リー代数

提供: testwiki
2024年12月14日 (土) 05:25時点における133.86.227.82 (トーク)による版 (参考文献)
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
ナビゲーションに移動 検索に移動

テンプレート:要改訳 テンプレート:Lie groups 数学において、リー代数 (リーだいすう、テンプレート:En)、もしくはリー環(リーかん)[注 1]は、「リー括弧積」(リーブラケット、Lie bracket)と呼ばれる非結合的な乗法 [x, y] を備えたベクトル空間である。テンプレート:仮リンク (テンプレート:En) の概念を研究するために導入された。"Lie algebra" という言葉は、ソフス・リーに因んで、1930年代にヘルマン・ワイルにより導入された。古い文献では、無限小群 (infinitesimal group) という言葉も使われている。

リー代数はリー群と密接な関係にある。リー群とはでも滑らかな多様体でもあるようなもので、積と逆元を取る群演算が滑らかであるようなものである。任意のリー群からリー代数が生じる。逆に、実数あるいは複素数上の任意の有限次元リー代数に対し、対応する連結リー群がテンプレート:仮リンクによる違いを除いて一意的に存在する(テンプレート:仮リンク)。このテンプレート:仮リンクによってリー群をリー代数によって研究することができる。

定義

リー代数は、ある 𝔽 上のベクトル空間 𝔤 であって、リーブラケット (テンプレート:En)、あるいは括弧積と呼ばれる、次の公理を満たす二項演算 [,]:𝔤×𝔤𝔤 が与えられている場合を言う。

双線型性
𝔽 の全ての元(スカラー)テンプレート:Mvar𝔤 の全ての元 テンプレート:Mvar に対して、
[ax+by,z]=a[x,z]+b[y,z],[z,ax+by]=a[z,x]+b[z,y] .
交代性
𝔤 の全ての元 テンプレート:Mvar に対し、
[x,x]=0 .
ヤコビ恒等式
𝔤 の全ての元 テンプレート:Mvar に対し、
[x,[y,z]]+[z,[x,y]]+[y,[z,x]]=0 .

双線型性と交代性により、反交換関係、すなわち、𝔤 の全ての元 テンプレート:Mvar に対し、テンプレート:Math が成り立つ。逆に、反交換関係は、体の標数テンプレート:Math ではないとき、交代性があることを意味するテンプレート:Sfn

𝔤 のように、普通、リー代数はフラクトゥールの小文字で表される。リー代数がリー群に付随していると、リー代数のスペルはリー群と同じにする(書体は異なる)。例えば、特殊ユニタリ群テンプレート:Math のリー代数は 𝔰𝔲(n) と書かれる。

生成子と次元

リー代数 𝔤 の元からなる集合が生成子であるとは、その集合を含む 𝔤 の最小のリー部分代数が全体 𝔤 と一致することである。リー代数の 次元は、𝔽 上のベクトル空間としての次元で定める。リー代数の生成集合の最小個数は、常に次元以下である。

準同型、部分代数、イデアル

必ずしも [[x,y],z][x,[y,z]] とが等しいとは限らないので、一般にはリーブラケットは結合法則を満たさない。しかし、結合的な結合多元環の理論での用語の多くは、リー代数でも共通して使われる。リーブラケットで閉じている部分空間 𝔥𝔤リー部分代数 (テンプレート:En) と呼ぶ。部分空間 I𝔤 がより強い条件

[𝔤,I]I

を満たすとき、テンプレート:Mvar をリー代数 𝔤イデアルと言う[注 2]。(同じ係数体の上の)リー代数の間の準同型とは、𝔤 の全ての元 テンプレート:Mvar に対し、交換関係が

f:𝔤𝔤,f([x,y])=[f(x),f(y)]

と整合している線型写像を言う。リー代数 𝔤 とイデアル テンプレート:Mvar が与えられると、環の理論のように、イデアルはちょうど準同型のであり、商代数 (テンプレート:En) 𝔤/I を構成することができ、リー代数に対しても同型定理が成り立つ。

