可能行列および冪零行列の計算に帰着される。後の等号で テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar との可換性が必要であることに注意せよ。

同様の方法は、代数閉体上の行列に対してジョルダン標準形を取ることで与えられる。即ち テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar のジョルダン標準形で テンプレート:Math2 と書くとき、

eX=PeJP1

である。ジョルダン細胞の直和として

J=Ja1(λ1)Ja2(λ2)Jan(λn),

と書けば、

eJ=exp(Ja1(λ1)Ja2(λ2)Jan(λn))=exp(Ja1(λ1))exp(Ja2(λ2))exp(Jak(λk)).

となるから、後はジョルダン細胞乗が計算できればよい。各ジョルダン細胞は特別な形をした冪零行列 テンプレート:Mvar を用いて

Ja(λ)=λI+N

なる形に書けるのだから、

eλI+N=eλeN

が得られる。

ローラン級数による評価

ケイリー・ハミルトンの定理を考えれば、テンプレート:Mvar次正方行列乗はその行列の高々次数 テンプレート:Math2 の多項式として表示できるはずである。

非零な一変数多項式 テンプレート:Mvar および テンプレート:Mvarテンプレート:Math2 なるものとする。有理型函数

f(z)=etzQt(z)P(z)

整函数ならば

etA=Qt(A)

が成り立つ。これを示すには上記等式において テンプレート:Math を掛けて テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar で置き換えればよい。

さてこのような多項式 テンプレート:Math は以下のように見つけることができる(テンプレート:仮リンク参照)。テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar の根として、 テンプレート:Mathテンプレート:Mvarテンプレート:Mvarテンプレート:Mvar におけるローラン級数の主要部を掛けることで得られる。これは関連するテンプレート:仮リンクに比例する。テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar の根を亙るときの テンプレート:Math 全ての和 テンプレート:Mvar が所期の テンプレート:Mvar として取れる。他全ての テンプレート:Mvarテンプレート:Mathテンプレート:Mvar の定数倍を加えることで得られる。特に、ラグランジュ–シルヴェスター多項式 テンプレート:Mathテンプレート:Mvar より次数が低くなる唯一の テンプレート:Mvar である。

行列の行列乗

行列の指数函数と行列の対数函数が既知であるならば、正規かつ正則テンプレート:Mvar次正方行列 テンプレート:Mvarテンプレート:Mvar次複素正方行列 テンプレート:Mvar に対して、行列の行列乗 (matrix-matrix exponential)[3]

XY=elog(X)Y,YX=eYlog(X)

と定義することができる。ここに、行列の乗法非可換であるから、行列の行列乗も左冪 テンプレート:Mvar と右冪 テンプレート:Mvar の別が生じることに注意せよ。さらに言えば、

応用

連立常微分方程式の数値解法であるexponential integratorの研究においては、行列指数関数は重要視されている[4]

脚注

テンプレート:Reflist

参考文献

関連項目

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外部リンク

テンプレート:線形代数