テンプレート:Mvar𝔤 の部分集合とする。テンプレート:Mvar の全ての元 テンプレート:Mvar に対し [x,s]=0 となるような元 テンプレート:Mvar 全体の集合は、テンプレート:Mvarテンプレート:仮リンク (テンプレート:En) を構成する。𝔤 自身の中心化代数は、𝔤中心と呼ばれる。中心化と同様に、テンプレート:Mvar の全ての元 テンプレート:Mvar に対し [x,s]テンプレート:Mvar の元となるような テンプレート:Mvar の集合は、テンプレート:Mvar の部分代数を構成する。この部分代数は テンプレート:Mvar正規化部分代数 (normalizer of テンプレート:Mvar) と呼ばれるテンプレート:Sfn

直和

2 つのリー代数 𝔤𝔤 が与えられると、それらの直和は、x𝔤x𝔤 の対 (x,x) からなるベクトル空間 𝔤𝔤 であり、リーブラケットは

[(x,x),(y,y)]=([x,y],[x,y]),x,y𝔤,x,y𝔤

で定めるテンプレート:Sfn

性質

包絡代数を持つ

テンプレート:See also 乗法 テンプレート:Math を持つ任意の結合代数 テンプレート:Mvar に対し、リー代数 テンプレート:Math を構成できる。ベクトル空間としては、テンプレート:Mathテンプレート:Mvar と同じである。テンプレート:Math の 2 つの元のリーブラケットは、テンプレート:Mvar における交換子として定義される。すなわち

[a,b]=a*bb*a.

テンプレート:Mvar の乗法 テンプレート:Math の結合性は、テンプレート:Math の交換子のヤコビ恒等式を意味する。例えば、体 テンプレート:Mvar 上の テンプレート:Math 行列の結合代数から、テンプレート:仮リンク 𝔤𝔩n(F) が生じる。結合代数 テンプレート:Mvar をリー代数 テンプレート:Math包絡代数 (テンプレート:En) と呼ぶ。全てのリー代数はこのようにして結合代数から作られたリー代数へ埋め込むことができる。普遍包絡代数を参照。

表現

ベクトル空間 テンプレート:Mvar が与えられたとして、𝔤𝔩(V)テンプレート:Mvar の全ての線型自己準同型からなる結合代数から生じるリー代数を表すとする。リー代数 𝔤テンプレート:Mvar 上の表現 (テンプレート:En) とは、リー代数の準同型

π:𝔤𝔤𝔩(V)

である。

表現は、核が自明のときに、忠実 (テンプレート:En) であるという。全ての有限次元リー代数はある有限次元ベクトル空間上の忠実な表現を持っている(テンプレート:仮リンク[1]

例えば、ad(x)(y)=[x,y] により与えられる

ad:𝔤𝔤𝔩(𝔤)

は、随伴表現と呼ばれる、ベクトル空間 𝔤 上の 𝔤 の表現である。リー代数 𝔤 (実は任意の非結合的代数でもよい)の上のテンプレート:仮リンクとは、ライプニッツ則、すなわち、𝔤 のすべての元 テンプレート:Mvar に対して

δ([x,y])=[δ(x),y]+[x,δ(y)]

が成り立つような線型写像 δ:𝔤𝔤 のことである。ヤコビ恒等式より、任意の テンプレート:Mvar に対し、ad(x) は微分である。従って、ad の像は、𝔤 上の微分からなる 𝔤𝔩(𝔤) の部分代数 Der(𝔤) に含まれる。ad の像に属する微分は、内部微分 (inner derivation) と呼ばれる。𝔤半単純であれば、𝔤 上の全て微分は内部微分である。

ベクトル空間

部分空間

実行列群

𝔤 のリーブラケットは行列の交換子により与えられる。具体的な例として、成分が実数で行列式が 1 の n × n 行列からなる特殊線型群 SL(n, R) を考える。これは行列リー群であり、そのリー代数は、実数を成分とするトレースが 0 の n × n 行列全体からなる。

3次元

[x,y]=z,[x,z]=0,[y,z]=0
この代数は、3×3 の狭義上三角行列全体からなる空間に、リーブラケットを行列の交換子によって与えたものとして、明示的に構成される。
x=[010000000],y=[000001000],z=[001000000]
したがって、ハイゼンベルク群の任意の元は、群の生成元、すなわちリー代数のこれらの生成元の、行列指数関数の積
[1ac01b001]=ebyeczeax
として表現可能である。
  • 量子力学における角運動量演算子の x, y, z 成分の間の交換関係は、𝔰𝔲(2)𝔰𝔬(3) のそれと同じである:
[Lx,Ly]=iLz,
[Ly,Lz]=iLx,
[Lz,Lx]=iLy.

但し、物理学の慣例により、リー代数の元に因子 テンプレート:Math を乗じた関係式を用いている。角運動量演算子の問題は、このリー代数の全ての有限次元表現を求めることに帰着する。

無限次元

  • 無限次元実リー代数の重要なクラスは、微分トポロジーで生じる。可微分多様体 M 上の滑らかなベクトル場の空間はリー代数をなす。ここでリーブラケットはベクトル場の交換子として定義される。リーブラケットを表現する1つの方法は、リー微分の形式化によるものである。ベクトル場 X を滑らかな関数上に作用する一階の偏微分作用素 LX と次のようにして同一視する、すなわち LX(f) を関数 fX の方向の方向微分とする。2つのベクトル場のリーブラケット [X, Y] は次の式による関数へのその作用を通じて定義されるベクトル場である:
L[X,Y]f=LX(LYf)LY(LXf).

構造論と分類

リー代数は、ある程度、分類することが可能である。特に、このことはリー群の分類に応用される。

可換性、冪零性、可解性

導来部分群のことばで定義される、可換群、冪零群、可解群と同様に、可換、冪零、可解リー代数を定義することができる。

リー代数 𝔤可換テンプレート:Anchors (abelian) であるとは、リーブラケットが消えていること、すなわち、𝔤 の全ての元 xy' に対して [x, y] = 0 となることをいう。可換リー代数は、ベクトル空間 Knトーラス Tn のような、可換連結リー群に対応していて、すべて 𝔨n の形である、つまり自明なリーブラケットをもつ n 次元ベクトル空間である。

リー代数のより一般的なクラスは、与えられた長さのすべての交換子が消えることによって定義される。リー代数 𝔤 が、冪零 (nilpotent) とは、テンプレート:仮リンク

𝔤>[𝔤,𝔤]>[[𝔤,𝔤],𝔤]>[[[𝔤,𝔤],𝔤],𝔤]>

が有限回でゼロに達することを言う。エンゲルの定理により、リー代数が冪零であることと、𝔤 の全ての元 u に対し、随伴自己準同型

ad(u):𝔤𝔤,ad(u)v=[u,v]

が冪零であることは同値である。

さらにより一般的なものとして、リー代数 𝔤可解 (solvable) であるとは、導来列

𝔤>[𝔤,𝔤]>[[𝔤,𝔤],[𝔤,𝔤]]>[[[𝔤,𝔤],[𝔤,𝔤]],[[𝔤,𝔤],[𝔤,𝔤]]]>

が有限回でゼロに達することを言う。

全ての有限次元リー代数は、テンプレート:仮リンク (radical) と呼ばれる一意的な極大可解イデアルを持つ。リー対応の下、連結なべき零リー群、連結な可解リー群はそれぞれ、べき零、可解リー代数に対応する。

単純性と半単純性

テンプレート:Main リー代数が単純 (simple) とは、非自明なイデアルを持たず、可換でないときを言う。リー代数 𝔤半単純とは、根基がゼロであるときを言う。同じことであるが、𝔤 が半単純とは、ゼロでない可換イデアルを持たないときを言う。特に、単純リー代数は半単純である。逆に、任意の半単純リー代数は、その極小イデアルの直和であることが証明できる。この極小イデアルは、自然に決定される単純リー代数である。

リー代数の半単純性の概念は、リー代数の表現の完全可約性(半単純性)と密接に関連している。基礎体 F標数が 0 のとき、半単純リー代数の任意の有限次元表現は半単純(つまり、既約表現の直和)である。一般に、リー代数がテンプレート:仮リンク(reductive)とは、随伴表現が半単純であるときを言う。したがって、半単純リー代数は簡約である。

カルタンの判定条件

テンプレート:仮リンクは、リー代数がべき零、可解、あるいは半単純であるための判定条件を与える。この判定条件は、キリング形式の考え方を基礎としている。キリング形式とは、

K(u,v)=tr(ad(u)ad(v))

で定義された、𝔤 上の対称双線型形式である。ここで tr は線型写像のトレースを表す。リー代数 𝔤 が半単純であることと、キリング形式が非退化であることは同値であるテンプレート:Sfn。リー代数 𝔤 が可解であることと、K(𝔤,[𝔤,𝔤])=0 であることとは同値である。

分類

テンプレート:仮リンクは、任意のリー代数を、可解な根基と半単純リー代数の半直和として、ほぼ標準的に表す。さらに、代数的閉体上の半単純リー代数は、ルート系を通して完全に分類されている。しかし、可解リー代数の分類は「手に負えない」問題であり、一般には完成できないテンプレート:Clarify

リー群との関係

リー代数は多くの場合それ自体で研究されているが、歴史的にはリー群の研究のための方法として生まれた。

リーの基本定理は、リー群とリー代数の関係を記述している。特に、任意のリー群はリー代数を標準的に決定し(具体的には、単位元における接空間)、逆に任意のリー代数に対し、対応する連結リー群が存在する(テンプレート:仮リンクテンプレート:仮リンクを参照)。このリー群は一意には決まらないが、同じリー代数をもつ任意の2つの連結リー群は局所同型であり、特に同じ普遍被覆を持つ。例えば、特殊直交群 テンプレート:仮リンク特殊ユニタリ群 テンプレート:仮リンク からは、同じリー代数が生じる。これはクロス積をもつ R3 に同型である。一方、SU(2) は SO(3) の単連結な二重被覆である。

リー群が与えられると、リー代数を次のいずれかの方法によって結びつけることができる。単位元における接空間随伴写像微分を与えるか、あるいは、例の中で述べたように、左不変ベクトル場を考える。実行列群の場合、リー代数 𝔤 は、全ての実数 t に対し exp(tX) ∈ G となるような行列 X 全体から構成される。ここに exp は行列の指数関数である。

リー群に付随するリー代数の例を挙げる。

  • GLn() のリー代数 𝔤𝔩n() は、複素 n×n 行列全体からなる代数である。
  • SLn() のリー代数 𝔰𝔩n() は、トレースが 0 である複素 n×n 行列の代数である。
  • O(n) のリー代数 𝔬(n) と、群 SO(n) のリー代数 𝔰𝔬(n) は、いずれも実反対称 n×n 行列の代数である。(議論は交代行列#無限小回転を参照。)
  • U(n) のリー代数 𝔲(n) は、歪エルミート複素 n×n 行列の代数であり、他方、SU(n) のリー代数 𝔰𝔲(n) は、トレースが 0 の歪エルミート複素 n×n 行列の代数である。

上記の例では、(リー代数の行列 XY に対する)リーブラケット [X,Y][X,Y]=XYYX として定義する。

生成子 Ta の集合が与えられると、構造定数 f abc は、生成子の対のリーブラケットを生成子の線型結合として表す、すなわち テンプレート:Math.構造定数はリー代数の元のリーブラケットを決定し、したがってリー群の群構造をほぼ完全に決定する。単位元の近くのリー群の構造は、テンプレート:仮リンクにより明示的に表される。この公式は、リー代数の元 テンプレート:Math とその(入れ子になった)リーブラケットによる展開によって単一の冪で表す: テンプレート:Math.

リー群からリー代数への写像は関手的である。これはリー群の準同型がリー代数の準同型に持ち上がることを意味し、様々な性質がこの持ち上げによって満たされる。合成と可換であり、リー群の部分リー群、核、商、余核をそれぞれリー代数の部分代数、核、商、余核に写す。

各リー群をそのリー代数に写し、各準同型をその微分へ写す関手 L は、忠実かつ完全である。しかしながら、圏同値ではない。異なるリー群が同型なリー代数を持つかもしれず(例えば SO(3)SU(2))、また、いかなるリー群にも伴わない(無限次元の)リー代数が存在するからである[3]

しかしながら、リー代数 𝔤 が有限次元のときは、𝔤 をリー代数としてもつ単連結リー群が存在する。より正確には、リー代数の関手 L は、有限次元(実)リー代数からリー群への左随伴関手 Γ を持っていて、単連結リー群の充満部分圏を通して分解する[4]。言い換えると、双関手の自然同型

Hom(Γ(𝔤),H)Hom(𝔤,L(H))

が存在する。随伴 𝔤L(Γ(𝔤))Γ(𝔤) 上の単位元に対応させる)は同型射であり、他の随伴 Γ(L(H))H は、H の単位元成分の普遍被覆群から H への射影準同型である。このことから直ちに次のことが従う。G が単連結であれば、リー代数関手は、リー群の準同型 GH たちとリー代数の準同型 L(G) → L(H) たちの間の全単射を確立する。

上記の普遍被覆群は指数写像によるリー代数の像として構成することができる。より一般的に、リー代数は単位元の近傍同相である。しかし大域的には、リー群がコンパクトであれば指数写像は単射ではなく、リー群が連結、単連結、あるいはコンパクトでなければ、指数写像は全射とは限らない。

リー代数が無限次元であれば、問題はより微妙なものとなる。多くの例では、指数写像は局所的にさえ同相写像でない(例えば、テンプレート:Math において、テンプレート:Math の像に入らないような単位元にいくらでも近い微分同相写像を見つけることができる)。さらに、無限次元リー代数には、どんな群のリー代数でもないようなものがある。

リー代数とリー群の間の対応はいろいろなことに使われる。例えば、テンプレート:仮リンクや、それに関連してリー群の表現論の問題。リー代数の全ての表現は、対応する連結で単連結なリー群の表現に一意的に持ち上がり、逆に、任意のリー群のすべての表現は、そのリー群のリー代数の表現を誘導する。表現は 1 対 1 に対応する。従って、リー代数の表現を知ることで、群の表現の問題が解決される。

分類に関しては、与えられたリー代数をもつ任意の連結リー群は普遍被覆をある離散的な中心的部分群で割ったものに同型であることを示すことができる。従って、リー群の分類は、リー代数の分類が分かってしまえば(半単純な場合は、カルタンらにより解かれた)、単純に中心の離散部分群を数えあげる問題となる。

圏論的な定義

圏論のことばを使うと、リー代数は、Veck [., .]: AAA を伴った対象 A として定義できる。ここで Veck は標数が 2 ではない体 k 上のテンプレート:仮リンクであり、⊗ は Veck の次のようなモノイド積を表す。

  • [,](id+τA,A)=0
  • [,]([,]id)(id+σ+σ2)=0

ここに、τ (a ⊗ b) := b ⊗ a であり、σ は (id ⊗ τA,A) ° (τA,A ⊗ id) を組み上げるテンプレート:仮リンクである。テンプレート:仮リンクにすると以下のようになる。

リー環 (Lie ring)

数学における(狭義の)リー環[注 3](リーかん、テンプレート:Lang-en-short)はリー代数とよく似た構造で、リー代数を一般化した代数的構造と見ることもできるが、テンプレート:仮リンクの研究においても自然に生じてくる。

リー環と関連する概念としてリー群リー代数があるが、(が加法に関してになるのとは異なり)リー環は加法に関して必ずしもリー群を成さず、他方で任意のリー代数はリー環の例である。任意の結合環交換子括弧積 [x,y]=xyyx を考えればリー環になる。逆に、任意のリー環には普遍包絡環(普遍展開環)と呼ばれる結合環を対応させることができる。

リー環は、テンプレート:仮リンクを通じてp-群の研究に用いられる。p-群の降中心因子は有限アーベル p-群だから、これを Z/pZ 上の加群と見ることができる。降中心因子すべての(加群としての)直和には、2つの剰余類の括弧積を代表元の交換子積を代表元とする剰余類を割り当てるものと定義して、リー環の構造を入れることができる。このリー環は、もう1つ p-乗冪写像と呼ばれる加群の準同型によって豊饒化することができ、そうして得られたリー環がいわゆる制限リー環である。

リー環をリー代数の類似と見る立場からは、p-進整数環のような整数環上のリー代数の研究などを通じて、p-進解析的な位相群やその自己準同型を定義するのにもリー環は有用である。シュヴァレーによるリー型の有限群の定義は、複素数体上のリー代数を有理整数環上に係数制限し、さらに法 p で割って考えることにより有限体上のリー代数を得るものである。

厳密な定義

リー環ヤコビ恒等式を満足する交代的な乗法を持つ非結合環として定義される。より具体的に述べれば、リー環 L = (L, +, [·,·]) はアーベル群 (L, +, 0) の構造を持ち、以下の性質:

  • 双加法性: [x+y,z]=[x,z]+[y,z],[z,x+y]=[z,x]+[z,y](x,y,zL)
  • ヤコビ恒等式: [x,[y,z]]+[y,[z,x]]+[z,[x,y]]=0(x,y,zL)
  • 複零性: [x,x]=0(xL)

を満たす二項演算 [,] を備えるものを言う[注 3]

2つのリー環 L1, L2 の間の写像 f: L1L2 がリー環準同型であるとは、それがリー環の2つの演算を保つときにいう。即ちリー環準同型 f

f(x+1y)=f(x)+2f(y)f([x,y]1)=[f(x),f(y)]2(x,yL1)

を満たす(演算の下付き添字はそれぞれの空間における演算であることを示す)。

  • の代わりに一般の可換環上で考えた任意のリー代数はリー環の例である。リー環とは言うものの、リー環は加法に関してリー群になるというわけではない。
  • 任意の結合環は(加法はそのままで積を)括弧積と呼ばれる演算 [x,y]=xyyx に取り換えることによりリー環になる。
  • 群論から生じるリー環の例を挙げよう。群 G とその上に交換子積 (x,y)=x1y1xy を考え、
    G=G0G1G2Gn
    G中心列とする(このとき、各 i, j について交換子部分群 (Gi,Gj)Gi+j に含まれる)。ここで
    L=Gi/Gi+1
    と置けば、L の直和成分ごとの群演算(各直和因子はそれぞれアーベル群であることに注意)を加法とし、括弧積を
    [xGi,yGj]=(x,y)Gi+j 
    を線型に拡張したもので定めて L はリー環になる。ここで、交換子の定める括弧積が、リー環で言うところの括弧積の性質を持つことに、列の中心性が効いてくることに注意。

関連項目

テンプレート:Col-begin テンプレート:Col-1-of-2

テンプレート:Col-2-of-2

テンプレート:Col-end

脚注

注釈

テンプレート:Reflist

出典

テンプレート:Reflist

参考文献

テンプレート:参照方法

和書:

  • 松島与三:「リー環論」、共立出版(1956年12月).
  • ブルバキ(著)、杉浦光夫(編・訳):「リー群とリー環」全3巻、東京図書、ISBN(4-48900211-4、4-48900212-2、4-48900213-0),(1968年12月~1973年5月).
  • 佐武一郎:「リー環の話」、日本評論社、ISBN 4-535-78157-5 (1987年6月10日).
  • テンプレート:Cite book
  • 東郷重明:「無限次元リー代数」、槇書店、ISBN 4-83750585-6 (1990年3月).
  • 佐藤肇:「リー代数入門 : 線形代数の続編として」、裳華房、ISBN 978-4-78531523-8 (2000年10月).
  • 谷崎俊之:「リー代数と量子群」、共立出版、ISBN 4-320-01692-0 (2002年4月).
  • 脇本実:「無限次元リー環」、岩波書店、ISBN 978-4-00-006048-6 (2007年7月).
  • 窪田高弘:「物理のためのリー群とリー代数」、サイエンス社(SGCライブラリ66)、(2008年9月).
  • 竹内外史:「復刊 リー代数と素粒子論」、裳華房、ISBN 978-4-78531038-7(2010年9月).
  • H. ジョージァイ(著)、九後汰一郎(訳):「物理学におけるリー代数:アイソスピンから統一理論へ」、吉岡書店、ISBN 978-4-84270357-2 (2010年10月).
  • 井ノ口順一:「はじめて学ぶリー環:線型代数から始めよう」、現代数学社、ISBN 978-4-76870471-4 (2018年2月).
  • 山下博:「表現論入門セミナー[新装版]第II巻:リー代数と表現論」、日本評論社、ISBN 978-4-535-78969-2 (2022年9月).

外部リンク

テンプレート:Normdaten


引用エラー: 「注」という名前のグループの <ref> タグがありますが、対応する <references group="注"/> タグが見つかりません

  1. テンプレート:Harvnb
  2. Humphreys p. 2
  3. テンプレート:Harvnb
  4. 随伴性は、Hofman & Morris (2007) (e.g., page 130) においてより一般的な文脈で議論されるが、例えば Bourbaki (1989) Theorem 1 of page 305 and Theorem 3 of page 310 からすぐ出る結果でもある。